駒子の備忘録

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サラ・ウォーターズ『黄昏の彼女たち』(創元推理文庫)上下巻

2016年06月01日 | 乱読記/書名た行
 1922年、ロンドン近郊。戦争とその後の混乱で兄弟と父を喪い、広い屋敷に母とふたりで暮らすフランシスは生計のため下宿人を置くことにする。募集に応じたのはレナードとリリアンのバーバー夫妻だった。ふとしたきっかけから、フランシスは自分よりも年下のリリアンとの交流を深めていくのだが…時代に翻弄される女性たちの姿を、殺人事件を通して描くミステリー。
 
 どんな話かよくわからないまま読み始め、じりじりとスリリングでたいそうおもしろく、萌え萌えで上巻を読み終えました。
 そうしたら巻末解説にもあるとおり下巻からは全然違うテイストの作品になって、それはそれでまたおもしろく読み進めたのですが…
 しかし…ラストは…えっ、これで終わり!?って感じなんですけど!?
 どうやらモデルにした実際の事件があるようですが、その顛末とかはどうでもいいです。その事件にインスパイアされたんだとして、この作家は何をどう感じ考え、何を言いたくて自分でこの作品を書き起こしたの? それが見えないから、激しく尻切れトンボ感を感じるんですけど!?
 以下ネタバレしますが、要するにこの物語は、家主のオールドミスと下宿人の若い人妻が恋に落ちてしまい、半分事故のようなものながら夫を殺してしまう話です。ふたりは事故死に見せかけようとしますが、警察は他殺を疑い、容疑者が逮捕されて裁判になる。
 最終的にはその容疑者にはアリバイを証言してくれる証人が出て、証拠不十分として無罪の判決が出てこの裁判は結審します。で、物語もそこで終わっています。
 でも、では彼女たちの罪は? 警察は真犯人捜しを続けるかもしれないじゃないですか、彼女たちにたどりつくかもしれないじゃないですか。あるいは彼女たち自身が、今回は自分たちが犯人であると名乗り出なかったけれど、この先罪の意識に耐えかねて告白したくなるかもしれないじゃないですか。
 夫が実はずっと浮気をしていたひどい男だった、ということが明るみに出ることと、彼女たちが事故のようなものとはいえ手を下してしまったこととは実はあまり関係がないはずです。彼女たちはこのことをどう考えているのか? 露見を免れてよかったよかったさあこれからはふたりでラブラブで生きていこうと考えているのか、怖いから黙ったままでいるし一生背負っていくけれどふたりの関係はもう終わりで人生そのものももう終わったも同然ねと考えているのか、とにかく何か提示してくれないと、読者としては途中で放り出されてしまった気しかしません。
 もちろん実際の人生はそんなふうに決めつけられるものではないのかもしれません。でもこれは物語だからさ、お話だからさ。オチをつけなきゃダメでしょう。結論を出さなきゃダメでしょう。どっちに転ぼうと、それをいいことだと描こうと悪いことだと描こうとどっちでもいいから、とにかく何か書かないと。今までこの物語につきあわせてきた読者に対する、それが最低限の礼儀ではないの?
 それとも読み取れなかった私が悪いのでしょうか…でもなんか、わざと中途半端にぶった切ったような幕切れを狙った、って感じでもないじゃん。えー、こんなの消化不良だよー。プンプン。
 と、なかなか呆然とした読書体験になりました。




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