ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

メルシャン「甲州きいろ香」10周年

2015-08-04 16:37:02 | ワイン&酒
日本の甲州ワインの歴史の中で、その独特のコンセプトで甲州ワインに一石を投じたといえる、「シャトーメルシャン 甲州きいろ香」ファーストヴィンテージ発売から今年で10周年を迎えました。



「甲州きいろ香」については、ここでも何度か取り上げてきましたが、甲州ブドウにおける柑橘香の発見から始動した、甲州ブドウの“香り”を追究する「甲州アロマプロジェクト」により誕生したワインです。

ブドウ栽培には欠かせないボルドー液(硫酸銅と生石灰を混合して生成する農薬の一種)ですが、これがブドウの果皮に残ると銅イオンがワインに残り、これが香り成分とくっつくとニュートラルなワインになってしまうことを避けるため、ボルドー液の使用軽減がメルシャンの仕込会議で検討されたのが、2002年12月でした。

翌2003年2月に山梨県勝沼の上野園でボルドーレスのトライアルが始まり、9月には試験醸造でグレープフルーツ様の柑橘香の発現が見られました。
そのサンプルを、フランスのボルドー大学に送付し、分析を依頼すると、甲州からソーヴィニヨン・ブランと同一のチオール化合物(3MH)の固定に成功したのです。

この成功を受け、同年12月に、製品化に向けた「甲州アロマプロジェクト」が始動しました。

2004年3月から、山梨県内の契約栽培農家にボルドーレス栽培を要請し、甲州ブドウの3MHを分析しながら収穫、仕込みを行ない、10月には3HMを多く含むワイン 「シャトー・メルシャン 甲州きいろ香 2004」が誕生しました。

「甲州きいろ香 2004」の発売は、2005年3月。
※4700本が2カ月で完売となったそうですよ
今年がちょうど発売10周年ですね。



この記念すべき10周年を受け、「シャトー・メルシャン」甲州ワインを利く会が先月プレス対象に都内で行なわれ、出席してきました。

メルシャンが甲州ワインとともに歩んできた歴史を振り返りながら、まずは、現在発売されている甲州ワインのラインナップを比較試飲しました。

1976年、ドイツにならったフレッシュ&フルーティーな甲州「勝沼ブラン・ド・ブラン」から始まり、1979年には、日本初の産地限定ワインであり甘口デザートタイプの「甲州鳥居平1975」が誕生します。

テーブルワインのはしりとなったのは、1984年に発売された日本初の甲州辛口ワインでシュル・リー製法の「甲州シュール・リー1983」でした。

その後は、小樽で仕込んだ「甲州小樽仕込み1992」が1993年に発売されます。
1990年半ば以降は、樽で仕込んだり、樽で熟成させるワインがあちこちで見られましたね。
正直言って、個人的には、この頃のような樽が前面に出た甲州は苦手でした。

2003年に「甲州グリ・ド・グリ2002」が登場した時は、嬉しい驚きでした。



グリ・ド・グリは、甲州の果皮からも成分を抽出し、ワインの色や味わいに表現しています。
このワインにも樽が使われていますが、長い期間は使用されません。

最新ヴィンテージ「甲州グリ・ド・グリ2014」(画像左)では、皮、種、実をすべて仕込み、ステンレスタンクとオーク樽で約20日間発酵後、オーク樽で4カ月育成しています。
ふっくらしたアタックで、ツルツルしたテクスチャーを感じます。酸味とうまみが共存し、ピュアで濃い味のワインでした。

過去のグリ・ド・グリの中には、スキンコンタクトを多くしたり、少なくしたり、味わいがほしい場合にはかもしを増やしたり、さまざまな試行錯誤を行ないながら仕込んできました。

上の画像の右のボトル(エチケットなし)は、2013年のグリ・ド・グリですが、無濾過で約300本のみ仕込んだものです。
ワインににごりが見られますが、、アタックがやわらかく、飲みごたえがあり、滋味なワインです。
これはメルシャンのワインギャラリー(山梨県勝沼)のみで発売するそうです。



漢字で縦書きに「甲州」と書かれたボトルは「シャトー・メルシャン 山梨勝沼甲州 2014」で、このワインだけスクリューキャップを採用しています。
ワインにつきもののコルク臭のトラブルを心配せず、昔ながらの甲州のよさをそのまま味わってもらえるよう、還元的にならないように(還元臭を出したくないため)つくっています。発酵も育成もステンレスタンクのみ。
フェノール類が蓄積しており、複雑味に寄与しているとか。

飲んでみると、甲州らしい香りがあり、味わいも厚みがあって飲みごたえがあり、“ザ・甲州”といった味わいが楽しめるワインでした。
これは好きです。

他には、収穫を待って糖度を充実させた「シャトー・メルシャン 勝沼甲州セレクテッド・ヴィヤーズ 2014」、糖度の上がる単一畑のブドウで仕込んだ「シャトー・メルシャン 穂坂甲州セレクテッド・ヴィヤーズ 2014」といった甲州のラインナップがあります。
それぞれ個性のある甲州ワインなので、シチュエーションによって選んだりするのもいいですね。




素晴らしいことに、10周年ということで、きいろ香のファーストヴィンテージを含むバックヴィンテージ最新ヴィンテージのキュヴェ違いも登場しました。

右3本は、きいろ香の2004年、2005年、2006年!

2004年はファーストヴィンテージで、4℃の冷蔵庫で保管されていたというものです。
アルコール度数は13.0%あります。この時は補糖をしていましたが、現在は天然の酸度を残し、補糖せずにブドウのポテンシャルを生かそう、というスタイルに変わっています。
飲んでみると、まだまだフレッシュで、グレープフルーツのビター感があり、キレイな酸が残っています。ほのかな甘さの余韻を感じます。
それにしても11年経っているとは思えない若々しさにびっくりです。

2005年は独特のアロマがあり、骨格もしっかりしています。2004年よりも熟成した感じがします。アルコール度数は12.8%。
2005年は酸素に触れさせないことを徹底させた年で、還元的につくっていこうとした始めの年だそうです。

2006年はエステル香が華やかで、フレッシュな酸があり、2004年に近いスタイルに感じました。加えて、皮の収れん味、骨格も感じました。アルコール度数は12.6%。


左2本は、きいろ香2014年のキュヴェ違いになります。
左は、山梨県甲府市七沢地区の複数の畑のブドウからつくる、通常のきいろ香で、
右は、山梨市勝沼の上野園の畑のブドウからつくる“キュヴェ・ウエノ2014”です。

通常キュヴェはフェノールの蓄積を避け、ブドウに笠かけをし(川が緑色になりフェノール類が減る)、バランスを考えたもの。収穫時期は9月上旬から中旬。
香りはスーッとした柑橘系で、酸がしっかりし、スッキリした味わいになります。

キュヴェ・ウエノは、畑の中から選び抜いたバラ房のブドウを9月中旬に収穫。
標高400mの畑で夜間に気温が下がり、酸度が下がりにくくなること、土壌が砂礫で水分ストレスがかかることが畑の特徴としてあります。
温州ミカンの香りが混ざり、ろ過していないので、味わい、ボリュームを出しています。

2つのキュヴェを飲み比べると、通常のキュヴェはふわりとデリケートで、ミネラル感があり、軽やかでチャーミング。
キュヴェ・ウエノは、酸が太く、骨格がキリリとし、より甲州らしい味わいだと感じました。



今回わかったのは、「甲州きいろ香」は、保存状態によっては、長期熟成が可能なワインだということ。

毎年1本ずつ買いため、数年後に飲み比べをするのも面白そうです。
甲州ワインファン、白ワインファンの方、このアイディアはいかがでしょうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする