駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『THE MONEY』

2023年08月27日 | 観劇記/タイトルさ行
 CBGKシブゲキ!!、2023年8月25日18時半、26日17時。

 シンカンミツキ(寿つかさ)の夫が突然失踪した。理由は不明。警察に相談しても門前払いで、ミツキは自ら夫を捜索する中、ある洋館を訪れてひとりの女と出会う。その女、アオイ(七海ひろき)は「あなたと5000万円を山分けしたい」と言う。そのお金はミツキの夫が過去に犯罪行為により手に入れたもので…
 脚本・演出/保木本真也、プロデュース/七海ひろき。他の配役はマリ/緒月遠麻、サエ/伶美うらら、ウオ/澄風なぎという、元宝塚歌劇宙組子によるミステリー・シチュエーションコメディ。QQカンパニー初公演、全1幕。

 ひと口に宝塚OGといっても卒業後の進路は幅広く、芸能関係に進む人はむしろ意外と少ないのかもしれませんが、その中でもかいちゃんはなかなかに独自な路線を切り開いていて、ホントすごい人だと思っています。小劇場とか、ブロデュースとかに興味があるというのも、なんとなくさもありなん、です。かつての仲間を揃えて、テレビドラマの主演をした際の脚本家さんに当て書きでオリジナル書き下ろしを依頼して、ちゃんと舞台の形にしてみせるんだから、ホントたいしたものです。
 休憩なし、90分の脳味噌が揺さぶられるシットコムで、観客もタイヘンですがもちろん役者はもっとタイヘンなのでは…卒業後の初仕事、というか初主演のすっしぃさんは、出演者が70人と5人の違いはもちろんありますが、今のれいちゃんよりれいこちゃんより咲ちゃんよりこっちゃんより多い量の台詞を間違いなく担当しているだろう、と思いました。でもこなしちゃうんだもんな、ジェンヌってホントすごい…! それで言えばかいちゃんも、キタさんも、ゆうりちゃんもたっくも、一癖も二癖もある役をきっちり演じて、ボケてつっこんで笑いも取っての八面六臂で、ホントたいしたものでした。『刀剣乱舞』には呼んでくれたのに、うちのはダメでしたかかいちゃん…?とか実は思っていたのですが、こりゃ無理だ、このスピードには対応できないよねあきちゃんは…とか思いました、すみません。
 とにかく、ホントおもしろかったし、興味深かったです。

 以下ネタバレで語ると、サブタイトルは「薪巻満奇のソウサク」とされていて、これが夫を捜索しているシンカンミツキのこと…と思いきや、実はそれは劇中劇で、これはマキマキマキというややアレなペンネームでミステリーを執筆している小説家の創作なのでした。かいちゃんは「ソウくん」と呼ばれる編集者ですが、おそらくは「蒼」みたいな字で、それで小説の中ではアオイという女性キャラになっているのかもしれません。このふたりが現実の存在(?)で、マリ、サエ、ウオはマキが創作した作中のキャラクターです。が、作家の脳内ではよくあることに、実感を持って、実在の人物のように動き出し、作者自身もコントロールできなくなっていったりするのでした。
 そんなメタ、とも違うけれど、二重構造を持った作品で、展開に詰まったマキがソウと相談しながらお話を作っていき、作中で「5人の犯罪者」が右往左往する、という舞台です。最後はオープンエンドというか、ミステリーとしてダメじゃん!アレレ??みたいな終わり方をするのですが、まあ別に綺麗に決着しなくても、そこまでの過程やドタバタがおもしろいからいいんだよ、というタイプの物語です。
 というか、なのでメインのドラマとしては書けないと騒ぐ作家となんとかして原稿を取ろうとする編集者との駆け引き、掛け合いにあり、それは今は営業ですが過去20年編集をやっていた身としてはもうエモエモのエモでめっさ刺さるのでした。「いや、書けよ!」とか思わず怒鳴るよね、ウンウン(笑)。
 そう、世の中のみなさんは、編集者の仕事って原稿を待つことや受け取ることだと思っていて、作家の仕事場の座敷かなんかでイライラ時計見ながら座って待ってる…みたいなのがイメージなのではと思いますが、本質的にはそうではなくて、作家と一緒にお話を考えるのが仕事なんですよね。もちろん実際に文章にしたり漫画に仕立てるのは作家なんだけれど、話はほとんど自分が作った、原作料が欲しいくらいだ、って人から、ストーリーには本当にノータッチでただ作家を気分良く作業させることに注力してお茶入れたりおやつ差し入れたりするだけの人まで、関わり方に濃淡はありますが…そうやって共同作業で形にした作品が、ミリオンセラーの大ヒットになってアニメになりドラマになり映画になって作家が億万長者になっても、編集者には印税はビタ一文入りません。逆にまったく当たらずかすらず儲からず、作家がなけなしの原稿料では食べていけずバイトしてずっとモヤシを食べてしのぐ極貧生活を送っていても、編集者はちゃんと会社からお給料をもらえています。そういう商売なんです、編集って。で、会社の業務として担当を振られたら、作家につく。
 マキとソウは年齢もキャリアも差がありそうですが、まあまあいいコンビなのでしょうね。でも、友達でも恋人でも家族でもない。担当している間だけの関係なので、ビジネスパートナーとも言い難い。でも、協力して、おもしろいものを、誰かに愛され求められるものを作ろうと、あーでもないこーでもないと大騒ぎして七転八倒する生き物同志です。そんな一夜を描いた90分なのでした。
 ある意味で全員が二役を演じていて、その役者がみんな達者で、照明の変化が効果的で(照明/村山寛和)、BG程度なんだけど音楽もニクくて(音楽/森優太)、ワンシチュエーションでなんでもできるということがよくわかる、演劇の醍醐味にあふれた舞台でもありました。また座組を変えて、いろいろやっていってほしいなあ。かいちゃん、ホントすごいなあ。
 小さいハコでしたが完売御礼、配信もやるし、さすがですね。大阪公演もどうぞ無事に完走するよう祈っています。来たことがある気でいた劇場でしたが、記録も記憶もなかったので初めてでしたね。椅子がいいのに仰天しましたが、前列との間は狭すぎました…でも作品にはちょうどいい大きさで、生声でも十分で、わけてもキタさんは十分以上の声量でした(笑)。というか同伴した後輩は滑舌がいいのに感動していたなあ…確かにあんな長台詞、まあまあ早口でも綺麗に聞き取れましたもんね。やはりクオリティが高いなあ…
 しかし観た2回とも80分、85分くらいで終わってました。マキだけに、巻きすぎでは…(笑)残りの公演も、どうぞご安全に。





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