駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『Pal Joey』

2010年10月12日 | 観劇記/タイトルは行
 青山劇場、2010年10月4日ソワレ。

 流れ者のクラブシンガー、ジョーイ・エヴァンス(坂本昌行)はもいつか自分の店を持ち、自分にしかできない夢のショーを作る野望を抱いている。シカゴのチープなナイトクラブでMCの職を得るが、クラブの看板シンガーはジョーイのかつての恋人グラディス・バンプス(彩吹真央)だった。ある晩ジョーイは田舎から出てきたリンダ・イングリッシュ(桜乃彩音)と街のコーヒー・ショップで出会う。さらに、気まぐれで店を訪れた大富豪夫人ヴェラ・シンプソン(高畑淳子)にも甘く迫る。愛すべき相棒「パル」と呼ばれたジョーイの行く先は…
 原作・脚本/ジョン・オハラ、作曲/リチャード・ロジャース、作詞/ローレンツ・ハート、翻訳・訳詞・演出/吉川徹、振付/リチャード・ピークマン。1940年ブロードウェイ初演、2008年にリチャード・グリーンバーグが新脚色。映画版はフランク・シナトラ主演の『夜の豹』。1989年に『魅せられてヴェラ』というタイトルで日本初演。1991年に宝塚歌劇団で『パル・ジョーイ』として公演。

 ユミコとアヤネの宝塚退団後の初舞台、というので観に行きました。
 私が観た日はちょうど東京公演中だった花組の休演日で、まとぶん、えりたん他たくさんの生徒が観劇していました。
 グラディスが客席登場の「Zip」で、
「あら、ここ、イケメン揃いね」
 なんてかまっていました(^^)。

 三人の女たちは均等の魅力を放つのが理想だと思うので、それでいうとリンダは、まあどうしても地味なポジションになりがちなんだけれど、もう少しだけがんばってもよかったかな。こういう女のしたたかさって実はけっこう本質的なんだけれど、舞台を作るような男性には一番ピンとこないものなのかもしれませんね。
 でもアヤネはニンにあってたし、天然ボケっぽいところはきちんと笑いが取れていたし、よかったと思います。男性アンサンブルにがんがんリフトされているのを見て、まとぶんは何を思ったのかしらん…もちろん自分の方はもう新しい嫁を迎えているわけですが(^^;)。

 ヒロインポジションはどちらかというとグラディスなのかな。
 でも宝塚の『パル・ジョーイ』もシギさんがヴェラを演じていたようなので、こちらを重く扱う演出も確かにありえたのでしょうね。

 三人の女たちはみんながそれぞれにジョーイに恋して、けれど誰もジョーイを捕らえきれず、逆にいえばそれぞれみんなジョーイを見限って、より強く、しなやかに、美しく、賢くなっていく。
 それは女の正しい生き方です。
 逆に言うとジョーイは男そのもの。お馬鹿な男そのものです。
 いつも、いつまでも、ここではないどこか、今の自分ではない自分を捜し求めて、追って追って、ふらふらと歩いている。
 そんなものはどこにもないのに。自分は自分でしかないのに。おそらくそのことに彼は一生気づかない…

 これはそんな男の愚かさと、賢く美しくなっていく女たちとの不毛な一瞬の行きずりを描いた、とてもせつなくほろ苦い、ドライな物語なのだと思います。

 だからこそ、ジョーイにはもう一押し、
「ダメな男だってわかっているけど、惚れちゃうんだよねえ」
 というようなチャームが、欲しかった。
 坂本くんはとても達者で歌もダンスも過不足なかったと思うけれど、その、「味」が、「魅力」が、足りなかったかなあ。
 こういう、ホントに男ってこうだよねえ、というキャラクターをこそ、宝塚の男役が演じると効果があったりするもんなんですけれどねえ。宝塚版はどんな感じだったんだろう…観てみたいものです。

コメント
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