また出版社の出自や経営陣の交代推移が細かく描かれ、それが彼ら作家たちと互いにどういう影響を与えたか立体的に描かれているのも興味深いところ。
日本近代史と出版史、推理小説史を横断した一種の年表としての読み方もできるだろう。
さらに海外の推理小説の影響も横糸として随所に描かれる。乱歩、横溝の両者ともに翻訳ができるくらい語学力があるのも一見おどろおどろしい内容と裏腹なようで本格推理小説の本質的な論理性とつながっているのだろう。
また推理作家には詩人出身の人がかなり多いというのも面白い。戦後の一連の少年もの読み物は乱歩の作品で一番読まれたはずなのにエアポケットのように入手も難しければ論じられることもないという指摘に、そういえばそうだなと思う。