ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

家庭でも楽しめる「ボルドーワインと和食を科学する」

2015-12-02 09:01:31 | ワイン&酒
「ボルドーワインと和食を科学する」と題したプレゼンテーションが、10月に都内でボルドー委員会の主催により開催されました。
大変遅ればせながらなのですが、その際のリポートをアップします。

ちょうど昨日 “ユニオン・デ・グラン・クリュ・ド・ボルドー”を、先日は“クリュ・ブルジョワ・デュ・メドック”を紹介し、いい感じでボルドー続きになりましたので、興味がある方はそちらの記事もご覧ください。



ボルドーはフランスを代表する産地のひとつで、7500の生産者 、300のネゴシアンがいます。
赤ワインの生産量が最も多いですが、辛口白、甘口白、ロゼワイン、スパークリングワインもあり、どれも品質が期待できる産地です。

今回はボルドーワインと和食のマリアージュを、京都の日本料理店「木乃婦」の店主である高橋拓児さんが料理の実演を行ないながら解説してくれました。

高橋さんのマリアージュセミナーは、今年の8月に田崎真也さんとも開催しています。
そちらのリポートも参考にしてください。

この日は、ボルドー第二大学で醸造学の博士号を取得し、ブドウ栽培・ワイン醸造研究所(ISVV)のエノログ(醸造博士)であるヴァレリー・ラヴィーニュ=クリュエジュさんも来日して臨席し、テクニカルな解説を中心に話をしてくださいました。


左)高橋拓児さん  右)ヴァレリー・ラヴィーニュ=クリュエジュ醸造学博士


ボルドーワインに合う和食を高橋さんが実演して作り、それを我々が試食しながらワインを合わせます。

まずは一皿め。


和梨、巨峰、柿、西瓜の奈良漬の白和え

フレッシュで香りの甘い梨、巨峰、柿に、塩分を含む発酵食品の奈良漬を組み合わせます。
白和えは、絹ごし灯具に白味噌、リコッタチーズで作っています。

合わせたのは、「ボルドーのさわやかな白ワイン」
「ソーヴィニヨン・ブランが主体の、エレガントでスッとしたワインで、やさしい草、柑橘が少々、少し軽い梨、熟れていないアプリコットのニュアンスを感じた」と高橋さん。

このワインの香りを列記してから、合わせる料理を考えたそうです。
料理に柚子の香りを加えるとワインに合わず、オレンジが入るとイタリアワイン的になってしまうので、香りを突出させない方がフランスワインに合わせやすいと考え、香りの柔らかな和梨などに行き着いたといいます。

奈良漬のふくよかな香りはワインとするそうで、コリコリとした食感も味わいのコントラスを作っています。この奈良漬は塩分もあります。通常、日本料理には塩分の強いものはないけれど、ワインに合わせるには塩分が必要と考え、奈良漬を選んだそうです。

甘みに関しては、料理に糖分が含まれているとワインの酸と合わず、タンニン分を強く感じてしまうので、しょうゆとみりんの量を半分から1/3に減らすとバランスがよくなるといいます。油分を足すのもいい方法です。


ボルドーの白ワインはソーヴィニヨン・ブランを使うものが多いですが、このブドウについてパネラー2人のコメントを紹介します。


高橋さん
青い香りが使いやすい。
すだち、ゆず、木の芽、木の皮、森の香り。トマトの葉を思わせるベジタルな感じがある。
樽のきいたシャルドネは使いにくいけれど、草の香りは料理の邪魔にならない。
ソーヴィニヨンは無理せず、和食に使いやすいワイン。
スダチやオレンジのニュアンスは和食に合わせやすい。


ヴァレリーさん
ソーヴィニヨンは実用的。さまざまな香りを出し、世界中で香りを研究されている品種。
吐き出したり、飲み込んだ時に香りが爆発的に出てくる品種。ソーヴィニヨンのブドウの実を噛んだ時にワインの味わいの予測がつく。
この香りは、発行の途中で酵素の働きにより、揮発性のものとして出てくる。
高橋さんが言ったベジタルな香りもソーヴィニヨンの香りのひとつ。香気に欠けるかもしれないけれど。しかし、それを複雑さのひとつとして保ちながらつくっている。こうした香りもソーヴィニヨンのオリジナリティのひとつだから。
ソーヴィニヨンは世界中のあちこちでつくられ、それぞれ複雑さを持っている。
白和えとさわやかな白ワインの組み合わせは、香りがいいが、ワインの酸が強く、料理を侵略していたので、味で不一致を感じた。
フランスでは、料理はワインの価値を引き立て、お互いに相乗効果があるもの。ワインが料理の良さを引き立てる。



実際に私も試してみましたが、フルーツの甘みと、味噌と奈良漬の塩気と甘みがワインともよく合うように感じました。
ヴァレリーさんの口には合わなかったようですが、食べなれたものであるかどうか、ということでも、マリアージュの感じ方が違ってくるように思います。
ですから、奈良漬や白和えを食べなれている日本人なら、この組み合わせはオススメです。


ヴァレリーさんの解説を付け加えておきます。

ボルドーでは白ワイン用のブドウの栽培面積は10%。
ソーヴィニヨンの他にセミヨン、ミュスカデルがある。
セミヨンは晩生で、香りも酸も控えめだが、味わいに風雑味を与える。
品種の組み合わせで色々なスタイルの白ワインができ、例えば、石灰質土壌なら酸がしっかりし、スモークのニュアンスがあるなど。
ボルドーの白ワインはアッサンブラージュがメインで、セパージュの組み合わせでオリジナリティのあるワインが生まれる。
右岸は石灰質が多く、左岸のメドックは河川の礫層が多く見られる。



鯖寿司 海苔包み

次は鯖(サバ)が登場しました。私も家で鯖の押し寿司を食べることがありますが、その時に合わせるワインで悩み、ビールを選んでしまいがちですが、高橋さんは「甘めの白ワイン」を合わせてきました。

 
側面にわさびを塗り、海苔で包み込んでいただきます 醤油はつけません

この時期(10月)の鯖は脂が少ないそうで、ベタ塩をして2時間置いて、2時間水に浸けて塩抜きしたものを棒寿司にしています。
鯖の塩気を、寿司めしの酸と甘さで緩和させるようにしたと高橋さんは言います。

基本的には、甘い食に甘いワイン。
よって、寿司めしの糖度とワインの糖度が同じか、ワインの糖度がやや低めが合い、同調する甘さだそうです。

鯖は香りに金属臭があるので、エーテルのような香り(ブランデーのようにふわっと香るもの)を合わせると、この金属臭がやわらかくなるようです。

合わせるワインには濃密なアロマがあり、アプリコットのニュアンス、とろみがあります。
甘みがしっかりしたワインで、個人的には、鯖の脂の部分がやや生臭く感じてしまいましたが、わさびと海苔の部分+寿司めしはワインと合ったと思います。また、今回は醬油はつけませんでしたが、ワインに甘みがあるので、醤油と合いそうな感じがしました。



金目鯛の煮付け  ※黒胡椒を添えて

たまり醤油を多めに使い、濃口醬油、みりん、酒で煮付けた金目は「ボルドーの重厚な赤ワイン」に。
メルロ主体で、なめらかでやさしい甘さのある赤ワインです。ヴィンテージは2010年。

金目はあっさりして甘さが少ないので、醤油のコクのある味とワインが合うように考えられています。
煮汁はトロトロになるまで煮詰めますが、金目の中まで味を入れず、ソース的に使うのがポイントだと高橋さんは言います。
赤ワインと料理のマリアージュでは、ソースがポイントになることが多いので、それを和食で作ることを想定したら、醤油が考え付いたそうです。
なお、金目は酸を好まない素材だそうです。

煮汁をソース的に使うと、きついソースと味の入っていない白身のバランスがよくなり、赤ワインとの相性がよくなる、というわけです。
添えられた黒胡椒も、赤ワインとの相性でいい働きをしています。

ここで醬油の“メイラード反応”の話が出ましたが、ぜひ田崎さんとのセミナー記事を読んでください。



マグロのづけの握り  ※溶き辛子で

たまり醬油と少量の赤ワインを加えた中に5分置いて漬けにした中トロの握りを、「ボルドーの重厚な赤ワイン」に合わせました。
今度はカベルネ・ソーヴィニヨン主体です。
漬け汁に赤ワインを入れることで香りを引っ張り、それが接点となって、赤ワインといいマリアージュを生み出すそうです。

高橋さんによると、マグロは元々酸味を持っているそうです。
カベルネとたまり醤油を組み合わせることで複雑味を出し、寿司めしを食べることで緩和させる効果があると言います。
だから、マグロだけ食べるより、ご飯がある方がワインと合わせておいしくなる、というので、試してみたところ、マグロだけだと少々生臭さが気になりましたが、寿司めしと一緒に食べ、ワインを飲むと、いい感じになります。




今回は4つの組み合わせを試しました


ワイン4本は「バリューボルドー100」2015年版から選ばれています

左から)上での紹介順 006(辛口白)、098(甘口)、084(赤)、091(赤) 
※バリューボルドー100(下記URL参照)
http://www.bordeaux.com/documents/100-Value-Bordeaux-2015_brochure.pdf



※「バリューボルドー100」は以前の記事を参考にしてください → コチラ



ここで、樽を使った白ワインについての高橋さんのコメントを紹介します。

樽を効かせたものは日本料理に合いにくいので、樽を使うなら熟成期間が長い方がよく、角が取れて丸くなってきた方が合わせやすい。
樽を使ったものは、濃い味のもの、脂肪分の多いもの、粘性のあるものと合わせやすい。コクを求めるイメージ。

基本的には、日本料理は、ステンレスでつくられたワインが合う。

草やグレープフルーツなどの解放的な香りがある白ワインは、解放的な食材が合う。

「糖は脳の栄養になり、タンパク質は筋肉増強のエネルギー源になり、これらは身体の機能性に直結し、本能的なものだが、香りは栄養になるものではない」と、高橋さん。
しかし、「香りを分析し、好ましい香りを集め、おいしく感じさせること、つまり、香りのコントロールが料理人には大事」。

私たちがワインと日本料理を合わせる際には、ワインの味わいに加えて、ワインの香りの分析も重要なポイントになってきます。
家庭でワインを楽しむ際には、この点も覚えておくといいですね。



最後に、2015年のボルドーの収穫状況ですが、
夏がいい天気に恵まれ、それに続く9月の好天が決め手となり、良いブドウが収穫できました。
よって、赤、白(辛口、甘口とも)、ロゼ、クレマン、どれも期待できるようです。



高橋さん、ヴァレリーさん、ありがとうございました!

コメント
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