駒子の備忘録

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清水玲子『DeepWater<深淵>』(白泉社花とゆめコミックススペシャル)

2014年07月12日 | 乱読記/書名た行
 病院で行方不明になった女児。地区大会で記録を出した美少女。事件現場に現われた潔癖症の刑事。すべてがゆっくりと絡み合い出す…

 少女漫画家は長く活動していると、キャラクターやストーリーの作り方が時代の流れからずれること以上に、絵がまず枯れたり乱れたりしていくものです。
 清水玲子は絵が上手い、と言うか上手すぎるくらいなのでそれはないのだけれど、上手くなりすぎて愛嬌が欠けてきました。わざとなのかもしれませんが。何故なら『秘密』は薪さんという萌えキャラ(笑)がいるせいもあるかもしれませんが、まだキャラクターの瞳が力を入れて描かれていて、読者は登場人物に共感したり感情移入したり好感を持つことができます。
 しかしこの作品ではそれを拒むかのようにキャラクターの顔、特に目があっさりと描かれています。もう少しだけ大きくはっきりと、かつ目と目を離して描くだけで顔立ちは華やぎ愛嬌が出て読者はそのキャラクターに好感を持ちやすくなるにもかかわらず、まるでわざとのようにそう描いていません。
 題材が題材なだけに、キャラクターに感情移入させて読ませるには重すぎる話だと判断してのことなのかもしれません。だからわざとドライに描いて読者を突き放しているのかもしれません。
 でも私はそれはやはり寂しいと思いました。少女漫画だろうと社会派の青年漫画だろうと、漫画でありエンターテインメントであり、読者はキャラクターを愛しながらストーリーを追いたいものだと思うのです。
 それがさせてもらえないなら、そこで描かれるお話はただの他人の起きた自分にはなんの関係もない事件で、心揺すぶられるドラマにはなりえないのです。
 このお話の中でキャラクターたちが体験することは一般的でもないし普遍的ですらないかもしれない。けれどこういう深淵、暗い闇の淵は形を変えて我々の日常のどこにでも潜むものであり、それを知っている読者にはこのお話はもっと響いたはずです。キャラクターの描き方にもう少しだけ愛嬌があって、こちらの思い入れを許してくれるものであったなら。
 それがないのが残念です。それではせっかくの感動的なラストシーンも感動できません、心が揺れません。
 それではもったいないと思います。読者の心をや揺らしてこその漫画、漫画家なんじゃないのかなあ。なんの遠慮をしているのかなあ。残念だなあ、と私は思います。
 全然違う意図で描かれたものだったらすみません…
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