麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第459回)

2014-11-30 09:38:20 | Weblog
11月30日

しばらく前、国木田独歩の「欺かざるの記」の文庫本(潮文庫上下巻/昭和46年発行)を手に入れました。かっこ悪いけどずば抜けて正直な男の告白。少ししか読んでいないですが、胸にしみます。

まるで「にせものの女王」の家来どもに殴打され続けているような毎日。しかし貴様らに言う。私はおまえたちの価値を絶対に認めないし、一見おまえらの言う「現実」の成員であるかのようなふりをした事物たちが、衣の裾をめくって吐き出す自由という黄金の世界の雰囲気を見失うこともない。おまえたちは事物に吐きかけた自分のゲロを満足してながめる低能に過ぎない。音楽のない、観念の奴隷ども。失せろ。――狂人のうわごと。
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生活と意見 (第458回)

2014-11-21 06:21:52 | Weblog
11月21日

「スケッチ・ブック」はすばらしい。
まるでアルバムを一枚聴いているような感じです。上下巻なので二枚組というところ。ときどき冗長な感じを受けるときは、作品のせいよりむしろ、読み手である私に非があることを、「おまえは今心の余裕を失っている。危ないぞ」と教えてくれます。

自分の周りだけ酸素が希薄になったような世界に生きることとなりました。ヘタな作品を書き続けることすらもう無理かも。死体のような自分を本物の死体になるまで引きずっていくだけです。
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生活と意見 (第457回)

2014-11-16 09:29:57 | Weblog
11月16日

昔からよく考えるのですが、10万年後、まだ人間がいて、学校というものが存在したとしたら、歴史の授業ではどういうことを教えるのでしょうね。私たちが今現代だと呼んでいる時代もほとんど太古とみなされて「相対性理論はメソポタミア文明の成果である」というような感覚を持つ子供たちが出てくるのではないか。少なくとも試験の時にそういう誤答を書く生徒が出て、それを笑う劣等生も「相対性理論は中世暗黒時代と呼ばれた短い時期にアリストテレスが考え出した理論物理学の基礎の基礎だろ」などと言う。でも、そうだとしても、21世紀のほとんどの人にとって歴代のローマ皇帝の名前がすでにどうでもいいものとなっていること以上にどうでもいいことであるに違いありません。教師も「この10万年のうち、9万年までは二時間でおさらいしましょう。ほとんど意味がないですから」と、きっと言うに違いありません。でも、そんな教室(かどうかわかりませんが)でも、「人間は何のためにいるのか」という問題や「“ある”とはなにか」という問題は、いまと変わりなく新鮮な問題として存在し続けるのではないでしょうか。――もちろん、それらの問いにも明瞭な解答がすでに用意されていて、図書館に行けば疑問はすぐに解決するのかもしれませんが。でも、なかにはドストエフスキーのような生徒がいて、「俺はそんな世界観、認めないぞ。どんな体系であれ、固定された体系は拒絶する」などと考えるかもしれません。しかし、もしそのとき、校長室にいるのが5万年前にふいにこの世界に帰ってきた神だとしたら……そんな生徒も昼飯あとの5時間目には、安心して居眠りすることができるでしょう。
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生活と意見 (第456回)

2014-11-09 04:30:31 | Weblog
11月9日

あいかわらず生きにくい。自分の中にもともと存在しない意欲を、あるようなふりをして人と接する以外金を得る方法がないということが、昔も今も問題のすべてです。行きたくもない飲み屋という場所に連れていかれて、なにも楽しくないのに会話をしなければならないのとまったく同じような毎日。これが生きるということか? ばかばかしい。人生への全感想ですね。唯一、社会に子供という人質を取られなかったことがなぐさめです。
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生活と意見 (第455回)

2014-11-01 06:46:43 | Weblog
11月1日

廃人のまま無意味な一年が過ぎました。去年の今頃のことを思い出すとそう感じます。「スケッチ・ブック」と同時に、新訳の「マラルメ詩集」が出ます。全集を売ってしまったのでこれもうれしいこと。もちろん無意味ですが。
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