3月20日
立ち寄ってくださって、ありがとうございます。
白水社Uブックスから、ショーペンハウアーの「存在と苦悩」が出ました。私が子供のころに出て、今も単行本として発売中の本の新書化です。例によって、この大げさなタイトルはどうかと思いますが、とりあえずショーペンハウアーの一巻選集としてはいい本です。以前書いたように、ショーペンハウアーには、2作品しか著書はないといってよく、そのタイトルは、ひとつが「意志と表象としての世界」であり、もうひとつは「余録と補遺」です。本のタイトルを「存在と苦悩」とか「孤独と人生」にしようと決めたのは日本の出版社で、本人のつけたものではありません。たぶん、著者本人が見て、「それならいい」というに違いないアンソロジーのタイトルは「笑うショーペンハウアー」(白水社)だけでしょう。
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5月に筑摩書房から、マラルメ全集の第一巻が出るようです。これが最後の配本で、私がぼんやり覚えている限りでは、最初の巻が出てから20年は経っています。とうとう、という感じです。マラルメの作品は、正直ほとんどわかりません。でも、散文詩と詩の中にいくつか好きなものがあります。ご存知の方も多いと思いますが、マラルメは、「世界は一冊の書物へと至るためにつくられている」と言った人で、小説「失われた時を求めて」は、ときどき、プルーストがマラルメのこの言葉を実践したかのように見えるという意味で「一冊の書物(本)」と呼ばれることがあります。
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私はやはり、「本」という形へのあこがれが強く、「風景をまきとる人」を書いたときも、「おまえは、自分に著書がないということを許せるのか?」と聞いて「それは許せない」と思ったことが書き続ける推進力のひとつになりました。同様に「おまえは子供を持たなくていいのか?」と聞いたときには、「問題にならない」と、すぐに返事が戻ってきました。
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では、また来週。