麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第700回)

2020-06-28 19:27:41 | Weblog
6月28日

「虐げられた人びと」をひさしぶりに通読しました。やっぱりこれは、私にとって「悪霊」と同じぐらい大事な、大好きな作品です。この中にすでにムィシキンもいれば、ニコライ・スタヴローギンも、スビドリガイロフもいます。しかもこの物語では、殺人や凌辱などの犯罪的なことはなにも行われない。超人にはすべてが許されるという極端な思想を持つ者もいないし、革命運動に加担している者もいない。みな、その萌芽は抱えながらも平凡に暮らしている――でも、心理的には誰かが誰かを殺し、誰かが誰かを犯している。いまの時代を考えると、こういう人物たちのほうがすごくリアリティがあるのではないか、と思います。とても100年以上前に書かれた物語とは思えない。とにかく、すみずみまで神経の行き届いた傑作だと思います。

先週は、書きなぐったという感じになりました。しかし、さらに付け加えるなら、80年代には丸山のような学生はたくさんいたに違いないと作者は思っています。
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生活と意見 (第699回)

2020-06-21 19:42:33 | Weblog
6月21日

キンドルのKUやKOLを利用してキンドル版「風景をまきとる人」を読んでくださった方が何人かいらっしゃるようです。お知らせがきたのでレポートを見ました。しかし、みなさん20ページぐらいで読むのをやめられたようです(私の見方が正しければ)。それで考えてしまいました。20ページでは、主人公の油尾は舞台に登場していません。だから、読むのをやめられたのは、主人公のキャラクターが興味をひかない、というわけではないようです。考えられる理由は三つ。一つは文章がひどくて読む気をなくさせた。これはもうしかたありません。次に、「アダルト雑誌業界」が、およそまじめな物語の展開される舞台にはふさわしくないので読み進める気にならない。これもしかたないでしょう。三番目に考えられるのは、「語り手の丸山というやつがいやなやつなので読みたくなくなった」。じつは、大学の同級生に文庫で読んでもらったとき、そう言われたことがあります。彼もそうなのですが、おもに日本文学しか読まない人は、「僕」という語り手が設定されていると、それは作者の分身であり、読者はその語り手を通じて作者の価値観や感受性に触れ、どれだけそれに共感できるか読書を通じて吟味する。そしてその語り手が自分に近く、雄弁にまた知的に敵対する陣営をこき下ろしてくれれば満足して「いい文学」だと感じる。そういう読み方をしがちだと思います。つまり、丸山はイコール作者だから、こんな自己陶酔しているようないやな作者の書くものにはつき合いたくない、そういうことでしょう。しかし、正直、丸山は作者とは正反対といっていいほど違う人間です。ここに何度も書きましたが、私は酒を飲みません。法学部や、四谷にある大学を受けたことも、受けようと思ったこともないし、サークルに入ったこともなく、合コンはおろかコンパというものに参加したこともありません(ご存知のように東京出身でもありません)。大学時代に女性と会話したのは合計で10分くらいでしょう。丸山という語り手は私ではありえません。この小説にはほとんどの登場人物にモデルがいますが、丸山は完全な作り物で、モデルはいません。ただ、大学時代をサークル、コンパでおもしろおかしく過ごしたり、イベント屋のように過ごしたりしたという、同世代のライターや編集プロダクションの経営者などに話はたくさん聞く機会があったので、ディテールは単なる空想の産物ではありません。また丸山の兄弟構成は、前にも書きましたが、後輩の兄弟構成を一部利用しています。丸山を設定した意図は書く気もありませんが、「僕」が語っていても、これは私小説ではありません。興味を持っていただいただけで本当にありがたいのですが、せめて主人公が舞台に登場するまでは読み進めてみてもらえないでしょうか。お願いいたします。

ここまで、自分と丸山は違うと言ったあとでようやく書けますが、私にも丸山のようないやらしいところは絶対にあると思います。私たちは、みんな一皮むけば「いやなやつ」ではないでしょうか。

読み進めてもらえなかった理由を三番目に決めつけて書いてしまいましたが、一番目二番目がその理由なら、なにも弁解することはありません。すみませんでした。
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生活と意見 (第698回)

2020-06-07 21:47:34 | Weblog
6月7日

短編を進めていますが、ここに出せるのはいつになることやら。なさけないけど、時間がとれないので仕方ありません。

岩波文庫からオスカー・ワイルドの全童話集「幸福な王子」が出ました。全編タ体の新訳です。新潮文庫とは違った感じを味わえるはず。

唐突ですが、最も好きな短編「スリーピー・ホロ―」に唯一似た雰囲気を持っているのは、サリンジャーの「笑い男」です。これも本当に天才にしか書けない傑作ですが、あまりにも結末が陰惨で救いがない。前者のユーモアたっぷりの終わり方とのなんという違い。でも、似ています。いつか書こうと思っていたので書きました。
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