prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「恋人はアンバー」

2022年11月12日 | 映画
タイトルだけだとまったくどんな話なのかわからないが、ゲイの男の子とレズビアンの女の子のラブ・ストーリー。
そんなの成り立つのかという設定だが、やはり少なくとも最終的には愛の話としか言いようがないと思う。

ふたりは1995年卒業予定のアイルランドの高校の同級生なのだが、学校の性教育の授業でわざわざ尼さんが出てきて生殖目的以外のセックスは全部ダメですと教えるビデオを見せられるような環境で、同性愛者であることなどとてもカムアウトできるような空気ではない。

その中で同性愛者であることを隠すために女の子としたくもないキスやデートをしないといけない男の子エディに同級生アンバーが文字通り石をぶつけるのが最初の出会いになる。全編にわたるアンバーの乱暴だが率直な態度が大きな魅力。
この石をぶつけるというアクションが何度か繰り返され、最終的に本当に相手を目覚めさせる一撃になる組み立てがうまく、そうさせたのはやはり広い意味の愛だろうし、同性愛者であっても男女で立場や扱いが不平等なものでもあるのも外さない。

ふたりは同性愛者なのを隠すためにデートを重ねるのだが、アンバーの父親が自殺している事情や、尻軽女は安く見られると母親に教えられる一方、エディは父親が軍人で同じように「男らしく」軍人になる道を押し付けるようでなくしかし現実としては追い込んでいく。
このあたり、同じ性的少数者といっても女の方がさらに軽く見られていて、その分激しく遠慮なく反発するコントラストが出る。

ど田舎のどうしようもないような閉鎖的封建的な環境なのだが、それに囚われている人たちの描き方がユーモア混じりなのがいい。

マッチョを任じているような父親が密かに泣いたりするところ、母親が息子がゲイであることに気づいて、しかし動じないあたりの描き分けも上手い。夫婦仲が悪いのはお互いだが、そこから向かうベクトルは大きく違う。