駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『SHINE SHOW!』

2023年08月23日 | 観劇記/タイトルさ行
 シアタークリエ、2023年8月21日18時。

 真夏の夕暮れ時。オフィス街の一角にある複合オフィスビルの中庭に豪華な野外ステージが建てられ、派手な照明と爆音の中、音楽ライブが行われている。このビルにオフィスを構えるさまざまなジャンルの会社員が参加し、歌唱力を競う夏のカラオケ大会だ。「第48回あかりビルディング会社対抗のど自慢大会」3日目、決勝大会当日、チャンピオンが決まろうという裏で、さまざまなトラブルが発生し…
 作/冨坂友、演出/山田和也、音楽/栗山梢、ステージング/青木美保、美術/中根聡子。「普段は全く違う仕事をしている会社員達が、年に一度スポットライトを浴びて歌手になる、会社対抗のど自慢大会」「それを舞台裏の騒動のバックステージコメディとして描き、さらには後半をショーにする」という構想で企画され、作家主宰の劇団アガリスクエンターテイメントで昨年上演された作品をこの座組で上演。全二幕。

「“働くこと”を格好良く描こう」「人は、働き、歌うものだ」というコンセプトがいいですし、バックステージものとして、シチュエーション・コメディとして、お仕事ものとして、とてもよくできた舞台でした。ミュージカルではなく、あくまで歌謡ショーつきのストプレ…みたいな構成なのもいい。もう一押し歌唱を増やしてさらにショーアツプしてもよかったかもしれません。でも、本当にウェルメイドなコメディでした。
『ムーラン・ルージュ!』が洋楽ヒットメドレーならこちらは邦楽ヒットメドレー、とプログラムにありましたが、確かに「対抗して」いるのはそこで(笑)、そしてある意味拮抗したいいオリジナル作品が作れていると思いましたから、たいしたものです。まあこれがワールドワイドに通じるかというとそこはアレなのですが、ローカル内評価では遜色ないと思いますし、なんならこっちの方が刺さるという層だってあるでしょう。いやホントたいしたものでした。
 作家にも役者にもサラリーマン経験などほぼないはずですが、会社あるある、仕事あるあるな感じと、今どきあるあるな台詞、演技がとてもナチュラルかつ秀逸で、感心しました。今をちゃんと生きていないと、こういう台詞はなかなか描けないしこういうふうにお芝居できないものです。人間というものに対する見方がちゃんとしているということでしょう。
 また、まぁ様が流れるようなビジネス敬語を使い90度のお辞儀をし、パンツスーツで闊歩するバリキャリを演じる姿とか、なかなか見られるもんじゃないですよね。アイドル上がりの経理OLでいかにもな制服着ながら警備員室でクダ巻いちゃうかのちゃんとかね、新鮮かつおもしろすぎました。みんないい配役だし、19人の登場人物全員がみんなよく立っていて、素晴らしかったです。いわゆるプリンシパル以下は劇団アガリスクエンターテイメントの劇団員がほとんどだったようですね、そこもまた手堅かったです。
 惜しむらくは、私は笑いには厳しいのですが本当におもしろく観たので、おそらく週末の公演の方がもっとどっかん盛り上がっていたのではなかろうか、と感じられたことです。平日の夜公演はそれこそ仕事を終えて来たお疲れ気味のOL観客が多いからなのか、わりと客席の笑いが少なめに感じたんですよね…まあ、こういうのは1回1回空気が違うものだから、仕方ないかな。
 鈴本さん(朝夏まなと)が安易に加瀬くん(小越勇輝)とくっつくとか、あるいは弦田さん(久ヶ沢徹)といい感じになるとか、なくてホントよかったです。加瀬くんはイベント担当1年目ということを差っ引いても、気が利かない、仕事が今ひとつできない今どきの小僧な後輩で、鈴本さんはホント優秀だから正しい叱り方としっかりした指導をしているんだけれど、最後には「おまえ全部言うのな!」とキレちゃったりして(笑)、でもそうやって胸襟開いたからってやっぱり十か下手したら干支一回りも歳が違うんだろうし、歳の差はともかくそれぞれ別にお相手がちゃんといるのかもしれないし、たとえフリーの独身同士でもそれでラブが生まれるかといったら全然そんなことはなくて、所詮は会社の先輩後輩なんだから、たとえ異性でも何も漂わなくて当然なんですよ。でもついラブ、描きがちでしょ、フィクションって。でもこの作品はそういうことをしていない、それがいいのです。
 琴浦さん(花乃まりあ)と浅見さん(淺越岳人)もそうです。かつてのアイドルとその単推しドルオタがOLと警備員として再会して、何かが生まれちゃったりしちゃったりしないでもないところを、何もないままに終わるのです。でも浅見さんは満足でしょう、そこがいい。琴浦さんも同期のちひろ(榎並夕起)と和解しますしね、その方が大きいですよね。それでも飲みになんか行かないところも、なんかリアルでよかったなあぁ。
 司会者コンビが元恋人同士だったり、父と息子の確執があったり、プロポーズ大作戦があったり、Vtuberの身バレ騒動があったり、ネガティブというかほぼ鬱みたいなシステムエンジニアのひとり相撲があったり…トラブルは多彩でホントどれもめんどくせー!ってなもんでしたが、鈴本さんががんばってバサバサ捌く姿がホント凜々しかったです。
 てか中川あっきー、ピンクのスーツはプロポーズ用衣装だったんだね、ってのがめっちゃおもしろかったし、イベントスタッフの秋野さん(前田友里子)役の女優さんがホントいい味出していました。てかみんなそんな人に見えるの、すごいよなあ…代理店さんとかさ、ゲストミュージシャンとかさ。
 でも全部さらっていったのは木内健人の「粉雪」熱唱とドリフ(笑)、だったかな。仕事の書類をシュレッダーにかけたものが紙吹雪として使われ、それがドカ雪のごとく落とされる…ってだけなんだけど、やはり破壊力がありすぎました。まあ笑った笑った、ドリフってすごい…! また歌がむやみに上手いんだコレが!!(笑)
 もちろんかのちゃんのあややもよかったよ、さすが元トップ娘役ですよきゅるんきゅるんでしたよ! そしてまぁ様も、まさかの音痴設定なんだけどそれがまたよかったし、イメージの弦田さんと微妙にハモっちゃうのもおもしろすぎたし、そもそも鈴本さんの弦田さんのファンっぷり、モジモジっぷりがもう可愛すぎておもしろすぎました。てかみんなホント芝居が上手すぎる…! 贅沢…!!
 私は音楽には疎い自身があるのですが、こういうカラオケ大会ってこういう選曲になるよね、って感じでやや昭和な、メジャーな歌謡曲揃いだったのも楽しかったです。BGをちゃんと聞くためにリピートしたくなっちゃうくらいでした。こういう作品がロングランになっていったり、また違う座組で上演されていったり、シアタークリエがシットコムの聖地と呼ばれるようになる…と、ホント素晴らしいんだろうなと思いました。演劇には、舞台には、まだまだ可能性があるなあ。オリジナル作品、がんばってもらいたいなあ。
 元気が出る観劇でした。







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