prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「リンカーン」

2013年05月15日 | 映画
奴隷制廃止の議決を巡る票集めと駆け引きひとつに絞った作劇で、アメリカ大統領は世界一の権力の持ち主だが、たとえ大統領の決断があっても議会の採決を経なければ空証文にすぎない、という議会制民主主義の構造を端的に見せる。

リンカーンが大勢に囲まれながら孤独でいる、あるいは孤高でいながら周囲に人をひきつけてやまない姿に、たとえば「若き日のリンカーン」を撮ったジョン・フォードや、タスクフォースを率いていた頃の黒澤明の姿がだぶる。スピルバーグ自身がそういうレジェンドを果たすべき立場と自覚してると思しい。
ダニエル・デイ=ルイスはうまいというのを通り越して途中からリンカーンその人を見ている気分になる。

ゲティスバーグの演説を直接見せず、聴いていた兵士たちが思い出して暗誦するくだりから、言葉を一方的に伝えるだけでなく「伝える」ことの大切さを端的に示す。

リンカーンの奴隷制廃止に対する強い意志がすべてのドラマの推進力になってはいるわけだが、映画が切り取ったドラマの葛藤を担うのはもっぱら周囲である構造は、たとえば「赤ひげ」の新出去定が不動の強固な意志のシンボルとしてありドラマは若い保本が担う構造をちょっと思わせる。

奴隷制が廃止されたことは誰しも知っていることだが、その議会での採決を議員たちが一斉に挙手をするといったはしょった描き方でなく、ひとりひとりの名前を読み上げ、それぞれが賛成反対を表明するという長丁場にして、これがだれずに大きなうねりをもっているあたり、演出力の見せ場になっている。

オープニングで黒人兵が白人兵とまざって泥まみれになって戦う姿が当然のように描かれるが、「グローリー」(1989)までは南北戦争での黒人部隊の存在自体描かれたことはなかったと思う。
それが当然の前提になっているのだから、時代の変化は早い。

議会全員が当然のように男で、女に選挙権を渡すことがまるで宇宙人に選挙権を渡すように考えの外になっているあたり、いったん変わるとそれまで当然だと思っていたことがいかにその場限りのものだったかわかる。
日本で「伝統」なんて言われていることの大半にもいえることだろう。

南軍の司令官ロバート・E・リー将軍が出てくるシーンで英語字幕が出ていないところに日本語字幕が解説的に出てくるが、あれだけでアメリカ人は誰だかわかるのだろうか。
マイケル・サンデルの番組で知ったのだが、リー将軍はもともと合衆国連邦の軍人でありリンカーンに北軍の指揮官就任を要請されたのを南部ヴァージニア州の出身であることを優先して南軍の司令官になったのだという。
究極の選択もいいところで、それで敗軍の将になったのだからこれ以上ないくらいドラマチックなキャラクターで映画にならないのが不思議みたいなものだが、やはり扱うにはデリケートな問題があるのだろうか。
(☆☆☆★★★)

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5月14日(火)のつぶやき

2013年05月15日 | Weblog

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モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」 イ長調 K. 219Violin Concerto No. 5 in A major, K. 219, "Turkish"
カトリン・ショルツ - Katrin Scholz (ヴァイオリン) ベルリン室内管弦楽団


いくら飲んでも眠れない夜にベッドの中で呻吟しながら、近くのどのビルの屋上から飛び降りればいいか、真剣に考えていた。
真夜中では入り込めるビルも限られてくる。入れたとして屋上に出られるかどうかもわからない。

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今いる部屋が一階なのが残念だった。
思い切ってベッドを抜け出し、夜の街に出た。上下とも着替えないまま寝ていたのが好都合だった。

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コンビニに入って一杯ひっかけて勢いをつけ、あたりをつけていたいくつかのビルに入ろうとしたが、どこも鍵がかかっていて入れない。
あきらめることにして、後ずさりしながら未練がましくビルの屋上の方を見上げた。
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と、空中に何かの姿がぽつりと浮かびたちまちのうちに巨大化し目の前に迫ってきた。
それが女の顔らしいと気づくより早く、眼前に火花が散った。

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おそらくは女と自分の頭がともに砕け散る一瞬の何十分の一の時間のうちに、どうやってこいつは屋上に上がったのだろうと思っていた。
#完
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