2月21日
中3の話は、ひと言でいえば、「終わりの感じ」を書きたいということ。まずは幸せな少年時代の終わり。しかし、それは「予感」としてそっと近づいてきているので、表面は逆にすべてがこれまでにないほど幸せに見えている。幸せのピークに。――なんとなく頭に浮かぶのは、小学校の夏休みの空に縦に長く伸びた入道雲です。それは子どものころの私にとって「現実(もっといえば実在という観念)」を象徴する自然の建造物であり、善悪の定義を刻んだモーセの石板であり、「世界には完全に意味がある」という証明書のようなものでした。この雲の下で、私の世界には濃密な「意味」があふれ、それは通学路の日陰のカミキリムシのにおいになったり、運動会の前の晩の教室の生き物のような闇の感じになったり、これまで何千回も(同じ時間に同じ角度から)頬を過ぎていった(のをおぼえているような気がする)台風の前の陸橋の上の風になったりしながら、すべてを笑っていいのだ、すべてを遊びととらえていいのだ、という「完全な肯定」の上で毎日を生きることを可能にしてくれていました。その雲も、中3の時にはすでに子供のころ感じた畏怖を思い出として身にまとう張りぼてのようになっていましたが、まだ私はそれを信じていると自分に嘘をつくことを続けていました。それはまったく自分ひとりの宗教であり、この宗教の「終わりの感じ」もテーマの一つです。――中3の話なのですが、最後に残るのは小学校の夏休みの入道雲のイメージになればいい。マダム・ボヴァリーが馬小屋の壁の黄色いカビの感じを書きたいという欲求から生まれたように、あの入道雲の感じを書きたいというのが実はなにより底にある動機です。――実務的には、中3は、小学以来9年間続いた同じメンバーによる同じ役割の芝居の終わり。当然、その芝居の「終わりの感じ」も大きなテーマでしょう。お互いの過去を知りすぎるほど知っていて、いつからか与えられた役をこなし続けてきた同級生。しかし、比較的晩熟だった人たちの心が変わり始め、役の変更登録をしていくこともめずらしくなくなっている。中3は、そういう時期でもあります。――これは創作メモですが、死ぬまでに本文が一行も書かれない可能性もあるのでここに書いておこうと思いました。もし、なにか感じるところがあったら、読んだ人は自分自身の中3――べつに中3に限らず――について自分の物語を心の中でも、どこにでも書いてください。どんな形でも、誰が書いても結局は同じことだと思うので。もちろん、私は自分のものを書く努力をするつもりですが……。ああ。
中3の話は、ひと言でいえば、「終わりの感じ」を書きたいということ。まずは幸せな少年時代の終わり。しかし、それは「予感」としてそっと近づいてきているので、表面は逆にすべてがこれまでにないほど幸せに見えている。幸せのピークに。――なんとなく頭に浮かぶのは、小学校の夏休みの空に縦に長く伸びた入道雲です。それは子どものころの私にとって「現実(もっといえば実在という観念)」を象徴する自然の建造物であり、善悪の定義を刻んだモーセの石板であり、「世界には完全に意味がある」という証明書のようなものでした。この雲の下で、私の世界には濃密な「意味」があふれ、それは通学路の日陰のカミキリムシのにおいになったり、運動会の前の晩の教室の生き物のような闇の感じになったり、これまで何千回も(同じ時間に同じ角度から)頬を過ぎていった(のをおぼえているような気がする)台風の前の陸橋の上の風になったりしながら、すべてを笑っていいのだ、すべてを遊びととらえていいのだ、という「完全な肯定」の上で毎日を生きることを可能にしてくれていました。その雲も、中3の時にはすでに子供のころ感じた畏怖を思い出として身にまとう張りぼてのようになっていましたが、まだ私はそれを信じていると自分に嘘をつくことを続けていました。それはまったく自分ひとりの宗教であり、この宗教の「終わりの感じ」もテーマの一つです。――中3の話なのですが、最後に残るのは小学校の夏休みの入道雲のイメージになればいい。マダム・ボヴァリーが馬小屋の壁の黄色いカビの感じを書きたいという欲求から生まれたように、あの入道雲の感じを書きたいというのが実はなにより底にある動機です。――実務的には、中3は、小学以来9年間続いた同じメンバーによる同じ役割の芝居の終わり。当然、その芝居の「終わりの感じ」も大きなテーマでしょう。お互いの過去を知りすぎるほど知っていて、いつからか与えられた役をこなし続けてきた同級生。しかし、比較的晩熟だった人たちの心が変わり始め、役の変更登録をしていくこともめずらしくなくなっている。中3は、そういう時期でもあります。――これは創作メモですが、死ぬまでに本文が一行も書かれない可能性もあるのでここに書いておこうと思いました。もし、なにか感じるところがあったら、読んだ人は自分自身の中3――べつに中3に限らず――について自分の物語を心の中でも、どこにでも書いてください。どんな形でも、誰が書いても結局は同じことだと思うので。もちろん、私は自分のものを書く努力をするつもりですが……。ああ。