駒子の備忘録

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佐藤史生『夢見る惑星』

2023年12月29日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名さ行
 小学館コミック文庫全3巻。

 遠い古代の都。祖先は聖なる船に乗り、星の海を渡ってきたと神話に伝えられていた。その都アスカンタは富貴と美にあふれ、人々は翼竜とともに空を翔ける。その国に若き大神官が生まれようとしていた。幻視者ライジアに育てられた銀の髪、銀の瞳の王子イリスである。だが、繁栄を謳歌するアスカンタの上にすさまじい運命の序曲が響き始める…

 私は雑誌「プチフラワー」を通っていなくて、そこから生まれた今に伝わる名作のほとんどを大人になってから読んだのですが、以前読んだときには『ワン・ゼロ』もこの作品もさほど刺さらなかった記憶があります。が、このたびたまたままた手にする機会があって、読みにくさに辟易しながらも読み進めたら、いいじゃん、持っていてやってもいいかも、と思えたのでした(何様)。
 2巻の解説が絵の下手さに言及していますが(解説なのにすごい原稿を書くし、止めない編集もすごい)、私も言いたいのはまずそこなんですよねー。絵の下手さはともかくとして、漫画の下手さには閉口してしまうんですよ。何故そのコマ割りになるんだ、何故そのコマのその位置にフキダシを置くんだ、何故その構図の絵を描くんだ…と読んでいて脳内つっこみが激しいのです。セオリーだけでももっと上手くできるし、センスや才能がある作家ならもっと効果的に描くぞ、とイライラしてしまうのです。
 でも、その目を覆いたくなる拙さの奥に、「こういうことが描きたいんだよね」というのは見て取れるし、それは確かにおもしろいものなのでした。なので今なお愛し続けている人が多い名作なのでしょう。
 SFとしては、わりとよくあるお話かな、と思います。人類は火星に芽吹いて育ち、星を渡る技術を手に入れ、一部の人が宇宙船に乗って地球に渡ってきて、船を埋めた谷を中心に神殿を据えた。五千年のうちに多くの知識や技術が失われ、人々が築いた王国はごく素朴なものとなり、かつ民の精神的支柱は神殿にあり続けたので、そこから離れることなくごく狭い地域で繁栄しているにすぎなかった。なので地殻変動の予兆が現れたときには、総員絶滅の可能性があった。原始大陸パンゲアはローレシアとゴンドワナに分かれて、人類が再び地球の歴史に現れるのは億という年月が流れたのちであった…ね? よくあるものです。
 イリスとシリンは金剛の背に乗って逃げ延び、タジオンとフェーベも、カラも、ゲイルも、このときは無事であったようです。けれどマグマの噴出はこれだけではすまなかったろうし、灰が空を覆い気候が変わり、飢餓や疫病に見舞われてこのあとさらに多くの命が失われて、やがては何もかもがまっさらになったことでしょう。それはこの物語では描かれない。この切り上げ方の潔さがいい。そこまでの人間模様を描いた物語だったからです。
 優れた少女漫画によくあるように、これも少女漫画らしからぬ(という言い方は本当にアレなのですが)政治や宗教や文明や民族や文化の問題の真髄を描いた作品で、そこも素晴らしいです。もっと手練れが描けばもっと傑作になったのに、と思わなくはないのですけれどね…
 キャラクターとしては私はタジオンが好きです。あとはカラとかね、もちろん。
 タイトルが美しいですよね。時は流れ続け、大地は夢を見続け、命はその星に輝き続ける…
 文庫はちょっとネームが小さすぎるので、大判の愛蔵版みたいなものが買い直せないか、ちょっと探してみたいと思います…





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