駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇花組『激情/GRAND MIRAGE!』

2023年12月03日 | 観劇記/タイトルか行
 梅田芸術劇場メインホール、2023年11月17日15時半(初日)。
 相模女子大学グリーンホール、12月2日12時。

 19世紀。フランスの作家プロスペル・メリメ(凪七瑠海)はスペインのアンダルシア地方の旅行中にひとりの男と出会い、彼をモデルに小説を書く。その男の名はドン・ホセ(永久耀せあ)。ホセはセビリアの祭りで、情熱的な瞳を持つロマの踊り子カルメン(星空美咲)と出会うが…
 原作/プロスペル・メリメ、脚本/柴田侑宏、演出・振付/謝珠栄、作曲・編曲/高橋城、作曲・編曲・録音音楽指揮/斉藤恒芳、高橋恵、フラメンコ振付/蘭このみ、フラメンコギター作曲・演奏/染谷ひろし。1999年宙組初演、四度目の上演。

 初日雑感はこちら。星全ツ感想はこちら、月全ツ感想はこちら
 もともと好きな演目ですが、今回も堪能しました。
 全ツで初めてこの作品をご覧になる方がうらやましいです。だいたいのお話を知っていたとしても、宝塚版だと、この演目だとこうなるんだ…!という衝撃があると思います。柴田脚本、謝演出の凄みを感じる一作に仕上がっていると思います。今回、セット(装置/國包洋子)が一部新しくなってよりスタイリッシュさを増したのも大きいと感じました。衣装(衣装/有村淳)も一部新しくなっていて、印象的だった軍服の黄色い手袋や上着を脱いだときの黒シャツにサスペンダーがなくなってしまったのは残念でしたが、「ほう、こうキタか」感が味わえたのも楽しかったです。
 梅田ではまだあたふたして見えましたが(こちらも浮き足立っていますしね)、相模大野では本当に深化していて、大号泣しました。
 あとはどなたかもつぶやいていましたが、全ツあるあるのトンテンカンテンがほぼなくて…大道具さんも進化しているんだな、と感心したりしました。ラストの刈谷まであと一週間ほど、がんばっていただきたいです!

 ひとこちゃんはホセには線が細いかな、とも思っていたのですが…実によかったですね! このキャラは田舎から出てきた純真で無垢な若者…と作ることもできるかとは思いますが、本当ならそのまま田舎で果樹園でもやって幼馴染みと結婚してなんの問題もなかったろうところを、何かのアクシデントではあるのでしょうが友達を傷つけて田舎にいられず、都会の軍隊に逃げ込んできたという設定があるキャラです。障害の前科がある、という意味ではカルメンと同じであり、そういうちょっと危なげなところのある、暗いものをすでに背負ってしまっているキャラとしての面を強く出すこともできるお役で、暗い目のキャラが得意なひとこちゃんの面目躍如といったところではないでしょうか。
 あと声がホントいいよね…独特の、ちょっと擦れたりつぶれたりにも聞こえる声なんだけれど、別に喉が苦しそうということは全然なくて、歌えるし叫べるし、せつなくてデカくて(笑)ホントいいのです。感情が乗って、ビンビン響いてくる。素晴らしいホセでした。
 星空ちゃんのカルメンも、体当たりでいい感じでした。次期トップ娘役就任が控えているなら、本当はもっと娘役力を高める時期で、こういうお役ができちゃう部分がいい方に出るかは実はなんとも…とも思うのですが、そんなに器用な方でもないだろうし、目先の課題に真摯に取り組む姿勢はやはり尊いです。歌えるし身体も利くし、臆せず演技しているのが本当にいいなと思いました。ただ、ヒールが折れたのかと思うような低い靴を履かされているのはせつない…ひとこの相手役としてはタッパがありすぎるんだと思うので、それは私は懸念しています。ほのかもそうタッパがあるタイプではないし、らいとまでは待てないだろうし…私は彼女の促成栽培っぷりはどこか他組に出す予定があるからなのかとずっと思っていたのですが、今のこの状況では人事はホント水ものになっているでしょうしね…でもちなつなら膝折りはしなくていいんじゃないの?とそっとここで言ってみたりしておきます。
 カチャはやっぱり上手いな!とは思いました。ガルシア、ホント格好いいと思うの…! でも単純に新鮮みという点で、あかちゃんのメリメ/ガルシアが観たかったし、それはよりエモかったろう、と思うのでした…てか『バレンシア』全ツで主演して大羽根背負って、今またいわゆる3番手羽根に戻らされるとは、劇団もなかなか酷では、と思うのですよ。どうするつもりなんでしょう…月に降臨、とかもなくはない線なのでしょうか??
 スニーガ(紫門ゆりや)はゆりちゃん、さすが上手い。そしてほってぃーのダンカイレ(帆純まひろ)が本当によかったと思いました。エスカミリオ(綺城ひか理)の脳天気キャラも、まああえてのあの役作りなんだろうな、とそれはそれで納得でした。しかし何故ここのソロはちょこちょこ変わるんだ…それでいうと街の男女とロマとの喧嘩歌も何故変えたんだ…ナゾです。
 みょんちゃんのミカエラ(咲乃深音)はやはり芝居より歌がいいなという印象のままでしたが、なんせあの四重唱場面が素晴らしすぎるわけで…ここのハーモニーといい、歌は前回の月全ツよりやはり底上げされていると感じました。
 ところでエステルの美里玲菜はやはり歌も芝居も不安定だったと思うのですが…可愛いんだけれども!(><)
 コロスも全編いいんですよね、ホント舞台を観ている!って気がしてゾクゾクさせられるのでした。
 ラストの、微笑み手を差し伸べるカルメンは、死にゆくホセが見た幻であり、ホセに背を向けて立ち去ろうとしたカルメンがあくまで本物なのです。けれどだからといってカルメンがホセを愛していなかったということではない。カルメンはホセになら殺されても仕方ない、と思ったからこそ無防備な背を向けたのであり、ホセの腕の中で彼の頬に手を当て、愛を伝え、けれどそれ以上に自由を愛していたのだ、自分の意志であなたを愛したかっただけなのだ、と告げて、息絶えたのでした。けれどホセはカルメンがいないともう生きていけなくなっていたのであり、だからこそ彼女を殺してでも行かせたくなかったのであり、そしてその行為ゆえに逮捕され、処刑され、ひとりで生きていかずにすんだわけなのでした。
 本当は、ホセはそう思い込んでいただけで、生きてさえいればまた別の希望が見つかり、その後は平穏な人生を歩むことだってできたはずなのです。でも、彼はそんな未来に目をつぶり、盲愛の果てに死んだのでした。愛ゆえの死こそ至高、とはメリメは書かなかったことでしょう。けれどひとつの出来事として、物語として、ふたりのこの生と死は永遠に刻まれる。我々はただ涙し花を手向けることしかできない…そんな深い余韻の残る、素晴らしい演目だと改めて思いました。

 ネオ・ロマンチック・レビューは作・演出/岡田敬二。
 謝先生振付でスタイリッシュな新場面だった「幻影」が、どちらかというともう手垢のつきまくった「ゴールデン・デイズ」に変更になったため、わりとフツーのロマレビになってしまったなという印象はありますが、ひとこの負担軽減やカチャの見せ場作りという意味では正しいし、全ツには本当にいいレビューだと思うので、よかったかと思います。間奏曲が男役ばかりになってしまったこともあり、娘役の歌のピックアップがほぼなかったのは(花海ちゃんのカゲソロは絶品でした!)残念だったかな。エトワールはみょんちゃん、美声でした!
 

 次期発表はいつになるのかなあ、お披露目演目も込みだろうし、ずれ込むときは本当にかなり遅くまでずれ込む例がありますしね…しかも今はあまりおめでたい演出をしづらいときでもあり、まあまあ待たされるのかもしれません。
 生徒もスタッフも組ファンもそれ以外のファンも、みんななるべく元気で幸せでいてください。いられるよう、劇団はがんばってください……
 





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