音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■素晴らしい展覧会、対決巨匠たちの日本美術■

2008-08-14 16:59:04 | ■楽しいやら、悲しいやら色々なお話■
■素晴らしい展覧会、対決巨匠たちの日本美術■
   ~蕪村とインヴェンションの関係~
            08.8. 14    中村洋子

★窓の網戸に、セミが停まって鳴いております。

夏休み、いかがお過ごしでしょうか。

私は、二日続けて、東京国立博物館・平成館で開催中の

『対決、巨匠たちの日本美術展』に、行ってまいりました。

大雅対蕪村、宗達対光琳、歌麿対写楽、円空対木喰など、

見応え十分。

最高の作品揃いで、“対決”という下品なキャッチコピーにも、

目をつぶります。

8月17日(日)まで開催です。
 

★特に、私のお目当ては、蕪村(1716~83)の

水墨画「夜色楼台図」です。

この作品をいままで、いろいろな美術全集で

穴が開くほど、見てまいりました。

以前、サックスとピアノのための「夜色楼台図」を作曲し、

昨年のクリスマスには、これを、無伴奏チェロのために編曲し、

ベッチャー先生にお送りいたしました。

先生もとても気に入られ、すぐに家でお弾きになり、

細かいアドバイスもいただきました。


★本物を見るのは、今回が初めてでした。

心がときめきます。

印刷では分からない墨の色について、大きな発見がありました。

特に、画面中央にある大きな楼閣、その右上の、

山の稜線上に描かれた「大きな黒い塊」の色について、です。

稜線は雪にすっぽり覆われています。

その黒い塊は、深々とした夜の闇を表現していますが、

その墨の黒が、深い群青に見えることに驚きました。

印刷された画集では、出せない色です。


★私は、「サックスとピアノのためのコンサート」の

プログラムに、この絵を、イラスト的に写して描きました。

その後も二、三度この絵を写してみることがありました。

音楽でいいますと、バッハの「インヴェンション」を

写譜することと、同じなのではないか、と思います。


★ですから、会場で本物に接した時、手にとるように、

蕪村の意図、音楽用語でいうところの、モティーフ(動機)の展開、

その手法が、分かりました。


★画面中央の楼閣を頂点とするため、

右側の家々の屋根は、低く這いつくばり、

菱形の屋根が、水平に並んでいます。

左側の家々は、山の斜面にあり、雪に埋もれています。

中央楼閣の真下の家々のみが、雛祭りの菱餅のように、

はっきりとした菱形の屋根に描かれています。


★中央の楼閣は、ほんのりと「橙色」が指しています。

そして、そのすこし右上に、先ほどの「深い群青の黒い塊」が

大きな存在感をもって、稜線に座っています。

見る人の視線が、この楼閣に自然に落ち着くように、

計算されています。

水墨画でありながら、色彩感に満ちています。


★写譜(絵を写す)ことを、していなければ、

もっと散漫な見方に、なったことでしょう。

写譜で、構図が手の内に入っていたので、

絵を見る醍醐味に、達することができました。


★この展覧会では、2008年春に初めて、公にされた

蕪村の「山水図屏風」も出展されています。

まだ一般には有名でありませんが、おそらく、

彼の最高傑作と、私には思われます。


★天明2年(1782年)、蕪村の死の前年、68歳の大作です。

六曲一双で、夏を描いた右隻では「夏」を描き、力に満ちています。

左隻では、「秋、冬」を描いていますが、静かな世界です。

この「秋、冬」は、死期の近づいた蕪村が、

これから辿る自分の途を、思い描いたのでしょうか。


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