5月31日
立ち寄ってくださって、ありがとうございます。
もともと現代小説(というより、生きている作家の本)をほとんど読まない私ですが、必要にせまられて、初めて重松清さんの「その日のまえに」という短編集を読みました。目が覚めるほど上手いですね。これがプロだな、と本当に思いました。なにか涙が出そうになったのですが、それは内容のためではなく、もし自分がこの人のように才能があり、世間で認められていたなら、どんなに両親を喜ばせることができたろう、と思ったからです。
「物書きになる、とか言っていた変わった子だったけど、そういう道が向いていたんだね」。母親にそんなふうに思ってもらえるに違いない、立派な作品。たとえ、100年間修業しても、こんなふうに書くのは無理でしょう。同時に、ここに描かれた世界が私にとってリアルに感じられることも永遠にないでしょう。あらためて、私は自分が職業作家にはなれないことを痛感しました。
☆
以前、マイナー出版社から出ている名訳を2つ紹介したいと言いながら、「白鯨」以外のもうひとつについて書くのを忘れていましたが、もう1冊は「ハックルベリ・フィンの冒険」(文化書房博文社)です。これは98年に出版されたもので、勝浦吉雄さんという方が訳されたもの(ちくま文庫の「マーク・トウェイン自伝」の訳者)。「ハック~」にも、さまざまな訳本があり、何冊かは持っていますが、最後まで読めたのは勝浦訳だけです。
この作品については、通読に挫折する理由をあげるのは簡単です。原文がどうやら方言で書かれているらしいので、どの訳者も工夫を凝らしてさまざまな語り口を採用しているのですが、それが読者の好みに合うかどうか。それがポイントです。
文体は小説の命。そうなのかもしれませんが、そのやりすぎで途中で読むのがイヤになるようでは本末転倒です。もちろん、個人の嗜好の問題ですが、私には野崎孝訳も、加島祥造訳も大久保博訳もいまひとつ言葉がうるさくて入っていけませんでした。勝浦訳はしつこさがなく、すっとハックの目線に入っていける感じで1日徹夜して読みきりました。もし、「ハック~」は挫折して読めなかったという人がいたら、立派な装丁ではないし、安くもないですが、この本で読んでみることを強くすすめます。
☆
では、また来週。
立ち寄ってくださって、ありがとうございます。
もともと現代小説(というより、生きている作家の本)をほとんど読まない私ですが、必要にせまられて、初めて重松清さんの「その日のまえに」という短編集を読みました。目が覚めるほど上手いですね。これがプロだな、と本当に思いました。なにか涙が出そうになったのですが、それは内容のためではなく、もし自分がこの人のように才能があり、世間で認められていたなら、どんなに両親を喜ばせることができたろう、と思ったからです。
「物書きになる、とか言っていた変わった子だったけど、そういう道が向いていたんだね」。母親にそんなふうに思ってもらえるに違いない、立派な作品。たとえ、100年間修業しても、こんなふうに書くのは無理でしょう。同時に、ここに描かれた世界が私にとってリアルに感じられることも永遠にないでしょう。あらためて、私は自分が職業作家にはなれないことを痛感しました。
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以前、マイナー出版社から出ている名訳を2つ紹介したいと言いながら、「白鯨」以外のもうひとつについて書くのを忘れていましたが、もう1冊は「ハックルベリ・フィンの冒険」(文化書房博文社)です。これは98年に出版されたもので、勝浦吉雄さんという方が訳されたもの(ちくま文庫の「マーク・トウェイン自伝」の訳者)。「ハック~」にも、さまざまな訳本があり、何冊かは持っていますが、最後まで読めたのは勝浦訳だけです。
この作品については、通読に挫折する理由をあげるのは簡単です。原文がどうやら方言で書かれているらしいので、どの訳者も工夫を凝らしてさまざまな語り口を採用しているのですが、それが読者の好みに合うかどうか。それがポイントです。
文体は小説の命。そうなのかもしれませんが、そのやりすぎで途中で読むのがイヤになるようでは本末転倒です。もちろん、個人の嗜好の問題ですが、私には野崎孝訳も、加島祥造訳も大久保博訳もいまひとつ言葉がうるさくて入っていけませんでした。勝浦訳はしつこさがなく、すっとハックの目線に入っていける感じで1日徹夜して読みきりました。もし、「ハック~」は挫折して読めなかったという人がいたら、立派な装丁ではないし、安くもないですが、この本で読んでみることを強くすすめます。
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では、また来週。