リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

大誤解の世界(2)

2022年01月27日 08時24分55秒 | 音楽系
西洋音楽の歴史を遡り、きちんと文献を踏まえきちんと音楽を再構築できるのは14世紀いっぱいだと言われています。それ以前になると断片的な資料しかなく、「想像」「創造」の部分がかなり多くなります。

正倉院に残されている箜篌という楽器がありますが、どんな音楽を奏でていたのかというのは具体的にはわかりません。楽譜も残っていないようです。奏法は楽器復元さえしっかりしてれば、楽器がある程度は教えてくれるのですが。実際には調弦もテンペラメントも何も分かっていません。弦の素材も分かりません。ずっと後世のバロック・リュートのバス弦だってよくわかっていないのですから。それに復元と言っても外観はともかく内部構造とか接着、塗装のレベルまでは難しいでしょう。(楽器としてはそこが肝心なのですが)

西洋の13世紀以前の音楽だと称する音楽は、復元箜篌を使って、これが箜篌の音楽でございと称して何か適当に曲を演奏するのと同じレベルで、実際は当時のものとはかなり異なったものである可能性が大です。

もちろん文献(楽譜)資料を駆使して再構築しても当時と全く同じものが再現されるわけではありませんが、方向的にはかなり近いものが聴けるはずです。これはもっと後のルネサンスやバロックの時代の音楽に対するアプローチと同じです。

中世から初期ルネサンスの音楽をきちんと研究して演奏家レベルにある音楽家はとても少ないです。私の知る限りではバーゼル・スコラ・カントルムで研究、音楽活動している人しかいないようです。私がスコラにいた頃は、中世リュートのボブ先生とその弟子のマークたちが活発に活動していました。日本人リコーダー奏者の矢板さんも一緒に活動していました。