大学生の澤は家庭教師先の高校生・七央に片思いしていた。七央は将来有望なバレエダンサーで、傲慢で甘え上手な少年。いつも彼女がいて、澤は振り向いてもらうなど考えてもいなかった。しかしある日、澤の色気に気づいた七央が…
雑誌でポツポツ読んでいたのですが、まとまったというので読んでみました。
まず、絵がいいですよね、線に色気があって。デッサンがしっかりしているところも好みです。BLなんてセックスを描くに決まっているんだから(暴言)、身体を正確に描く画力がない漫画家とかマジ勘弁、なのです私は。あと、ちゃんと男性の肉体が描ける漫画家がいい。女体と見分けがつかないようでは、これまた私は萎えるのです。その点、この作品は片割れがバレエダンサーの設定なので、バレエシーンもちゃんとしているし普段の描写の中での筋肉も身体そのものも綺麗に描けていて、見ていて気持ちがよかったのでした。
総じて好きな話だっただけに、でももうちょっとページを取って描き込んでほしかったかなーという部分もありました。倍とはいわないけれど、1.5倍のページをかけてもいい作品だったのではなかろうか…でも最初から1巻本にする予定だったのかなあ。
たとえば冒頭、できればふたりの出会いから見たかった。曜一が七央のどこにどう恋するのかを見たかったんですよね。まあでもこれは、恋しているんです、ってところから話を始める手もあるので、我慢します。
で、そのあと、七央はヤリチンといってもいいくらいにガールフレンドを取っ替え引っ替えしている、まあある種健康な異性愛者の男子高校生なんでしょうが、曜一は生来の(?)同性愛者で、のちに「はじめて好きな相手とセックスしちゃった」みたいなことを言っているので、いわゆる2丁目なんかでゆきずりみたいな性体験しかなくて…ということだったのかなとか思うのだけれど、そういう前提条件みたいなものをきちんと描いておいてもらってから、それから、だけどこのふたりのこの恋がこう始まり…と展開してほしかったのです。
あと、基本的に視点人物は曜一とされているのに、ふたりが初めてするに至るくだりだけ一瞬、七央視点になるのは演出のミスです。これは編集者が直させなきゃダメ、両方の気持ちを描いちゃダメ。それじゃ読者は神になり他人になってしまう。曜一の身になって、七央の気持ちがわからないままで、それでドキドキしながら読みたいんだから。
あと、七央にしてもおそらく同性相手のセックスはさすがに初めてだったと思うので、もうちょっととまどったり手こずったりのちに葛藤してほしかったりはするかなー、とは感じました。要するにもっとネチネチ丁寧に進む物語を楽しみたかったのです(^^;)。
でも全体としてとにかく好きな物語でした。年齢差萌えとか体格差萌えとかは私には特にないのだけれど、アーティストの恋愛って題材にわりと興味があるんですよね。だからそのあたりももう少しネチネチ描いてほしかったけれど、それもページがない印象でそこは残念でした。
ふたりはそのままちょっと都合のいいセフレみたいな関係になっちゃうんだけど、曜一は自分が愛されるはずなんかないという自己肯定感の低さだし、七央のことをスターと崇めすぎちゃっているのでなかなか素直な恋愛にならず…みたいなのが、もっとウジウジ楽しめると私としてはなおよかったですね。七央の方でも、確かに彼はバレエが一番でそれ以外のことは二の次で、まして曜一にはどれだけ甘えてもいいと思っていて、そういう意味でも実は特別ってことなんだけれどそれにはなかなか気づけなくて、でも曜一のバイト先の女性には嫉妬したりすることもあって…とかがあってもよかったかなと思うのです。
ともあれ、曜一はとにかく七央のことが好きすぎて自分のことは低く見過ぎていて、七央の邪魔にならないように、また自分が傷つかないように先回りしすぎていて、一方の七央は傲慢で周りが見えてなさすぎで曜一に甘えている自分に無自覚でだけど安心毛布は必要で…っていうのがすれちがいの原因になる恋愛の物語で、間にどかんと12年も時間をとばしてしまう、というのもなかなかいいなと思いました。そのまんまあっさり上手くいく恋愛なんてありえないんだから、別れて、再会して、再燃して、それでもどうにかなるなら、するなら、やっと本物、みたいな、そういうドリームが見たくて人はBLを読むのではないかしらんと思うのです。12年の間に何かあったか、それで今どんな大人になっちゃっているか、の描写ももうちょっと掘ってほしかったですけれどね。
プロポーズのアウティング疑惑、というつっこみも現代的でよかったです。
ふたりともメガネのかけ方が流動的なのは、リアルなんだろうけれどキャラ立てとしては曜一だけにした方が、わかりやすかったかもしれません。それでいうとふたりとも黒髪というのも珍しい。まあ描き分けができていないわけではないので、混同するようなことはないからいいのですが。
やんちゃな少年とソフトな雰囲気の青年だったふたりが、ギラギラした中年と変わらず若く見えるやややさぐれた青年、みたいに見かけが逆転した成長・変化をするのもおもしろい物語でした。オチは、あとがきにあるように外国でふたりで暮らすところまで描いた方がよかったとは思いますけれどね。
と、何かと注文が多い感想ですみませんが、それくらい、もったいなく思えるところが多々あったけどとにかく好みの、素敵な作品だった、ということを書き付けておきたかったのでした。BLってやはり性癖との細かい合致が重要だから、愛蔵して何度も繰り返し読むに足る作品に出会うのはなかなか大変ですよね。でも私はこれは愛でていきたいです。過去作も読めたら読みたいと思っています。
雑誌でポツポツ読んでいたのですが、まとまったというので読んでみました。
まず、絵がいいですよね、線に色気があって。デッサンがしっかりしているところも好みです。BLなんてセックスを描くに決まっているんだから(暴言)、身体を正確に描く画力がない漫画家とかマジ勘弁、なのです私は。あと、ちゃんと男性の肉体が描ける漫画家がいい。女体と見分けがつかないようでは、これまた私は萎えるのです。その点、この作品は片割れがバレエダンサーの設定なので、バレエシーンもちゃんとしているし普段の描写の中での筋肉も身体そのものも綺麗に描けていて、見ていて気持ちがよかったのでした。
総じて好きな話だっただけに、でももうちょっとページを取って描き込んでほしかったかなーという部分もありました。倍とはいわないけれど、1.5倍のページをかけてもいい作品だったのではなかろうか…でも最初から1巻本にする予定だったのかなあ。
たとえば冒頭、できればふたりの出会いから見たかった。曜一が七央のどこにどう恋するのかを見たかったんですよね。まあでもこれは、恋しているんです、ってところから話を始める手もあるので、我慢します。
で、そのあと、七央はヤリチンといってもいいくらいにガールフレンドを取っ替え引っ替えしている、まあある種健康な異性愛者の男子高校生なんでしょうが、曜一は生来の(?)同性愛者で、のちに「はじめて好きな相手とセックスしちゃった」みたいなことを言っているので、いわゆる2丁目なんかでゆきずりみたいな性体験しかなくて…ということだったのかなとか思うのだけれど、そういう前提条件みたいなものをきちんと描いておいてもらってから、それから、だけどこのふたりのこの恋がこう始まり…と展開してほしかったのです。
あと、基本的に視点人物は曜一とされているのに、ふたりが初めてするに至るくだりだけ一瞬、七央視点になるのは演出のミスです。これは編集者が直させなきゃダメ、両方の気持ちを描いちゃダメ。それじゃ読者は神になり他人になってしまう。曜一の身になって、七央の気持ちがわからないままで、それでドキドキしながら読みたいんだから。
あと、七央にしてもおそらく同性相手のセックスはさすがに初めてだったと思うので、もうちょっととまどったり手こずったりのちに葛藤してほしかったりはするかなー、とは感じました。要するにもっとネチネチ丁寧に進む物語を楽しみたかったのです(^^;)。
でも全体としてとにかく好きな物語でした。年齢差萌えとか体格差萌えとかは私には特にないのだけれど、アーティストの恋愛って題材にわりと興味があるんですよね。だからそのあたりももう少しネチネチ描いてほしかったけれど、それもページがない印象でそこは残念でした。
ふたりはそのままちょっと都合のいいセフレみたいな関係になっちゃうんだけど、曜一は自分が愛されるはずなんかないという自己肯定感の低さだし、七央のことをスターと崇めすぎちゃっているのでなかなか素直な恋愛にならず…みたいなのが、もっとウジウジ楽しめると私としてはなおよかったですね。七央の方でも、確かに彼はバレエが一番でそれ以外のことは二の次で、まして曜一にはどれだけ甘えてもいいと思っていて、そういう意味でも実は特別ってことなんだけれどそれにはなかなか気づけなくて、でも曜一のバイト先の女性には嫉妬したりすることもあって…とかがあってもよかったかなと思うのです。
ともあれ、曜一はとにかく七央のことが好きすぎて自分のことは低く見過ぎていて、七央の邪魔にならないように、また自分が傷つかないように先回りしすぎていて、一方の七央は傲慢で周りが見えてなさすぎで曜一に甘えている自分に無自覚でだけど安心毛布は必要で…っていうのがすれちがいの原因になる恋愛の物語で、間にどかんと12年も時間をとばしてしまう、というのもなかなかいいなと思いました。そのまんまあっさり上手くいく恋愛なんてありえないんだから、別れて、再会して、再燃して、それでもどうにかなるなら、するなら、やっと本物、みたいな、そういうドリームが見たくて人はBLを読むのではないかしらんと思うのです。12年の間に何かあったか、それで今どんな大人になっちゃっているか、の描写ももうちょっと掘ってほしかったですけれどね。
プロポーズのアウティング疑惑、というつっこみも現代的でよかったです。
ふたりともメガネのかけ方が流動的なのは、リアルなんだろうけれどキャラ立てとしては曜一だけにした方が、わかりやすかったかもしれません。それでいうとふたりとも黒髪というのも珍しい。まあ描き分けができていないわけではないので、混同するようなことはないからいいのですが。
やんちゃな少年とソフトな雰囲気の青年だったふたりが、ギラギラした中年と変わらず若く見えるやややさぐれた青年、みたいに見かけが逆転した成長・変化をするのもおもしろい物語でした。オチは、あとがきにあるように外国でふたりで暮らすところまで描いた方がよかったとは思いますけれどね。
と、何かと注文が多い感想ですみませんが、それくらい、もったいなく思えるところが多々あったけどとにかく好みの、素敵な作品だった、ということを書き付けておきたかったのでした。BLってやはり性癖との細かい合致が重要だから、愛蔵して何度も繰り返し読むに足る作品に出会うのはなかなか大変ですよね。でも私はこれは愛でていきたいです。過去作も読めたら読みたいと思っています。
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