prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「アバウト・シュミット」

2004年10月19日 | 映画
主人公のシュミットが援助の小切手を送っているタンザニアの6歳の少年に書く手紙の文章がナレーションでかぶさるのだが、この内容が普通およそ赤の他人に向かって書くことではないセキララな内面告白になっている。
どこまで意識していたのかわからないが(最初書き出す時は思わず筆が滑ったという感じで描かれている)、相手が遠い外国で英語がわからないどころか読み書きもできない子供だからできる真似で、言ってみれば木のうろに「王様の耳はロバの耳」と叫びこむように言いたいことを言っているのだが、これが思いもかけない形で返ってくるラストは、直前にシュミットが自分はいてもいなくてもと同じだという意識にさいなまされているのに対して、言いたいことが届かなくても相手に影響は与えられる、という回答になっている。少しずれているが、コミュニケーションがずれっぱなしなのは、全体の基調。
こういう手紙の使い方はあまり覚えがなく、新鮮かつ効果的。

思うようにいかなくて苛立つシチュイエーションが重なり、(特に他ならぬジャック・ニコルソンだから)爆発しそうで爆発しないで、随所でユーモアでかわしながら大詰めで納得させる作劇。
ニコルソンがちゃんとサラリーマンに見えるのは、お歳ということもあるだろうし、新生面を開いたともいえるだろう。見事なもの。

ちょっとして言葉のやりとりや日常的な出来事が妙にいらだたしく感じられるのをユーモアにくるんで描くデリカシー。亡妻がキャンピング・カーを買っておいたという設定もうまい。生活水準もわかるし、モーテルに泊まる余計な芝居もいらない。でかい図体で駐車場に割り込んでくる画がなんだかおかしいし、結構無神経なシュミットの性格にも合っている。
(☆☆☆★★★)


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