駒子の備忘録

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青池保子『アルカサル-王城-』

2020年05月30日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名あ行
 秋田書店プリンセスコミックス全13巻。

 14世紀のスペイン、奔放な情熱と冷酷な策謀で荒々しい時代を駆け抜けたカスティーリャ王ドン・ペドロ1世「残国王」の波乱の生涯の光と影を、中世戦国時代のパワー・ゲームの中に描いた歴史大作。

 外伝が1巻まで出て、そこからもう10年が経っている作品ですが、忘れた頃にまた続巻が出ることでしょう…キャリアの長い漫画家さんですが、未だ元気に他の作品を連載中ですからね。外伝の続きは気長に待つことにして、まずは本編の感想を、これまた長く愛蔵してきたのにまとめていなかったことをコロナ再読で気づいたので、上げておきます。
 ちなみに宝塚歌劇で舞台化されたときの感想はこちら。まったく褒めておりません! 原作に謝れ!と思う二次展開は残念ながらよくあることなのですが、このときも本当に本当にそう思い、観劇中ずっと座席で怒りに震えのち脱力した記憶があります…

「描きたい心」に捕らわれて、情熱のままに資料をかき集め取材旅行もし、コツコツじりじりと描き進められた、壮大な歴史絵巻です。婚姻含め血縁関係が入り乱れていたり、国の内外ともに不安定で敵味方がコロコロ入れ替わったりする中での、政治と戦争と人間ドラマを時に重厚に時に軽妙に描いていて、とてもおもしろい作品です。魅力的で多彩なキャラクターたちがきちんと描き分けられ、また愛情を込めて描かれているのがいい。過酷な時代ではありますが、女性キャラクターが生き生きしていて虐げられるばかりでないのもいい。
 連載はドン・ペドロがセビリアの王城を完成させる絶頂期で一度中断され、13年後に再開されて完結させたパートは駆け足の説明とまとめ、みたいな構造になってしまっていますが、凋落期を描くにはかえって良かったのかなと思います。しかし王妃と王太子のペストによる死がそのきっかけとなったのだなと思うと、今やとてもしんどいものですね…
 この時代の王権は一にも二にも血統によるもので、ドン・ペドロは庶兄のエンリケと陰に日向に戦い続け、最後はその手に討たれ、しかしのちに彼らの孫同士が結婚してカスティーリャ王家をつないでいく…という歴史の綾に心打たれます。物語としても綺麗な終わり方だと思いました。
 セビリアには20年ほど前に旅行したことがありますが、まだ初夏なのにとにかく暑かった記憶…スペインはまだまだあちこち行ってみたい国のひとつです。ゆかりの地も巡ってみたいものです。



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