麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第759回)

2022-03-27 21:27:10 | Weblog
3月27日

光文社新訳文庫の「スッタニパータ」(今枝由郎訳)を読んでいます。岩波文庫の中村元訳を今の言葉に置きなおしたかのような簡潔明瞭な文で、とてもいいです。なにか、哲学者、宗教家としてだけでなく、人として偉大なブッダがすぐそばにいるような感じがしてきます。また、ブッダがなぜライオンに例えられるのかも、この訳文を読むと理屈なしにわかる気がします。若いころは、「ほとけ? ほっとけ」などという不遜な詩を書いたりしていましたが、やはりブッダは本当に清い生活を送った聖者であり、当時そのことは容姿やたたずまいから誰にでもひと目でわかったに違いないという気がします。ここでは書きませんでしたが、このところ、科学と仏教の融合を主軸に仕事をしている佐々木閑氏の本も何冊か読みました。今回の新訳も、佐々木閑氏の著作も、仏教のイメージの煤をはらい、いまに生きる思想として蘇えらせてくれるよい仕事だと思います。とくに今枝氏も佐々木氏も、ブッダを魅力的な人間として新たに提示しているところが本当にいいと思います。
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生活と意見 (第758回)

2022-03-21 22:46:33 | Weblog
3月21日

唐突に書きますが、「ノルウェイの森」でまず理解できないのは、主人公が親友の自殺にとても純粋にこだわっている—―喪失感を持ち続けている、というその感じです。私なら、どんなにその友だちを愛していたとしても、二十歳なら、やっぱり自分が生きていることが楽しくて仕方なく、あいつは死んだが自分は生きていて良かった、と感じたと思います。もし苦悩するなら、そう感じてしまう自分のゴキブリ的不純さを呪って、という形しかないと思います。すでにそこから理解ができないですね。

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生活と意見 (第757回)

2022-03-06 20:19:25 | Weblog
3月6日

長々と書く必要はないですね。私が、村上春樹やチェーホフの作品に感じるのは、「少年がいない」ということ。ヘミングウェイの元祖「女のいない男たち」は、ある意味、男たちの中の少年についての物語であり、「女を必要としない心の領域」がテーマです(「やくざ者」は自分を少年と認識できない少年たちでしょう)。が、村上春樹の同タイトルの短編集は、「女なしではいられない男たちが女を失う」物語です。大人として、私だって「ドライブ・マイ・カー」は理解できるしおもしろい。でも、それは、ひどく浅い、テレビドラマをおもしろいと感じるおもしろさです。私は自分が帰っていく場所を間違えることはありません。女という言葉から続いて連想されるのは、生き残ること、子供を持つこと、人よりいい目をみること、優越感、いつも得するほうを選ぶこと、などです。正直、どれもいやな概念ばかり。一代限り、破滅すること、いつも損するほうを選ぶこと、意固地、放っておいてほしい心。私が愛するのはそれらの概念であり、何度も読み返すのは中核にそれらの概念を隠し持つ文学です。
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