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北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

緑のダムの効果と限界

2010-04-15 23:06:49 | Weblog
 職場には河川や道路の技術者がたくさんいるので、世間話をするときにもいろいろと技術的なことが話題になります。

 先日横に座っている河川技術者の部下とこんな会話がありました。

「そういえばダムについて事業の見直しが叫ばれているけれど、純粋に科学的なアプローチとして、木を植えれば水を吸ってくれるのだから、緑のダムを整備すればコンクリートのダムはいらないという言い方に対してはどのような回答なされているんだろうか」
「国土交通省のホームページには確かそれに対する見解が述べられていたと思います。探してみましょうか」

「私も公園をやっていて、雨の量が少なければ森林があることで流出するはずの水を蓄えて流れ出る水を少なくするというのは分かるけれど、大雨で蓄える暇もなく流れ出る水に対してはそれほど効果がないのはほぼ常識なんだけど、科学的にきっちり反論した見解を見たことが無いんですよ。まあそれほど真剣に調べたわけでもないんだけど」
「んー…、あ、ありました、国交省のホームページの中に『緑のダム』が整備されればダムは不要か、というタイトルで書かれています。」


* * * 【ここから引用】 * * *

「緑のダム」が整備されればダムは不要か
 http://www.mlit.go.jp/river/dam/main/opinion/midori_dam/midori_dam_index.html


 森林の果たす土砂流出防止、景観・リクリエーション機能は重要で価値の高いものだと考えられます。しかし、ダムの建設に代えて、森林の整備等による「緑のダム」で代替することは、以下のとおり、非現実的です。


○「緑のダム」による治水機能の代替は可能か?
 我が国は、世界の中でも北欧諸国等に次ぎ森林面積率の高い国です。
 治水計画は、こうした森林の保水機能を前提に計画されています。
 国土面積の約2/3を森林が占め、現在は歴史上森林が良好に保存されている時期に属し、これ以上森林を増加させる余地は少ない状況です。
 森林は、中小洪水に一定の効果を有するものの、治水計画の対象となるような大雨の際には、森林域からも降雨はほとんど流出することが観測結果からも伺えます。
 従って、必要な治水機能の確保を、森林の整備のみで対応することは不可能です。


○「緑のダム」による利水機能の代替は可能か?
 森林の水源涵養機能については学説が定まっておらず、森林整備による効果の定量的な評価は困難ですが、森林の増加は樹木からの蒸発散量を増加させ、むしろ、渇水時には河川への流出量を減少させることが観測されています。
 従って、利水機能の代替を森林の整備に求めることは適切とは考えられません。


○日本学術会議答申(平成13年11月「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)」)においても、森林の多面的な機能について評価する一方で、森林の水源かん養機能(洪水緩和機能等)の限界について指摘しています。

 流況曲線上の渇水流量に近い流況では(すなわち、無降雨日が長く続くと)、地域や年降水量にもよるが、河川流量はかえって減少する場合がある。このようなことが起こるのは、森林の樹冠部の蒸発散作用により、森林自身がかなりの水を消費するからである。
 治水上問題となる大雨のときには、洪水のピークを迎える以前に流域は流出に関して飽和状態となり、降った雨のほとんどが河川に流出するような状況となることから、降雨量が大きくなると、低減する効果は大きくは期待できない。このように、森林は中小洪水においては洪水緩和機能を発揮するが、大洪水においては顕著な効果は期待できない。
 あくまで森林の存在を前提にした上で治水・利水計画は策定されており、森林とダムの両方の機能が相まってはじめて目標とする治水・利水安全度が確保されることになる。

(日本学術会議(答申)より抜粋)

※日本学術会議: 人文・社会科学、自然科学全分野の科学者の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表機関。昭和24年に内閣総理大臣の所轄下に「特別の機関」として設置され、中央省庁再編に伴い、総務省に設置。
(http://www.scj.go.jp/info/pdf/shimon-18-1.pdf参照)


* * * 【引用ここまで】 * * *


「そうか、ダムは洪水を防止する治水機能と、貯めた水を流すことで水を利用する利水機能があるけれど、それぞれに対する緑のダムの効果とその限界が説明されているわけだ」
「はい、現代の日本はエネルギーを薪や炭によらなくなったことで、縄文時代以来最も国土の山に木がある状態です。ですからこれ以上の緑を増やしても、大幅な緑量の増加は見込めませんし、治水計画はその状態を前提として立てられているのです」

「なるほど」
「さらに、やはり少量の雨と大量の雨では森林が及ぼす効果には限界があって、グラフを見てもある限界点を越える雨では森林はもう貯めきれず、降った雨と流出する水の量はほぼ同じになってしまうことが分かります。治水の安心・安全をどこまで求めるのかということに対しては社会的な議論があってしかるべきですが、科学的に見ると森林に全てを期待するのは無理だと言うことが明らかです」




「確かにね」
「水利用の面でも、逆に雨がない渇水状態になると森林は土の中の水分を蒸散させる側に回ってしまって、水を出さなくなるのでダムとは言えないことになります。やはり緑があっても良いのですが、物理的なダムとのバランスで運用するのが一番現実的だということになるのだと思います」

   *   *   *   *   *   *

 観念的には想像できることでもなかなかちゃんとした説明を聞くことはありません。

 科学的に見ると緑のダムの理想と現実のギャップが分かります。
コメント
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