駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇星組『燃ゆる風』

2017年01月21日 | 観劇記/タイトルま行
 宝塚バウホール、2017年1月17日14時半。

 群雄割拠して天下をうかがう戦国乱世。尾張の織田信長(麻央侑希)は美濃の稲葉山城を攻略すべく兵を向けるも、敵の反撃に苛立ちを募らせていた。そこに、稲葉山城の主・斎藤龍興の家臣が謀反を起こして城を乗っ取ったという報せが入る。信長ですらてこずる難攻不落の城をわずかな手勢で落としたこの男こそ、竹中半兵衛(七海ひろき)。類まれなる智略を以って戦国の世に名を馳せた稀代の軍師である。半兵衛の才覚に興味を抱いた信長は、木下藤吉郎(悠真倫)を彼のもとに遣わすが…
 作・演出/鈴木圭、作曲・編曲/吉田優子、振付/若央りさ、桜木涼介。七海ひろきの初単独バウ主演作となる戦国ロマン、全2幕。

 大変なチケ難公演でしたが、ご縁あって出かけてきました。まあまあ好評のようでしたが、例によって半信半疑の状態で観劇しました。
 一幕を観ている間はずっと、脚本家を放課後に校舎裏に呼び出す案件だな…と思っていました。ベタなアバン、ベタなプロローグ、ベタな主役ふたりの歌と芝居…と淡々と続く展開は、基本ができていると言えば聞こえはいいですがただそれだけの、なんの含蓄もない台詞が並ぶスカスカの脚本でなんのおもしろみも深みもない単純な演出で、ただストーリーが進むだけの、なんか子供が書いた作文みたいで文学になっていない小説のような、中学生が書いたみたいな芝居だな…としか私には思えず、ただただあきれてしまったのです。
 ただ話は進み時間は経ち、キャストが勢揃いして主題歌を熱唱し始めたのでおおこれで一幕ラストだな、と思っていたらまさかの主人公の喀血で、俄然ちょっとおもしろくなってしまって幕間に突入したのでした。確か早世した軍師だという事前の知識は自分にあったように思うのですが、そしてそれは戦死ではなく病死だったとも知っていた気がするのですが、よもや労咳とは思っておらず、ベタな咳と血を吐くベタベタな演出に、もう一周回って「えええええ!?」とすっかりおもしろくなってしまったのです。そしてもちろんそのダメなおもしろさをねじ伏せるかいちゃんのカッコよさと熱さには感動した、というのもあります。
 幕間にバッタリしたお友達が、「でも久々にタカラヅカ観た!って気になった」と言っていて、それは今私たちが通っているのが大劇場の『グランドホテル』であり日比谷の『金色の砂漠』であるからで、片や超スタイリッシュな海外ミュージカル片や超シリアスな人間ドラマで、いわゆる宝塚歌劇らしい、夢々しい明るさや華やかさ、といったものとはちょっと対極な作品世界を展開する演目なので、そういう意味ではこのバウ演目が一番宝塚歌劇らしいのかもしれません。でもこういう幼稚さ、稚拙さ、単純さ(こんな日本語はないか)、お手軽さを「タカラヅカらしい」とそれこそカタカナ表記で言ってしまうような感じが、私は嫌なのです。宝塚歌劇はもっと高尚であるべきだ、とは言いませんが、少なくとももっと高レベルであるべきだ、あれるはずである、と私は考えているので。こんな、ただスターがキラキラしていればいいと言わんばかりの書き割り歌芝居みたいな演目でよしとしている場合ではないだろう、と思ったのですね。
 が、二幕になると、まるで脚本家が替わったかのような芝居のノリの激変っぷりではないですか。上手いのに、またいい役をもらっているのに一幕では今ひとつ出番がないなと思っていた丹羽長秀(大輝真琴)のまいけるとか柴田勝家(輝咲玲央)のオレキザキとか明智光秀(音咲いつき)のいーちゃん、荒木村重(桃堂純)のたおくんが俄然歌い出し演技をし出し、かつ上手い、魅せる、芝居になっている!
 そもそも一幕はまりんさんが仕事をしすぎだったんですよね。専科さんですしできる人なのは知っています、もちろん上手い。でも使いすぎというか仕事させすぎというか仕事してしまいすぎ、に見えました。もっとできる生徒がおもしろいところに配されているよ、なのに陰になっちゃってるよ、と思っていたのが、息を吹き返すような二幕でした。
 そうなったら、やはり上手いとわかっているみっきぃの黒田官兵衛(天寿光希)だってより生きてくる。てか松寿丸(天彩峰里)のじゅりちゃんの子役が激ウマ!! 二條華ちゃんの重門もウッマ!!! もう目が覚めるようでした。
 しかもなんか、芝居として、男も女もなく、みたいなフェミニズム的なことや戦のない平和な世の中のために、みたいな反戦思想とか、ちょっといいことまで言い出しちゃって、ちょっとどうしたのよK鈴木!?と動揺しつつも、うっかり感動してしまいましたよ…
 まあ、残念ながらいね(真彩希帆)を濃姫(音波みのり)の娘としたことはあまり効果を上げていないような気がしましたけれどね。どこの『黒い瞳』かと思いましたが、この作者がこんな女ふたりの場面を作れるとは思ってもいなかったのでそれには感心しましたけれどね。
 いねが濃姫の心を動かす、というのは感動的なのだけれど、すごくうがった見方をすれば半兵衛が妻の出自を政治的に利用したようにも見えてしまうと思うのです。戦のない平和な世を築くためならなんでもする、それこそが智略に長けた軍師としての彼の生き方だ、とまで語る気ならそれもいいとは思いますが、女を仕事に利用する男に見えて駄目、というふうにとらえられなくもないなと私は懸念したのです。まあ流しましたけどね。
 あと、いねが女ということで養子に出されたのなら、代わりに男だからともらわれてきて嫡子に据えられた信忠(紫藤りゅう)の屈託のほうがむしろ大きかったはずで、天才肌の父親のもとの苦しい二代目というドラマもあったはずですし史実としても有名ですし、またしどりゅーが出番のたびにいちいちそういう演技をちゃんとしているのに脚本として回収していない、ノーフォロー、というかそこに触れる気ゼロ、というのがいかにも片手落ちな感じがして、だったらこの設定いらんやろ、そしてその上でこの役をもっとちゃんと描いてやってくれ、という気がちょっとしました。濃姫に子がないことも有名な史実だと思いますしね。
 まあでもとにかく、トータルでは意外にもいい作品でした。気持ちよくラインナップに拍手しました。『桜華に舞え』でちょっと見直したまおくんがまたいつものまおくんに戻ってしまっていて、この人はいつ上手くなるの…とちょっと遠い目になってしまったのと、きーちゃんが歌は抜群にうまいんだけど演技がややさらりとしていて娘役としてのいわゆるルリルリさもまだまだ足りない気がして、おそらくだいもん嫁となるのだろうと私は思っていますがとにかくがんばっていこうね私は好きだけどね応援するけどね、とちょっと案じられたこと以外は、ディズニーコンBSWで知った下級生の活躍が見られたりとたくさん発見もあり、楽しかったです。あとはるこは女神!
 かいちゃんは、歌はまあ引き続きがんばっていただくことにして(^^;)、でももうこういう役、こういう作品にはもう収まりきらない大スターさんだな、と思いました。本人はオタク気質だしこういう参謀タイプのキャラクターが好みなんだろうしすごく研究して的確にまた熱心にかつ楽しんで演じているのがわかるし、それがとてもよくできていると思いました。でももともとの作品の、役の枠がもう小さい。かいちゃんはすでにもう、もっと大きな輝きを放てるスターさんになっているので、そういう場所、舞台を用意してあげてほしいなと思いました。新公卒業前後くらいの新進若手スターの初バウ主演作ならこの役、この作品で上々だったでしょう。でもかいちゃんは今やもっとずっとできるスターさんなのです。
 でも、まずは、単独初主演、おめでとうございました。新生星組では下級生二番手スターの下の三番手、ということになるのかもしれませんが、それで大事にしてもらえるなら十分だし、かつて大空さんもそういうポジションだったことがありましたよ(^^;)。まあ、そこからの大空さんの宝塚人生展開はかなりレアなもので、みんながみんなそういう道をたどれるものだとは私は決して思っていませんが(大空さんを特別と考えたい、というよりは、そもそも誰にもこんなコースをたどらせるべきではない、路線というものはもっとスムーズに組まれるべきものであると考えているから、です)、トップになることがすべてではないし、いい役いい作品に巡り合って輝いててくれて幸せでいてくれればファンはうれしいものなので、十分喜ばしいのではないかなと思うのでした。中途半端な祝い方ですみませんが、でも組替え直後の一時期のような微妙な不遇と「なら宙組に返してよ」みたいなことを言う人が出るような事態はさすがにもうないと思われるので、よかったと思うのです。あと、みんながみんなここまでこられませんよ。すごいことです。
 この先も楽しみにしています。未来に幸あれ。





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恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)

2017年01月21日 | 乱読記/書名ま行
 3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。ここを制した者は世界最高峰のS国際コンクールで優勝する、というジンクスがあり、新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。多数の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、音楽を描き切った青春群像小説。第156回直木賞受賞作。

 受賞が決まる前に、インフル休暇中に読み終えました。6度目のノミネートだったというし、よかったのではないでしょうか。
 ただ、序盤はものすごくワクワクしてものすごいスピードで読んだのですが、個人的には尻すぼみに凡庸になっていったという印象を受けました。というか、これだけのキャラクター設定をしておきながらそれぞれがそれほど絡まないんですね。別に恋愛ドロドロをやれというつもりはないし(個人的にはそういうものを読みたくはありましたが)、テーマとしてはあくまで音楽であり個々の音楽との闘いを描くことに主眼があったのでしょうが、それに終始してしまってキャラクター同士のドラマがほとんどなくてもったいなく感じてしまったのです。
 まあ群像劇、ということでそれぞれの人生をきちんと描いているんだからいいのだ、という見方もあるのでしょうが…私は、その絡み合い、変化が読みたかったので、やや不満でした。
 でもそういうこと以外は、とても楽しく読みましたし、感動的だったと思います。

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