麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第508回)

2015-11-30 23:42:45 | Weblog
11月30日

レグルス文庫の「ラーマーヤナ」をおよそ30年ぶりに読みました。続けて同文庫の「マハーバーラタ」を読んでいます。こちらは10年前、入院中に読んで以来。どちらも本当にいいですね。「マハーバーラタ」は、2002年にちくま学芸文庫で全訳が出始めて、2巻までは買ったのですが、まったく読んでいませんでした(その後、訳者が亡くなって中断したと知りました)。「一度は読んでおきたい古典」と、若いころから考えていたので、入院する前日、(肺ガンだと信じていてもう出てこれないだろうと思ったので)「全訳は無理だからせめて縮訳版を読んで死のう」と、レグルス文庫版全3巻を紀伊国屋で買いました(その時の店内の雰囲気を昨日のことのように覚えています)。「マハーバーラタ」は、現代なら、小説、伝記、漫画、映画、演劇、音楽(詩の韻律)、哲学として独立していたかもしれない多くの要素をごった煮にしたような本。でも、主軸は、対立する王族、パーンドゥ家とクル家の、やったやられたの復讐劇になっていて、「結局どうなるんだろう」という興味で読み手を引っ張っていきます。構造としては、「話を終えたらシェヘラザードはどうなってしまうのか」がずっと興味を引き続けるアラビアンナイトと同じ「額縁小説」ということになるんでしょうね。解説書を立ち読みすると、たいてい「たくさんの、人生の教訓が含まれている」と書いてありますが、もっとくだけたところも多く、子供にはヒーローものやSFのような楽しみを、若者には恋愛、ときには官能小説のような楽しみを、年寄りには教訓と若い頃の思い出にひたる楽しみをと、全世代にアピールするものを持っていると感じます。今回、読み直すと決めて、ほかに手ごろな訳書がないかと探したのですが、もともと少ないのにほとんどが絶版で、このレグルス文庫の「マハーバーラタ」もなぜか絶版になっています。これでは近づこうにも道がありません。レグルス文庫もそうですが、ちくま学芸文庫版の復活をぜひ期待したいところです。
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生活と意見 (第507回)

2015-11-22 02:08:54 | Weblog
11月22日

二週間、休みがとれませんでした。そうなった事情もばかばかしいし、その事情の中でしか飯を食えない自分がばかばかしいと同時にあわれですが、もう少しの辛抱と思ってただ生きています。――今日明日ひとりでいることで、これら吐き気のする日常がにせものの女王の幻影にすぎないことを知る、いつもの健全な狂人に蘇生できればいいのですが。
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生活と意見 (第506回)

2015-11-07 20:11:13 | Weblog
11月7日

先週、また風邪をひき、声が出なくなるほどのどが痛く、ずっと寝ていました。まだ少し症状が残っています。こんな休みばかり。――なぜか縁あって「シュレーバー回想録」を半分くらい読みました。心を病んだエリートの手記。「見事に狂っているな」という感想とともに、「このへんは本当のことではなかろうか」と感じたりもしています(私も油尾主水の作者として基本、狂っていますから)。行方不明になったNのことをしきりに思い出します。文章のリズムとNの口調が、とても似ているので。また、ネルヴァルの「オーレリア」もやはり思い出しますね。しかし、シュレーバー氏は、もともと法曹界の重鎮で奥さんもいる名士。周囲は大変だったろうな、と思うと悲しい感じが漂う。それにくらべてネルヴァルは、孤独な物書きが見てはいけない世界を見、この世の凡庸さに吐き気を感じて首をくくっただけのこと。むしろすっきりしたいい感じを受けます。すっきりしたいい感じで終われたらいいのですが。無理でしょうね。たぶん。
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