駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『ナイツ・テイル』

2021年11月03日 | 観劇記/タイトルな行
 帝国劇場、2021年10月29日17時半。

 テーベの騎士で従兄弟同士のアーサイト(堂本光一)とパラモン(井上芳雄)はテーベ王の伯父・クリオン(大澄賢也)に仕えている。熱い友情を誓い合い、騎士としての誇りと名誉を何よりも大切に生きていたが、戦争により敵国アテネの大公シーシアス(岸祐二)に捕虜として捕らえられてしまう。互いに励まし合いながら同じ牢獄で過ごしていたふたりは、ある日、シーシアスの美しき妹エミーリア(音月桂)を窓から見かけて、同時に恋に落ちてしまう…
 脚本/ジョン・ケアード、音楽・歌詞/ポール・ゴードン、日本語脚本・歌詞/今井麻緒子、音楽監督・オーケストレーション・編曲/ブラッド・ハーク、原作/ジョヴァンニ・ボッカッチョ「Teseida」、ジョフリー・チョーサー『騎士の物語』、ジョン・フレッチャー、ウィリアム・シェイクスピア『二人の貴公子』、演出/ジョン・ケアード、振付/デヴィッド・パーソンズ。
 ともに1979年生まれ、2000年帝劇デビューの主演ふたりに当てて書かれた2018年初演のミュージカル、待望の再演。全2幕。

 初演時、ヨシオにキムで観たいなと思ったのですが、ジャニーズ案件でチケットが取れる気がせず、見送りました。再演と聞いて今度は観たいとクレカ先行抽選とかいくつかがんばったのですが、やはり取れずにしょんぼりしていたらご縁あってお譲りいただき、出かけてきました。
 でもほぼノー知識で臨んだので、1幕はちょっと退屈しました。まず序曲が長いなと感じちゃいましたしね。和楽器が入るオケやシックな色味の衣裳(ジーン・チャン)、ある種抽象的な美しい美術(ジョン・ボウザー)が作る世界観は素敵で、シェイクスピアの詩的な台詞もいいんだけれど、神話のような、あるいはタイトルにも表れているそのフェアリー・テイル感に、当初ついていきづらいものを感じてしまったのです。役者がみんな上手くて、本当ならもっと血肉の通った芝居もできるしキャラももっと濃く立てられるんじゃないの?と感じてしまったせいもあるかもしれません。 
 だから2幕が俄然おもしろかったです。あっ、こうなるんだ!?という展開もおもしろかったし、それこそキャラに急に血が通い生き生きと動き出した気がしました。まさみりの『二人の貴公子』は以前スカステで見たきりでしたが、それからすると翻案の差もあるけれどもう断然よかったしおもしろかったですね!
 しかしそれからするとやはりアーサイトとパラモンはもう少しキャラ立てした方がいいのでは…役者の体格差もあって双子のように瓜ふたつの従兄弟、というふうに見せるには無理があると思いましたし、だからもっとでこぼこコンビみたいに見える方がよかったのではないかなあ。ヨシオはただのノッポではないから、並ぶとやっぱり光一くんが華奢に小粒に見えちゃって損している気がしました。それにポジティブとロマンチック、なんてんじゃちょっと差異がわかりにくかったです。でも、ちょっとしか知らないのとほとんど知らないのからでもエミーリアは選ぶんだしさ(笑)、やっぱりもうちょっと何か欲しいですよねえ…
 しかし途中ホントみんなエミフラエンドでええやろって思うよね、すらりと美人のキムエミーリアとちいちゃくてファニーフェイスな萌音フラヴィーナはすごくお似合いのカップル(笑)なんですもん。でもそのハンサムウーマンなエミーリアがほぼほぼ同じか下手したら男の方が小さいやろってアーサイトとくっつき、大柄なパラモンがちいちゃいフラヴィーナを愛するようになる、その組み合わせ方も好きでした。何よりそこへまとまるまでの経緯がよかった。ホント、世の王様って妹とか娘とかのために勇者を集めて戦わせて勝者に彼女を与えるとかよく言い出しがちだけど、その娘の夫なんだからその娘に選ばせろよ、そして選ばれなかった男たちも殺させるな、ってホント言いたいですよね。何故すぐそうも争わせるんだ、そういう形でしか競えないのか、人の話をそもそもよく聞けよ、と思う。そして男がそういう戦闘の神マルスにけしかけられるなら女は情愛の女神アフロディーテに流されて…とかではなく、叡智の女神アテナの審判に従いましょう、ってなるところが本当にいい。もちろん都市アテネの物語だから、というのもあるけれど、人生を懸ける契約たる婚姻はそれくらいの冷静さで結ばれないとダメでしょう。でもただ損得ずくで言っているわけではないことは、やはりある種の捕虜としてアテネに連れたこられたアマゾンの女王ヒポリタ(島田歌穂)がこれらの経緯を通してシーシアスをちゃんと愛するように変化したことにも表れているのです。3組カップルの成就で大団円、というのはよくあるパターンだけれど、本当にめでたい、かつフェミニスト的視点も入れた現代仕様になった美しいオチで、感動しました。オタク教養としてギリシア神話は抑えている身なので、ことのほか楽しかったです。
 アンサンブルの素晴らしい身体能力とダンスも、メインキャストの素晴らしい歌唱も、まったく危なげがなく鮮やかで、安心して観ていられました。鹿は特によかったなあ。そして音楽、訳詞もとてもよかったです。これは素晴らしい作品を、東宝は手に入れたものですねえ。世界で上演されていくのかな、そうやって日本のミュージカル(と言っていいのかはスタッフ陣からしてちょっと疑問ではありますが)がより大きく広がっていくといいなあ、と思います。
 これは梅芸スタートで博多座まで行くんですね、無事の完走をお祈りしています。また観たいなあ、というかちょっとリピートしたくなる幻惑性がありました。通うファンは楽しいだろうなあ、よきことです。
 

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