リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ペグの調整

2005年09月02日 10時13分39秒 | 音楽系
ペグというのはリュートの弦を巻くつまみのことです。(本当はそのつまみがついている先の軸の部分も指しますが)これの調整がリュートの調弦を早く正確にするポイントの一つです。でもそのためにはまずペグとその軸受けの精度が正確である必要があります。最初はきちんと工作していても何年か経つと狂ってくることもあります。

材質はどんなものがいいのかは結構いろいろ意見があるようです。ローズウッドのように難い材質がいいという意見もあれば,さくっとした軽い木の方がいいという意見もあります。今まで使ってきた経験ですと,さくっとした木の方がいい感じがしますが,ローズでもすごく調子のいいのもあります。

ペグの軸がいくらいい材質で高い精度で作られていてもそのままではまず上手く機能しません。ちょうどギアに油をささなければならないのと同じで,ペグの軸にペグコンポジションという潤滑油の働きをするものを塗ります。このペグコンポジションのかわりに石鹸や石質,ベビーパウダーなどを使う人がいますが,今までの経験でペグコンポジションで調整するのが一番うまくいくようです。

で,どの程度までスムーズにするのかというと,それはもう限りなくスムーズになるまで調整します。このあたりの諒解内容が製作家と異なるときがあります。ある製作家は一定のスピードで動いたらそれで調整完了としていますが,実はそれではだめなんです。その場合スピードを限りなくゼロに近い状態で回すと,カクッカクッとしかペグが回らないことが多いのです。そういうまわり方をするということは音程が段階的にしか変化をせず,正確な調弦は不可です。リュートはナットのところが急角度なので弦の抵抗が大きくただでさえリニアに弦を巻きにくいのに,ペグがスムーズに回らないのではもう音程が合うのは偶然にすぎなくなるのです。ペグ調整の目安は限りなく巻くスピードを落としてもペグが無段階に回ること,です。酒樽の栓ならもう少しラフなレベルでも酒を飲むことができますが,1セントや2セント(1セントは半音の百分の一)というレベルの調整が必要な楽器はそのレベルでないとだめなんです。

今まで買った楽器の中でペグの調整が完璧だったのは,実はアレクサンダー・バトフが作ったバロック・ギターだけでした。3月に買ったモーリスの楽器も何度も調整してやっと「金属ギア並」になりました。先に諒解内容が製作家と異なると書いたのはこのことなんです。悪いことに初心者用の安い楽器になればなるほど,ペグまわりの精度がだめなんですよね。ただでさえ調弦が苦手な初心者にさらに負担をしいるわけですから困ったものです。私が初心者にも金銭的に余裕があるのなら,最初からプロが使う楽器を買いなさいとすすめているのは一つにはこのことがあるからです。

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