麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第200回)

2009-12-06 15:58:47 | Weblog
12月6日


立ち寄ってくださって、ありがとうございます。

岩波文庫から、ワシントン・アーヴィングの「ブレイスブリッジ邸」(1822年作)が出ました。以前、ここで「スリーピー・ホロウの伝説」について書きましたが、同作がおさめられている「スケッチ・ブック」発表の2年後に出た本です。

イギリス旧家の結婚式に招待された語り手が、そこで出会った人々と古くから伝わる習慣についてたんたんと描く小説。今、半分くらいまで読みましたが、なんの事件も起こらず、なんの教訓も語られず、現代的な心理描写などまったくありません。しかし、ここには、人間のすべが書き込まれている。まるで樹木が育ち、花を咲かせ、枯れていくのを観察・描写するように、老婦人や、退役軍人や、老農夫の半生が語られます。それらは、ユーモラスで、しかし、悲しい。結婚する若い2人にもその悲しみがかげを落としています。

「スケッチ・ブック」以外のアーヴィングを読むのは初めてですが、その天才を再認識。詩的な言い回しも、難解な語句もまったくなく、散文もいいところの平板な散文なのに、全体は詩以外のなにものでもない。前にも書きましたが、人間が続く限り、永遠に残る完璧な作品だと思います。

できれば、「スケッチ・ブック」の新訳を出していただきたいところです。
ティム・バートンが「スリーピー・ホロウ」を撮ったときに吉田甲子太郎(きねたろう)訳の新潮文庫が改版になりましたが、少し訳文が古いし、岩波のものはもっと古いものが現在では絶版状態なので。待っています。



では、また来週。
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