麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第848回)

2024-07-15 08:18:42 | Weblog
7月15日

万葉集の読書について、少しメモを。まず、一番最初に興味をもったのは、河出の旧・日本の古典シリーズの万葉集全一巻です。「えっ、一冊で万葉集が読めるの?」と思い、たしか300円で神保町で買いました。原文の読みと訳文のみ、というシンプルな構成であまりよくわからなかったけど五巻までとりあえず目を進め、そこで旅人の、亡くなった奥さんを思う歌や山上憶良の貧窮問答歌をはじめてまともに読んですごいと思いました。そのころ集英社のヘリテイジ文庫で伊藤博訳「萬葉集」が出始めたのでそちらを読めばほかも理解できるかも、と思い読み始めましたが、身が入った、とは言えなかったと思います。すごく、勉強っぽくなって、苦痛になり、途中でやめました。16年に、いまはなき神保町の三省堂の四階の古本コーナーで中公文庫・折口信夫全集四巻五巻「口訳万葉集」を発見。直観的にこれはいい、と感じ購入。訳を読み始めたら、すぐに、訳者の天才を感じました。勉強ではなく、普通の読書として万葉集が読めるのだとはじめて思いました。そのあとの経緯はここでも書いています。中心はあくまでも折口訳、しかしやはりわかりにくいものもあって以前からもっていた旺文社文庫なども参考にしました。また、伊藤訳に挫折した後に出始めた岩波文庫の全訳万葉集も(全巻買いました)さすがに、偏りなく秀才の読み方がされていてとても参考になりました。また、もうひとつ。大岡信の「私の万葉集(全五巻)」も、とてもすばらしい本で、こちらは、読み進んだ後に、その巻の復習をするのに大変役に立ちました。万葉集の全体のダイジェストが読みたいという方は「私の万葉集」を読めばその全貌を知ることができる、と思います。いま、その第五巻を読んで、万葉集巻十七からの家持歌日記の復習をしているところです。この本は、講談社文芸文庫から出ています。
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生活と意見 (第847回)

2024-07-07 23:28:16 | Weblog
7月7日

さきほど、万葉集を読了しました。
途中で挫折した伊藤訳から数えれば約20年。折口信夫口訳に出会って再度あたまから読み始めてからは約8年。とうとうやりました。自分をほめてやりたいと思います。今日は七夕ですが、ずーっと七夕の歌が出てくるところでは本当に再度挫折しそうになりました。でも、ひとつでも飛ばして読むと通読の意味がなくなると思い、しばらく(かなり、のときもありました)休んでまた進み、という感じでなんとか最後にたどりつきました。そうして、全貌をなんとなくわかったところでいまようやくいえるのは、万葉集はすばらしい。本当にすばらしい宝物のような書物だということ。様々な人間のさまざまな世界観と感情。それが技巧に走らずに素直に歌われている。こんなすごいこと、人間にできるんだ、と、そういう感動をおぼえます。私がいつも使う概念ですが、歌を詠んだ人が自分の心に刺さった感動の矢の角度を正確に描けている場合、千年以上の時を超えて私はその、詠んだ人のシチュエーションの中にいる私自身を感じることができる。本物の芸術ならなんでもそうですが。まあ、ともかく、死ぬまでに読めてほっとしました。なんとしても今日、それだけ書きたかったので書きました。暑いですね。

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