麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第838回)

2024-02-17 18:55:34 | Weblog
2月17日

中公文庫の新刊(といっても先月)「バルザック」(シュテファン・ツヴァイク/水野亮訳)を読んでいます。バルザックの評伝です。ものすごくおもしろい。もうひとつの「幻滅」を読んでいるみたいです。以前からバルザックの、マザコン的年上の女好きには共感できなかったし、今回事実を詳細に知るとますます自分には理解できないと感じるのですが、そういう女性が若い無名作家に与えることのできる安心感こそ、若い自分にはまったく欠けていたものだと、いまになると身に染みてわかりました。もちろん、こんな世界的天才と無能な自分を比べても意味もなにもありませんが。また、これを読むと、ヘンリー・ミラーを思い出しますね。やはり二人は似ていると思います。バルザックは、若いころ、私の感じとった雰囲気からすると、日本の貸本マンガ隆盛時代になんでもいいから描いて儲けた貸本マンガ家みたいに小説を書きなぐり、ヘンリー・ミラーは食うためにポルノ小説を書いていた。なのに、二人とも本質では堕落することなく大作家になった。すごい。

ところで、いまこの評伝もkindle版で読んでいて、また、「幻滅」をはじめとする数編も(「ゴリオ爺さん」はポケットマスターピースで読みましたが)kindleで読みました。また、バルザックの作品はいまも続々と電子化されていて読みやすくなっています。なのに、ヘンリー・ミラーは「南回帰線」と「マルーシの巨像」ぐらいしか電子化されていない。そんなに人気がないのでしょうか。せめて「薔薇色の十字架」三部作だけでも電子化してもらえないでしょうか。

変な着地点になりましたが、「バルザック」、最高です。ぜひ読んでみてください。

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生活と意見 (第837回)

2024-02-04 17:59:26 | Weblog
2月4日

河出文庫で、柴田元幸訳の「ナイン・ストーリーズ」が出ています。
単行本も、そのあとマイナー文庫化されたときも買いましたが、今回も買いました。
さすがに、ほとんどの作品は、野崎訳よりすっきりしていいと思いますが、「エズメに、愛と悲惨をこめて」(野崎訳では「エズミに捧ぐ」)だけは、野崎訳のほうが好きです。それも、ほかのところはどちらでもいいのですが、最後近くのチャールズの手紙の訳は、「ハローハロー~」より、「こんにちは こんにちは こんにちは~アイとセップンをおくります」のほうがいいと感じます。初読のとき、ここで胸がいっぱいになりました。

もう今年もひと月終わりました。早いですね。とりあえず、原稿は書いていて、老いた脳が疲れを感じているのがわかります。若いときに、編集をやめて書くべきだったかもしれませんが、そのころはそのころで認識の途上だったから軸がぶれ、そのぶれを人に悟られないように強がったことを書いたりして、きっとダメだったろうと思います。いまがいいのですが、やはり体力は苦しいですね。うまくいかないものです。
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