いっとき、たいそう出不精になった。原因の一つは距離。長距離の代表レースである春の天皇賞だって3200メートル。だが、綾瀬チャリ杯のコースは4000メートルである。いかにも長い。最近、特に帰り道で脚が止まるようになった。ここで人生の選択。その1。出走を控える。いくら運動になるといってもやり過ぎて体を壊したら元も子もない。「なんとかに冷や水」という格言もある。それに対して選択肢その2は出走を続ける。体のためには楽をしてはいけない、負荷がかかる程度がちょうどいい。もしここで出走をやめれば運動不足に陥りたちどころに成人病の餌食となる。そもそも疲労とは脳で感じるもの。脳が疲れるとやる気が失せるという。「幸せは自分の心が決める」という格言もある。ポジティヴ・シンキングで挑めば再び距離もこなせるはず。よし!2を選ぼう。こうして距離を克服しても、問題は残っている。寒さである。その昔ドイツの厳寒から私を守ったダウンジャケットは縫い目から羽毛をまき散らしていた。これを着て練習場には行けない。だが、これについては、既述した通り奮発してジャケットを新調してみたら、あらびっくり、これまで一本たりとも羽毛が飛び出てこない(高いものはいい、を実感したのは、若狭塗り箸に続いて二度目である。高級塗り箸は使っても使ってもきれい。因みに、購入した塗り箸は夫婦箸である。「本気度の見えない婚活」の中で唯一本気度を示した行動であった)。だが問題は残る。寒波がくると、ハンドルを握る手が手袋をしていてもちぎれそう。もっと寒くなると、耳も痛くなるはずである。だが、ジャケットの教訓があった。よいものを買えばいいのだ。ということで、防寒手袋を買い、ニット帽を買ったら、あらあなた、冬の夜のサイクリングが快適時間となった。逆に、せっかく揃えたんだからと外に出かけて行きたくなるほどである。こうして出不精の原因の二つ目も克服。先週末は、A合唱団、味噌煮込合唱団、麹味噌合唱団の3連チャンを完遂し、最後のドイツ・レクイエムが終わった後は、さすがにくたくただったが心地よい疲労。気分は最高であった。実は、私を再びに外に向かわせたモチベーションは他にもあって、一つは電車に乗るとキンドルで読書ができること、もう一つは、綾瀬駅前のパン屋さんでパンを買って帰ることである。そうして新装なったワタクシのいでたちはこんな具合。
だが、不満だ。帽子につばがついていて、これがうっとうしい。それから防寒手袋の色が派手派手でまるで騎手の勝負服だ。これではおしゃれ番長の名が泣く(ジャケットを一着新調しただけでもう「おしゃれ番長」を名乗るずうずうしさは、チェロを始めて間がないのにもうサンサーンスの白鳥を弾こうとする精神構造と共通である)。早速買換を考えている私である。それにしても、この風貌はいかにも不審者。身元がばれないのをよいことに生まれて一度もしたことのない「なんぱ」なるものをしてみようか。「なんぱ」は、街でご婦人に「Yoh!Yoh!Ne-chan!」と声をかけるところからスタートすると聞く。こんな言葉、発したことがない。因みに、これは英語読みである。ドイツ語で読むと「ねーちゃん」が「ねーひゃん」になって具合が悪い。ドイツ語なら「Jo!Jo!Ne-tschan!」である。だが、合唱のときのように「Ne」の長母音を意識すると「にーちゃん」になり、ご婦人に声をかけたつもりが殿方の反応を呼びオホホに陥るかもしれない。ここは、あまり発音にこだわらない方がよさそうだ。