10月25日
うれしい。とうとう来月、岩波文庫からワシントン・アーヴィングの「スケッチ・ブック」完訳が出始めます。これまで新潮文庫(絶版)などでその一部を読んできたわけですが、とうとう全部読める。ものすごくうれしい。スリーピー・ホローの新訳が読めるなんて!このことだけで長生きしてよかったと思います。真の天才の筆頭、アーヴィング。日常の簡単な言葉で語りながら、ありえない深みに連れていってくれる魔術的テクニック。現実と幻想、感傷とユーモア、甘さと苦さ、その両側で自分を思う存分表現しつつ、その背後に、それらすべてを見守り、いとおしみつつ、同時に冷静に配置していく神のような人格が感じられる……本当に天才としかいいようがない、稀有の作者。しかし、また(本人も言う通り)、世間的に見れば世の余計者で、独身者で、旅人で、できることといえばスケッチ・ブックを手に、あらゆる風景の、人々の、そしてドラマの前をただ通り過ぎていくだけ……そんな、山頭火や芭蕉にも似た、世捨て人でもある一人の男。スケッチの背後の背後には、世の中のことも、そして自分のことも「見えすぎてしまった」人間の悲しさが漂っているのかもしれません。――なんにしても、岩波、やってくれましたね。すばらしい。うれしいです。
うれしい。とうとう来月、岩波文庫からワシントン・アーヴィングの「スケッチ・ブック」完訳が出始めます。これまで新潮文庫(絶版)などでその一部を読んできたわけですが、とうとう全部読める。ものすごくうれしい。スリーピー・ホローの新訳が読めるなんて!このことだけで長生きしてよかったと思います。真の天才の筆頭、アーヴィング。日常の簡単な言葉で語りながら、ありえない深みに連れていってくれる魔術的テクニック。現実と幻想、感傷とユーモア、甘さと苦さ、その両側で自分を思う存分表現しつつ、その背後に、それらすべてを見守り、いとおしみつつ、同時に冷静に配置していく神のような人格が感じられる……本当に天才としかいいようがない、稀有の作者。しかし、また(本人も言う通り)、世間的に見れば世の余計者で、独身者で、旅人で、できることといえばスケッチ・ブックを手に、あらゆる風景の、人々の、そしてドラマの前をただ通り過ぎていくだけ……そんな、山頭火や芭蕉にも似た、世捨て人でもある一人の男。スケッチの背後の背後には、世の中のことも、そして自分のことも「見えすぎてしまった」人間の悲しさが漂っているのかもしれません。――なんにしても、岩波、やってくれましたね。すばらしい。うれしいです。