麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第498回)

2015-08-30 16:43:06 | Weblog
8月30日

夏休みの宿題のことを書いたことがあったかどうか。
六年生の時、担任の先生が「今年の夏休みは課題を出しません。その代わり、このノートが全部なくなるまで、自分の好きな勉強や研究をしてください」と言って六組全員に一冊ずつ大学ノートを配りました。ほかの組もそうだったのか、うちの組だけそうだったのかはわかりません。
とにかく、私は燃えました。ものすごく楽しかった。好きなだけ算数の計算問題をやったあとで漢字の練習をし、また、自分の好きな電気の研究(大人の読む参考書を自分なりにまとめる)をし、絵日記のような漫画のようなものを書く。歴史の年表を作ってまた算数をやる。あっという間にノートは埋まりました。表3まで。このときの快感を私はずっと忘れられませんでした。

完全にそうとはいえませんが、そのノートは、六年間学校や家で勉強してきたことを確認し、まとめ、そうすることで作った、自分なりの、世界についての研究報告書だったのです。

大学の卒論も、文庫本にした物語も、私にとっては、自分なりの、世界についての研究報告書であり、実際書いているときはよく、この六年の夏休みの大学ノートのことを考えました。

私は怠けものですが、“生涯得点”という意味不明の目的とは別の、テーマ・形式ともに自由な「宿題」のことを忘れたことはありません。そうして、まだそれが残っていると感じます。もちろんそれも、複製を作りたい遺伝子がそんな錯覚を与えて無駄に生き延びさせているだけのことかもしれませんが。
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生活と意見 (第497回)

2015-08-23 18:51:43 | Weblog
8月23日

「パンセ」、出ました。訳者は進行中のメナール全集の責任編集者メナール氏の弟子ということで、全集版がどこまで進んでいるかなどの話もあとがきで読めました。また、最近は新しい翻訳書のまえがきやあとがきでも、先人の訳書について触れない人が多いのですが、私のゼミの担任だった松浪信三郎先生の訳(講談社文庫・絶版)や田辺保訳についてもふれてあって、よかった、と思いました。

とてもいい本と思いますが、もしまったく初めてパンセに触れるなら、やはり中公文庫がベストだと思います。あるいは人文書院のパスカル全集の第3巻か(これも松浪先生の若いころの仕事です)。私は角川文庫(田辺訳・絶版)が最初でしたが。

30代半ば、自分の中でパンセ再発見の時期があり、どこに行くにも持ち歩いていたことがあります。あるとき疲れきって歩いていて、飯田橋駅前のどこかで落としてしまい、気づいて探したのですが、その本はとうとう見つかりませんでした。よれよれになるまで読んだ中公文庫でした。


疲れているせいか耳の調子が悪く、土日も憂うつが抜けません。

来週あたり少しましになるといいのですが。
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生活と意見 (第496回)

2015-08-17 06:50:01 | Weblog
8月17日

誰でも「ええもん」と「わるもん」ならええもんのほうに自分を置いてみたい。ショッカーの目線で仮面ライダーを見ていた子どもはいないはず。でも、大きくなってみると、どこにもショッカーがいない。そこで自分とは違う側にいる人たちをショッカーと決める。なんと幼稚で安易な解決策。――ショッカーは自分の心の中にうじゃうじゃいるだろうに。低劣で、なまけもので、その場しのぎで、勇気もなく、さらにそれを認めまいと自分に嘘をつく自分。叩き潰してもすぐによみがえって心に巣食うショッカーども。私の戦う相手は今も昔もそいつらだけです。
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生活と意見 (第495回)

2015-08-09 21:05:53 | Weblog
8月9日

なんと河出文庫からツァラトゥストラの新訳が出ました。ぜんぜん情報を持っていなかったので驚きました。好きな章を拾い読みしています。ベストとは思わないけど、いい感じ(訳者は私より14歳年下です)。それで気づいたのですが、最近はもっぱら第3部だけを何度も繰り返し読んでいて、1部や2部はあまり読み返していなかったですね。なにか前半が新訳で読むと新鮮です。――とにかく、ますます新訳「パンセ」が待ち遠しくなりました。まだ1週間ありますね。発売まで。1ミリの意味もない毎日ですがいまはそれだけ考えるようにしています。
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生活と意見 (第494回)

2015-08-01 04:37:09 | Weblog
8月1日

岩波文庫から「パンセ」の新訳が出始めます。すばらしい。「スケッチ・ブック」全訳に次ぐ偉業です。白水社が翻訳書を出している、メナール版パスカル全集がなかなか進行しないのでもはやパンセの新訳は死ぬまで読めないだろうと思っていました。とてもうれしい。パンセ、ツァラトゥストラに出会わなかった人生は考えられません。あと、地下室の手記と失われた時を求めてと。なかでも「パンセ」は、他の3書の内容もすべて含んでいるともいえる濃縮本。この、数学定理集にも似た断片集こそ、マラルメのいう「一冊の本」なのではと思えるほど。その「一冊の本」が「未完成の殴り書き」であることも、本来の「書物」の意味を象徴しているようにも思えます。そう、メルヴィルの言うとおり、真の書物はいつも「下書き」状態なのかもしれません。
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