駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『瞬きもせず』再読

2020年06月07日 | 日記
 文庫購入時の感想はこちら。ちなみに全四巻の間違いです。
 今回のコロナ禍でできた時間で愛蔵コミックスを端から再読しているのですが、新たに買い込んでしまったコミックスもあり、収める場所を空けるべく「もういいかな…」みたいなものは手放そう、ともしています。で、私は紡木たくはもともと世代ではないのですが、『ホットロード』とこの作品は大人になってから有名だからと読んでみて、感動して文庫で買い揃えていたわけです。が、『ホットロード』は今回読んだらあまり響かなかった…やはり、かなり幼く思えたのかもしれません。もちろんそれがこの作品の良さなのですけれど。
 で、なので合わせて『瞬きもせず』も手放して、本棚に空きスペースを作るか…と思って再読したのですが、これはうっかり、特に後半、感動しました。そしていろいろな意味で残念なことに、これって全然古びていない作品なんじゃないかと思ったのでした。
 私は神奈川県の生まれ育ちなので、もちろん細かい市町村となるとまた違うかもしれませんが、少なくとも主人公たちのように東京の人間に「山口ってどこ?」みたいに故郷のことを言われることはありませんでしたし、東京の大学に進学するという進路がもっと身近にカジュアルに、存在していたと思います。こんなふうに家族や故郷を捨てて出ていく、みたいな悲壮な覚悟で決断するものではなかったし、夢を追ってそこでしかできないことをする、と気負って出ていくものでもありませんでした。でもやはりそれはかなり恵まれた環境で、もっと地方(特に差別的な意味で言っているのではありませんが)ではまだまだ大事だったんだろうな、というのは自分がそれこそ大人になってから気づかされたことでした。
 そして今、ネット環境が整って、電話や手紙だけでなくメールもスカイプもなんででもつながれるよ、世界中のどこへ行っても同じことだよ、となっても、やっぱりまだまだ高いハードルがいろんな意味で存在しているのだろうな、と、さらに大人になった私には見えてきてしまったのでした。特に日本は、ひと頃より確実に貧しくなっていて、未だに親に「女の子なんだから地元でいいでしょう」と言われたりすると聞きますし、何より東京の大学が女子だけ受験の点を落としたりしている。この物語の時間から何十年もたっているのに、誰もが望むように生きたいところへ行ってがんばれる未来なんか全然訪れていないのです。
 だから、今、リアル世代の子供くらいの歳の今のお若いお嬢さんたちがこの作品を読んでも、めっちゃ響くのではないでしょうか。
 高校生。まだまだ子供で、器用にあれもこれもなんてできなくて、部活やクラスメイトとのあれこれに一生懸命で、恋をしても自分のことだけで精一杯で、それでも相手のために何かしてあげたいとは思って、空回りして、喧嘩して、大人に怒られて、邪魔されて、誰もわかってくれなくて、でも進路を決める日はどんどん迫ってきて、夢も希望も将来もなんか怖くて、決められなくて…
 甘酸っぱい、苦しい、せつない、ただただ一生懸命なだけの、まぶしい日々を独特の筆致でほとんど実直と言っていい描き方で紡ぎ出している、やはりあまり他に似た作品がない、名作のひとつだな、としみじみ思いました。後半、絵が急に大人びるのはわざとだったのかなあ…
 なので、そっと本棚に戻すことにしたのでした。

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