リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バス弦戦国時代(6)

2024年05月13日 13時51分30秒 | 音楽系

アントニー・ベイルズがアルバム「D. ゴーティエ/E. ゴーティエ:17世紀フランスのリュート作品集」で使っているバス弦が多分昔のバス弦を再現しているレベルの性能を持っていると思いますが、これはあくまでも特別製ですので市販はされていません。ここで使われているローデドガット弦はアキラ社のミッモ・ペルーッフォがアントニー・ベイルズのために製作した弦です。これを市販すれば多分売れるでしょうけど、そうしないところをみると恐らく製作にべらぼうな手間がかかるか歩留まりが非常に悪いからなんでしょう。

アントニー・ベイルズによるこのアルバムでは昔の復元リュートが使われています。復元リュートと最も再現性の高いガット弦による氏の生演奏を聴くことができると一番いいのですが、氏の演奏はバーゼルに住んでいてもそう頻繁には聴けません。それに今もお元気なのかもよくわかりませんし。

氏はバーゼルの郊外に居を構え、どこかの教育機関に属するでもなく派手な演奏活動を行うわけでもなく、まるで仙人のように演奏家生活をしている人です。少なくともバーゼルに私が住んでいたときはそういう印象でしたし、実際にお目にかかったときもそういう印象は変わりませんでした。そのたたずまいから思わず、Mr. Bailes と呼びかけてしまいました。バーゼル・スコラカントルムではアメリカ風なのかどうかは知りませんが、先生でもファーストネームで呼ぶのが普通です。ホプキンソン・スミスはホピー、アントニー・ルーリーはトニー、エヴリン・タブはエヴリン、クラウフォード・ヤングはセカンド・ネームからボブと呼んでいました。でもアントニー・ベイルズには気軽にトニーとは呼べない雰囲気が漂っていました。