麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第476回)

2015-03-29 09:06:23 | Weblog
3月29日

一代男のあと、「西鶴諸国ばなし」(暉峻訳)、「椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)」(平岩弓枝訳/学研M文庫)を読みました。弓張月は、逐語訳ではなく抄訳。実は逐語訳も持っている(昭和48年発行、潮文庫)のですが、前・後・続・拾遺・残の全5編のうち、前・後編までしかなく、中途半端なところで終わっているので、ちゃんと完結しているものを読むことにしました。滝沢(曲亭)馬琴を読んだのは、約10年前、河出文庫の「八犬伝」(白井訳)を読んで以来です。物語としてのおもしろさは、やっぱりすごい。楽しい。ぐいぐい読ませる。曚雲国師(もううんこくし)という悪者(正体は大蛇)のイメージはなんだか怪人二十面相みたいで(個人的な感想ですが)、江戸時代の創作ということを忘れさせます。この魔法使いが「禍(わざわい)」という名の獣(体が牛のようで頭は虎)を現出させるくだりがあって、なにか馬琴にしては観念的で意外な展開だと思うと同時に、「ボルヘス怪奇譚集」におさめられてもいいような哲学的な場面だと感じました。「仁義」という、馬琴がもっとも大切だと考えたに違いないテーマについては、八犬伝ほどの徹底さがないと感じました。主人公の源為朝は、ちょっとモテ男のようにも描いてあり、全編に八犬伝よりあまい感じが漂っています。男としては、八犬伝の義へのこだわりがやはり感動的です。――「おまえが義をうんぬんするな」と言われそうですが、ひと言。私が忠実に尽くしているのに、図に乗ってこちらに失礼なことをしたことのある人に対して、元々私は義のかけらも感じていません――常に強烈なメッセージを面白さの中に練りこんで読者の心にある雰囲気を(それこそ弓張月にも八犬伝にも出てくる「珠」のように)残す、いうまでもなく馬琴は大作家だと思います。

下痢が止まると同時に風邪をひきました。ばかばかしい。
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生活と意見 (第475回)

2015-03-22 08:58:50 | Weblog
3月22日

「好色一代男」の現代語訳(暉峻版ときどき吉行版)を読んでいます。もうすぐ終わります。「膝栗毛」は最終八篇の上。これは、読み終えるのがもったいないので止めている感じ。ずっとアホな旅を続けていたいから。もはや二週間下痢。主食はポカリとカロリーメイトで、大塚製薬に生かされている自分。と思って歩いていたら、目の前の、バッグを台車に載せて運ぶサラリーマンのその台車に、ペンキの手書きで「大塚製薬〇○課」の文字が。やがてその人が入っていったビルを見上げるとなんと大塚製薬の看板が。奇遇。思わずありがたやと手を合わせ……それは嘘ですが、奇遇は奇遇でした。しかし、めんどくさい体調ですね。来週はどうなることやら。
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生活と意見 (第474回)

2015-03-14 23:20:39 | Weblog
3月14日

「アシスタント」読了。すごくていねいに書かれている本だと思いますが、たぶん、読み返すことはないと思います。「ナチュラル」は、必ずまた読むと思います。作者自身は、書きあげた後、この作品を何度も読み返したでしょうか。「ナチュラル」ほどには読み返さなかったのではないか。なんとなくそんな気がします。勝手な推測ですが。なにか、自分の一部だけを(完成度のために)全部だと偽って書いている、そんな感覚がぬぐえませんでした。でも、こういう作品が日本の「文芸」界では「きめ細かく描かれた至高の文学」などと言われるに違いないとも思います。――なにより、読んでいる間(いまも)ずっと下痢をしていたことを、この本を見るたび思い出すでしょう。
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生活と意見 (第473回)

2015-03-08 21:13:47 | Weblog
3月8日

膝栗毛、七編下をもう少しで読み終えるところ。マラマッドの「アシスタント」(新潮文庫)を読み始めました。身辺ざわめいて、また寒さのぶり返しもあって、悲しくなり、疲れました。書きたいことはあるのですが書けません。すみません。
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生活と意見 (第472回)

2015-03-01 20:47:40 | Weblog
3月1日

「膝栗毛」、全8編のうち5編まで読みました。現代語訳は2種読んでいますが、原文でここまで読み進んだのは初めて。最高です。全体の印象は「ドン・キホーテ」に似ていますね。後半に入ってすぐの第5編、弥次さんが作者・十返舎一九の名を騙るところは、その物語を書いているのが騙られた本人であるという“メタ話”になっていて、これもドン・キホーテの後編を思い出させます。なにより作者のグルーヴ感が伝わってきて楽しい。いま私がそう感じるのだから、リアルタイムで読んだ人たちはすごかったでしょうね。続きを読みます。
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