拝島正子のブログ

をとこもすなるぶろぐといふものを、をんなもしてみむとてするなり

ばっちい、ばっちい愛しのマゼット(熟女のツェルリーナ)

2018-03-02 08:39:52 | 音楽
テレサ・ベルガンサといえば、マゼール指揮のドン・ジョヴァンニのオペラ映画でツェルリーナを歌っているのだが、これが異色。ツェルリーナはマゼットと婚約中の村娘という設定だから若いソプラノ歌手が演じることが多いのだが、この映画でのツェルリーナ(ベルガンサ)は熟女風。しかもメゾ。はじめ違和感を感じたが(当時は「新婚さんいらっしゃい」に出てくる新婚さんはみな若かった。今では70歳、80歳の新婚さんがざらにいるが)、でも考えてみれば、ツェルリーナは相当したたか。浮気(未遂)がばれそうになると、婚約者に「ぶって、ぶって」と急にMキャラになる(ここ「Batti,batti」を「ばっちぃ、ばっちぃ、愛しのマゼット」と言ってしまうと仲直りどころがマゼットの逆上は必定)。さらに、怪我をした婚約者の手を自分の胸にもってきて触らせる。これは若い娘ができる芸当ではない。だから、ツェルリーナとマゼットの関係は、正しくは、熟女にたらしこまれた若者の図、だ(私はいくらでもたらしこまれたいが、お相手の方々がもっと若い男がいいと言う)。音域についても。実はツェルリーナの音域は上から3番目。ドン・ジョバンニが地獄に落ちた後、このオペラを締めくくる素晴らしいアンサンブル(その溌剌さこそモーツァルトの真骨頂だと思う)では、まずソプラノ二人がユニゾンで歌いだし、それをツェルリーナが少し低い音域で受け継ぐ。しかも一人で。だから、ツェルリーナはメゾの音域での相当な実力が求められる。そう考えればベルガンサはぴったりだ。コシ・ファン・トゥッテでこの役に相当するのがデスピーナだが、こちらは、人生の酸いも甘いも知り尽くした女中さんって役だから、熟女で全然おかしくないし、実際そういう演出が多々ある。ツェルリーナに戻る。30年以上前、プラハオペラの公演で、この役を歌ったのがイジマ・マルコヴァー(昔覚えた歌手の名前は忘れない。今ではなかなか名前が入ってこない)。件のアンサンブルを歌い終えて、みんなでお手々をつないでお客さんにご挨拶とばかりマルコヴァーが隣のレポレロに手を伸ばす。ところが、このレポレロがかなりのベテランで、お前のような娘ごときと手などつないでたまるかと頑なに拒否していたのが印象的だった。