すごく晴れている。
黒い、溶岩が固まったようなごつごつした斜面を両親と三人でおそるおそる降りていく。と、途中で左手下に海岸が見え、海岸線と垂直に檻が並んだみすぼらしい動物園があるのが見える。よく見ると、それは檻ではなく、網状の鉄のフェンスで適当にスペースを区切ってあるだけで、動物も四種類か五種類しかいない。他ははっきりわからないが、右から二番目のスペースには体長20メートルはある白い大蛇が入っていて、まっすぐ僕のほうに鎌首をもたげている。僕はそれを見下ろしている。そのまま蛇が首をのばせば僕をひと飲みにできるだろう。だが、蛇の表情にそんな殺意は感じられない。むしろ、蛇は僕にほほ笑んでいるような気がする。そのうち僕は、蛇の胴が、膨らませた風船のように太く、作り物のようだと気づく。だが、そう思ったとき、蛇は少し動き、自分が本物であることを知らせたような気がした。いずれにしても、仕切りはおおざっぱに左右にあるだけだから、いつでも逃げられるのに、なぜ逃げないのか、と思う。砂浜に降りたときには、僕の道連れは、昔の仕事仲間の、ひとりの男に変わっている。僕たちは左に歩いていく。なんだかわからない動物と、白蛇と、もうひとつ別の動物の前を過ぎると海が目の前だった。その、海にいちばん近いところに展示してあるのは、紫色の、50センチくらいの棒のような生き物で、展示スペースの真ん中に水の入った大きな皿が置いてあり、その中で活発に何十匹もバシャバシャと動いている。ウナギみたいにやわらかく、ぬめっとした動きではなく、短く切ったゴムホースがちょっと曲がってすぐ元に戻る、そんなふうに小刻みに動いている。「絶対逃げだすよな」と、僕は道連れに言うが、彼はひょうきんなキャラクターのくせに、フンとした顔でなにも答えない。一匹、二匹、三匹と順番に、生き物は小刻みに震えながら皿から出て、海に入っていく。頭も尻尾もない。「danced the dragonだ」と道連れが言う。ダンスト・ザ・ドラゴン? 「それならdancing dragonのほうが正しいんじゃないのか」と僕は言う。「いいや。違うんです」と彼はにやりとする。おまえの英語の実力はあやしいよ、という顔で。僕は、長年彼より学力は上のようなつもりでいたが(口に出したことはないが)、いまやまったく自信を失った。紫色の生き物は全部海に逃げた。