宝塚大劇場、2023年7月7日13時(初日)、20日11時、27日13時、18時(新公)。
東京宝塚劇場、9月12日18時、14日18時半(新公)、10月7日11時。
舞台は花咲藩の城下町。3年ぶりに歌合戦が開催されるという嬉しい報せに、町は大いに賑わっていた。堅苦しい宮勤めを嫌う浪人・浅井礼三郎(柚香光)は木刀削りをしながら、貧しくも気楽に暮らしていた。彼の周りでは、隣家の傘貼り職人の娘・お春(星風まどか)や料亭香川屋の娘・おとみ(星空美咲)、親同士が勝手に約束した許嫁・藤尾(美羽愛)が恋の鞘当てを繰り広げていて…
潤色・演出/小柳奈穂子、作曲・編曲/手島恭子、振付/尾上菊之丞、若央りさ。1939年公開の同名の日活映画(監督/マキノ正博、脚本/江戸川浩二)を原作にしたオペレッタ・ジャパネスク。
初日雑感はこちら。
結局原作映画を見られていないので、比べて語ることができないのですが、映画は一時間ちょっとのものだそうだし、尺を足すためにも礼三郎が実はお殿さま(永久輝せあ)の兄だった、という設定が足されているんだそうですよね。なのでやはりその分もうちょっと芝居というか脚本も足さないと、生徒さんたちがちょっとやりづらそうだったし、こちらも勝手に補完して観るにしてもややもの足りないというか間延びして感じるというかぶっちゃけちょっと退屈するところはあるのでは…とは思っていました。映画がやっているような芸名のキャラで押し切る、といったことは生徒さんたちもショーではやり慣れているんだろうけど、芝居はやはり役を作り込み演技したくなるんだと思うんですよねえ…
お春が礼三郎に「幸せになってもいいのよ」云々言うくだりは、映画にもあるんでしょうか。そんなの全然ない、ただの恋の鞘当てラブコメなのかな? でも礼三郎の出自のドラマを足した分、クライマックスでこの台詞が効いてくるんだと思うので、ここですべてのフラストレーションが解消されるように持っていかないとならないんだと思うのですが、結局やや弱いままだったかな、と何度か観ても私は感じたのでした。
礼三郎さんは、要するにいわゆる捨て子だったわけで、彼を拾ったお武家さまは当時すでに妻を亡くしてやもめだったのでしょうか? それで、実子だと周囲にも本人にも偽ることができず、お寺の庭先で拾ったという事実を彼に伝え、でも十分に慈しんで育てたなのかな…彼は最後まで武士だったのかなあ? それで藤尾との縁組も決めたんでしょうしね。礼三郎さんも一度は宮仕えをしたことがあって、それで剣術指南役を打診されてこともあって、でも堅苦しいのが嫌で浪人になった…ようですが、出自に関して讒言されたとかなんとか、何かお城勤めが嫌になる事件があったのかもしれません。別に全部を細かく設定したり説明したりしなくていいんだけれど、想像して補完するにしてももうちょっと手がかり足掛かりの台詞なりなんなりが欲しかったよな、とは思うのです。
父親が男手ひとつで、清貧に甘んじつつ礼三郎を立派に育ててくれて、彼もすくすく育って父親に感謝していて、いい青年に育ち上がった。でもどこかで、自分は実の親に捨てられた、要らない子供だったんだ…という悲しみがあって、なんかちょっと世を拗ねてしまっているところがある…ということなんですよね、おそらく。だからお春を愛しく想い、彼女の想いにも気づいていながらも、そこから先、どうしようということはしないでいる、できないでいる。
だからってお春が借金のカタに妾奉公に出されるのを静観なんかしていられなくて、助けに入る。その拍子に自分が捨てられた顛末を知り、実の親に疎まれたわけではなかったことを知り、家族とも再会する。さらにその拍子に、狂斎(和海しょう)の麦焦がしの壺が天下の名品だと発覚して、お春の件がお金の力で解決されそうになったので、まあちょっと逆ギレ気味に「私は金持ちは嫌いだ」になった…んだと、思うんですよね。
彼が嫌うのは金持ちというよりは成金、あるいは拝金主義の人間であって、狂斎もお春もそもそもそういう人ではありません。お春が父の稼ぎについてうだうだ言うのはちゃんとしたごはんが食べたいから、そして歌合戦に着ていくのに晴れ着のひとつもあつらえたいからだけであって、ごく普通の要望、感覚だと思いますし、何も金にあかせて贅沢三昧して遊んで暮らしたい、と考えているようなさもしい人間ではありません。ちゃんと働くからちゃんと食べて暮らしていける分だけのおあしは欲しい、というのはごくまっとうなことで(聞いてるか日本政府?)、礼三郎さんにこんな悪し様に言われるほどのことではないはずなんです。
お春はそれをちゃんと掬い上げて「幸せになっちゃいけないと思ってるんでしょ」などいろいろフォローするわけですが、やはりちょっとトートツだし、観客に「イヤイヤお金は大事だよ…?」とか思わせないためにも、もう少していねいな展開が欲しかったな、と私は思ったのでした。
でも、そういう、からりとさらりとのほほんと、我関せずの浮浪雲みたいな振りをしてみせていて、実はコンプレックスや拗ねや嫉みや僻みや甘えの塊みたいなこじらせ青年だったことが判明した礼三郎さんが、天下の名品をうっちゃって割る行動に出たお春の、真摯で率直な説得や告白に軟化して、やっと全部受け入れて、すべてが正されて、もうお城勤めは面倒だしこのまま長屋で貧乏暮らしかもしれないけれど食べるだけなら十分で、お殿さまも心を入れ替えたので民草の暮らし向きもきっともっと良くなるだろう(来ているか増税メガネ?)、晴れてハッピーエンドで祝言じゃー!と大団円になだれ込む…とできると、本当にスッキリ楽しいハッピー・オペレッタ・ジャパネスクに仕上がったと思うのですよね。そこは本当にもったいなかったです。でも、目をつぶれない点ではないし、なーこたんは本当にこうした翻案が上手くて、ホント信頼できます。
「♪腰の丸みのほどの良さ」については、まあこれも映画にあるんだろうし、これをまるっと抜いちゃうとなかなか話が作りづらいんだろうし、まあ昔の話なので…とこれもギリギリ目をつぶれるんじゃないでしょうか。いや本当はたとえ昔の話だろうと今やるんだから今の価値観でやっていかないとダメなんだ、修正していかないといつまでもこういう古い価値観が再生産されてしまうんだ…という意見ももちろんあります。でもそれこそなーこたんなので、わかってて、仕方なくなやってるよね?という信頼が持てるし(女性だからわかってくれるはず、というような安易なものではないにせよ、これまでの実績で彼女にはそうしたセンシティブな案件にセンサーがちゃんとあることは実証されていると思うのです)、ひとこちゃんが実にクレバーかつあっけらかんと色ボケ殿をいい塩梅でやってくれているので、ギリ許せる…というのも大きいと思います(彼女のファンで、彼女にこんなことをさせるなんて…とお怒りの筋がいるだろうことも、もちろんわかるのですが)。あとは何より、やっているのが結局タカラジェンヌ、つまり全員女性なので、というのが大きいと思います。今、リアル男優にコレをやられたら「舐めとんのかワレ」とキレると思う。でも、女性観客と同じ性別の人たちがやっているものだから、ギリ受け入れられるんじゃないかな、と思うのです(もちろん女性にこんなことをさせるなんて、という見方があることもわかるのですが)。
…と、このあたりが気になっただけで、でも新公明けの前々楽に久しぶりに観たときには、小芝居が増えて生徒たちが脚本の隙間をみっちり埋めて、このホンでできるところまではすべてやり遂げた、って出来になっていて、楽しく人情味あふれる作品に仕上がりきっていて感心しました。礼三郎さんも大劇場では気持ちあったように感じられたマンスプみがまったくなくなり、本当にお春に優しいし、でもおとみちゃんとの間に挟まれてあわあわしたり、相合い傘ではお春が手を添えてくると傘を持つ手を自分に引き寄せてそのままお春も引き込むという、なんともキュンキュンなくだりもあって、もうたまらなかったです。お春のプンスコ度や「ちぇっ」の愛らしさも天井知らずで、怒ったお春が膝をパンと打つとしーちゃんパパが正座のまま床からぴょんと弾んでみせたりしていて、こちらも可愛すぎでした。おとみちゃんはいわゆる悪役令嬢なんだけれど、こちらも嫌味のない迫り方や嘘泣き、ワガママっぷりが憎めなくていい感じになっていて、私は星空ちゃん(の主に顔)が苦手なんですがそれでもニヤニヤさせられました。藤尾も、父親にやらされているだけでなくて本当に礼三郎さんが好きで意外と茶目っ気で抱きついているんだなとか、お春との相合い傘目撃は本当にショックだったんだろうけどかえってそこでだいぶ吹っ切れて、父親の不正には本気で怒り、それで元気になって飛び出していき、そこで思わぬ男気を見せてくれた秀千代(聖乃あすか)にころりとまいっちゃったんだな、ってのが実にわかりやすくなっていて、もう可愛いのなんのって!
一時は声が枯れていて心配だった「嫌じゃ嫌じゃ」も何パターンもある秀千代がまた可愛かったし、空丸(美空真瑠)とのコンビもますます絶品でした。内緒話を聞くために秀千代の裃の形のところに耳を当てる空丸、ホント可愛かったなー…そこ、メガホンになってないんだよ!(笑)
きょんちゃん、しーちゃん、あかちゃんが上手いし、専科のゆりちゃんも劇中劇で寝ちゃうところとかホント上手い。うららちゃんも、初日の歌は手に汗握りましたがさすがに場数で前々楽ではだいぶそつなくこなすようになっていましたし、この人もちょこちょこ芝居を足していて仕草もおかしく、ここって意外と似たもの夫婦で、やっぱり心配なようで安泰なのかねこの藩…?とほのぼの思わせるのも良きでした。しかしそろそろ跡継ぎがいないと不安では…とは余計なつっこみか、出てこないだけで奥で乳母が面倒見ているのかもしれませんしね。
はなことだいやの瓦版の歌も初日は感心しなかったんだけど、どんどんしっかり歌えるようになっていってたからたいしたものです。三吉はずっと達者でしたがさらに上手くなりましたよね、ホントここらいとで観たかったよぉ、くうぅ…
糸ちゃんみょんちゃんの歌も良き。定番のお祭り場面も楽しく、まひろんも綺麗で上手くて、あおいちゃんもさすがで、ホントどこもかしこも適材適所な、元気な花組だと思いました。楽しかったです!
ネオ・ロマンチック・レビューは作・演出/岡田敬二。
こちらもいい方のロマレビだと思いました。アナクロさや退屈がなかったです。
なんてったってプロローグの淡いとりどりのペールトーンのお衣装がいいし、娘役のおぼうぼがいい。砂嵐とミラージュ、みたいな場面は宝塚のショーではよくある設定だと思うけれど、なんせダンスが上手いれいちゃんがやると5割増しで素敵なものになるし、まどかの生腹は拝みたくなる素晴らしさでした。次が一本ものだけに、れいまどがどの場面でもしっかり組んで踊っているのが本当に嬉しかったです。
逆にカンツォーネ場面が、いったいどーいう設定やねん、とまあ謎なのですが、こういうベタにゴージャスなお衣装を並べるのもいいものだし、まあまあ耳馴染みのある曲を並べるのもいいよね、と謎に許して楽しんでしまうのでした。ロマレビ沼、怖い…
で、シボネー・コンツェルトですよ! 私は初演は間に合っていなくて『ラ・カンタータ!』の…ってなところですが、いやぁイイですよね! 正直、振りはそんなに難しいことをやっているわけではないと思うんですよ。観ているとこちらも覚えられてできそうな(そんなの気のせいなんだけれど)ラジオ体操レベルの振りなんですよね、今どきの振付みたいな超絶技巧とかはない。でも、謎振付含めてポーズがいちいちカッコイイしフォーメーションや緩急が素晴らしいわけです。そしてたっぷりの尺でやる、コレがイイ! 男役一列から始まって、ひとこほのかが出てきて、さらにれいちゃんがセリ上がってきて、「シ、ボ、ネ~!」で娘役たちが嬌声とともにざーっと上下から出てくる、もうホント卑怯! そしてはなこの肩に乗ってて出てくるまどかよ…! あの床ペタペタする振りだってたいしたことやってるわけじゃないじゃん、でもカッコいいんだよ! 腕のクロスとかさ! なんなんだよ! 銀橋リプライズがないのは本当に残念ですが、本当に名場面になりましたし、今後も受け継がれていってほしい場面ですねー。
そのあとのほのかの「She」がまた本当にいいし、謝先生振付の「夜の街の幻影」場面も本当にお洒落でスタイリッシュで、ここでしか成立しない白黒黄のトンチキギリギリ衣装がまた素敵で、たまらないのです…!(しかしここはことのではなくみくりんではないのか…)
ロケットは初音夢ちゃんロックオンでした。小さいけど首が長くて本当に綺麗なので、早く娘役群舞に入ってもらってドレス姿も見たいけれど、この元気溌剌な脚上げもずっと観ていたいんだよ、という贅沢な悩み…
「ボレロ・ルージュ」はザッツ羽山先生ですよね、これまた本当に素敵。3カップルの「ジュテーム」も本当にロマレビっぽい、ザッツ間奏曲で素敵。フィナーレのトップコンビデュエダンに2番手スターが歌う構成も大好き、たまらん。白燕尾と白ドレスがクラシカルで本当に素敵…!
パレードまで甘く妖しく美しく、単調の主題歌も味わい深い、ロマレビを堪能し尽くせる良きレビューでした。好き!
最後に、新公を東西観られたので簡単に感想を。
初主演の天城れいんくん、達者でしたねー。本来の顔立ちは全然違うだろうに、れいちゃんに似せてしゅっとしたお化粧にして、素敵でした。もちろんれいちゃんより若く青い礼三郎さんなんだけれど、そこがよかった気もしました。
初ヒロインの朝葉ことのちゃんも、バウヒロイン経験済みなので任せて安心。可愛くいじらしく作れていましたが、しかしやはり顔立ちと持ち味がお姉さんタイプだと思うのですよ…花組にはもっと真ん中向きの娘役さんが他に何人も控えていると思うのですが…?
お殿さまは美空真瑠くん、この人もホントなんでも上手い、任せて安心、歌もいい。ゼヒ合うお役で主演が観てみたいですねー、イヤ合わない役でも上手いかも。
麗姫は星空美咲ちゃん、こちらも慣れたもので手堅くおもしろく、いい味を出していました。歌はもちろん本役より安定安心。
秀千代は鏡星珠くん、最近スカステで素顔の顔つきがいいなと思うようになってきました。前はもっととんがっていて、私はタイプじゃないなーとか思っていたので…抜擢がおちついた感があって、いろいろ経験させてもらえているのがいいのかもしれません。この人も近い将来の主演候補ですよね。今回も本役といろいろ変えてきていて、いい感じでした。空丸の希蘭るねくんがまたアイドル顔で、ちゃっかり可愛くてよかったです。
狂斎の海叶あさひくんもいつも上手いですよね、しーちゃんよりオーバー気味でこれまたよかった。蓮京院の詩希すみれちゃんもホント綺麗で、でもちゃんといい年より芝居ができていて、めっちゃよかった! この人もヒロインが観たいです! 『うたかた』新公のひとこと台詞であちゃーとなった美里玲菜ちゃんの尼僧も、今回は良くて胸をなで下ろしました。天風院の二葉ゆゆちゃんもしっとりほがらか。
そしておとみの愛蘭みこちゃんですよ、何故さっさとヒロインをさせないんだ劇団! かーわーいーいー、あーざーとーいー、チラ見嘘泣きたまらん! 蝶よ花よと育てられた嫌味のないお嬢っぷり、たまりませんでした。三吉は宇咲瞬くん、こちらもいい感じの丁稚ぶりで、ラストのラブコメターンも良きでした。
本役より断然インチキ感が増していた古道具屋さんたちは、涼葉まれくんが毎度手堅く上手く、まひろんのところを娘役にした初音夢ちゃんが場をさらう上手さ可愛さで、美羽愛ちゃんとのコンビ芸も可愛すぎました。
桔梗と浜菊は湖春ひめ花ちゃんと花海凛ちゃん、こちらも歌上手!
敦盛の遼美来も綺麗で印象的でした。殿の家臣たちはみんな羽織に着られていましたが、これからこれから。瓦版ギャル4人はみんな可愛かったです。
新公担当は菅谷元先生で、大きな変更はなかったと思います。東京でなーこたんとお席が近かったのですが、その隣にいた青年がそうかな…? 若手演出家が着々と育っているならいいことです。
東西観られると思うことは、やはり二度目はみんなのびのびできているので、最近またどちらか一度しかできない新公が続いていますが、なんとかこの貴重な場を死守してあげてほしいということです。もちろんお稽古は大変でしょうし、お教室の灯りが消されても続ける、みたいな働き方は改善していかないといけないでしょうが、その中でなんとかがんばっていっていただきたいものです。でないとやはり芸は育たないと思うんですよねえ…コロナその他で途絶えた伝統や習慣なんかの影響が出てくるのはもう少し先かもしれませんが、改めるべきは改めて、しかしいいものはきちんとつないで、その中でアップデートしていって、「宝塚歌劇でしかできないもの」を上演していってくれたら、150年でも200年でも続くかな、とは思うのです。
真の男女平等が実現した世の中になれば、存在意義を失う芸能だと私は考えています。でも残念ながらそんな世の中はおそらく実現しないので、ここで理想の愛と平和と平等と自由な世界を表現し続けなければいけないのだと思うのです。だから、スターがどんどん卒業していき入れ替わろうと、私はファンを続けるだろう、と思うのでした。
※※※
私は「『パガドスカファン』初日雑感」にも書いたとおり、9月29日の宙組大劇場公演初日と30日11時公演を観てきました。ショーのナニーロ銀橋場面で、初日は4人だった娘役ちゃんたちが3人しかいず、「あれ、有愛きいちゃんがいないな」と気づきました。終演後、だいぶ以前から全休が発表されていたキョロちゃんに足されて休演の札が劇場改札に掲出されていたのに気づき、怪我かな?などと心配しつつも、公式サイトの方には告知が出ていないなー、まあいつもなんか変な時差があるしなー…くらいにしか考えていませんでした。
もう自宅最寄り駅、というところで、テレビか何かで報道を見た、というツイートを見つけて、「何事!?」とそれをリツイートしました(Xとかリポストとか、まだ言わない主義です)。そこから、宙組も、次いで花組東京公演も上演が中止され、花組の方は大千秋楽3日前からの再開となりました。宙組の方は中止期間が延長され、昨日の発表、会見によれば、その後の再開あるいは再度の中止延長決定はその間の生徒(ないしスタッフも)のケアや調査その他の進展による、とされたようです。宙組にも卒業を控えた生徒さんはいますし、そもそもトップコンビのお披露目公演でもありますし、なるべく早期の再開を、とかせめて千秋楽だけは…みたいな要望もあるかと思います。でも、どうぞ拙速な対処とはなりませんよう…とは、案じています。ちなみに、この会見と質疑応答の全文記録を劇団が公式サイトに早急に上げるべきだとは考えています。報道を牽制しておいてこういうことだけ報道任せなのはダメでしょう…
事実はひとつ、真実は人の数だけ。観たい人も、今は観たくないという人もいるでしょうし、なんとしても舞台に立ちたい人、今はとても立てないと考える人、いろいろでしょう。宝塚歌劇団の規律が厳しいのは、大人数が関わる緻密な興行で、誰かが少しでも集中を欠くと事故につながりかねないものだからだと思います。だから全員がなるべく一致団結して当たらないと、危ないし、いいものにならない。だから焦りは禁物で、でも自前の劇場でも公演期間はすでに決まっていたり、生徒の進退も決まっていたりで、時間は有限です。いろいろな決断が本当に難しいところではあるでしょう。
どんな組織も団体もそうでしょうが、いろいろな問題や歪み、膿を抱えていて、すべてをいっぺんに清め正すことなど、無理なのでしょう。けれど、それを目指して、やるべきことはやらないとなりません。そして、それでも、失われた命は返らない…老齢で亡くなるまで団員だった生徒や、不慮の飛行機事故で亡くなった生徒を除けば、今回のような事態は初めてのことのはずです(かつてセリの事故が…と聞いたことがありますが、私は知りません。事実なのかな?)。でも今後二度と繰り返さないためにも、劇団にはきちんと、できることをしていっていただきたいです。たとえ劇団での活動に原因があったのではなかったとしても、おそらく最も多くの時間を過ごしていた劇団でもっと何かできたはずではなかったのか、という問題は残るからです。
私たちファンも、綺麗なものを見せるためには苦しんであたりまえ、とか、その裏には醜いものがあってあたりまえ、みたいな考え方とは縁を切らなければなりません。苦労しないといいものはできない、とかね。そんなことはないんです、人はハッピーでないと真のハッピーは生み出せないものでしょう。以前は知らず、人は、社会は進化しているはずなのですから。みんなで幸せになりましょう、そのために努力しましょう。
組替え、卒業、トップコンビの交替も控えていて、現役生に贔屓がいるファンは本当に気が気でなく、またとても他人事ではない心配事かと思います。私はそうではないので、それこそお友達たちにも安易に話ができず、手を束ねるばかりです。でも、案じています。心を寄せています。つまらない憶測や思い込み、噂などをしない、広めない、を心がけたいです。上演があってチケットがあればせっせと通い、なるべく存分に楽しみます。良ければ喜び、褒め称えて周りにも喧伝し、出来に感心しなければ批評もします。好みじゃない…という話も、控えないと思います。それは私個人の感性の問題であって、悪意だと言われればそう言う人にとってはそうなのでしょうが、それごと私が引き受けるしかないものなのでしょうから…なるべく、今までどおりに、自分なりに真摯に、愛していきたいと考えています。
これを機会に心が離れた方もいるでしょう(私の親友もそうです)、怒り狂っている方や、ひたすら悲しみ、落ち込んでいる方も、この文章を読んで傷ついた方もいらっしゃるかもしれません、申し訳ございません。
最後になってしまいましたが、亡くなられた生徒さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
東京宝塚劇場、9月12日18時、14日18時半(新公)、10月7日11時。
舞台は花咲藩の城下町。3年ぶりに歌合戦が開催されるという嬉しい報せに、町は大いに賑わっていた。堅苦しい宮勤めを嫌う浪人・浅井礼三郎(柚香光)は木刀削りをしながら、貧しくも気楽に暮らしていた。彼の周りでは、隣家の傘貼り職人の娘・お春(星風まどか)や料亭香川屋の娘・おとみ(星空美咲)、親同士が勝手に約束した許嫁・藤尾(美羽愛)が恋の鞘当てを繰り広げていて…
潤色・演出/小柳奈穂子、作曲・編曲/手島恭子、振付/尾上菊之丞、若央りさ。1939年公開の同名の日活映画(監督/マキノ正博、脚本/江戸川浩二)を原作にしたオペレッタ・ジャパネスク。
初日雑感はこちら。
結局原作映画を見られていないので、比べて語ることができないのですが、映画は一時間ちょっとのものだそうだし、尺を足すためにも礼三郎が実はお殿さま(永久輝せあ)の兄だった、という設定が足されているんだそうですよね。なのでやはりその分もうちょっと芝居というか脚本も足さないと、生徒さんたちがちょっとやりづらそうだったし、こちらも勝手に補完して観るにしてもややもの足りないというか間延びして感じるというかぶっちゃけちょっと退屈するところはあるのでは…とは思っていました。映画がやっているような芸名のキャラで押し切る、といったことは生徒さんたちもショーではやり慣れているんだろうけど、芝居はやはり役を作り込み演技したくなるんだと思うんですよねえ…
お春が礼三郎に「幸せになってもいいのよ」云々言うくだりは、映画にもあるんでしょうか。そんなの全然ない、ただの恋の鞘当てラブコメなのかな? でも礼三郎の出自のドラマを足した分、クライマックスでこの台詞が効いてくるんだと思うので、ここですべてのフラストレーションが解消されるように持っていかないとならないんだと思うのですが、結局やや弱いままだったかな、と何度か観ても私は感じたのでした。
礼三郎さんは、要するにいわゆる捨て子だったわけで、彼を拾ったお武家さまは当時すでに妻を亡くしてやもめだったのでしょうか? それで、実子だと周囲にも本人にも偽ることができず、お寺の庭先で拾ったという事実を彼に伝え、でも十分に慈しんで育てたなのかな…彼は最後まで武士だったのかなあ? それで藤尾との縁組も決めたんでしょうしね。礼三郎さんも一度は宮仕えをしたことがあって、それで剣術指南役を打診されてこともあって、でも堅苦しいのが嫌で浪人になった…ようですが、出自に関して讒言されたとかなんとか、何かお城勤めが嫌になる事件があったのかもしれません。別に全部を細かく設定したり説明したりしなくていいんだけれど、想像して補完するにしてももうちょっと手がかり足掛かりの台詞なりなんなりが欲しかったよな、とは思うのです。
父親が男手ひとつで、清貧に甘んじつつ礼三郎を立派に育ててくれて、彼もすくすく育って父親に感謝していて、いい青年に育ち上がった。でもどこかで、自分は実の親に捨てられた、要らない子供だったんだ…という悲しみがあって、なんかちょっと世を拗ねてしまっているところがある…ということなんですよね、おそらく。だからお春を愛しく想い、彼女の想いにも気づいていながらも、そこから先、どうしようということはしないでいる、できないでいる。
だからってお春が借金のカタに妾奉公に出されるのを静観なんかしていられなくて、助けに入る。その拍子に自分が捨てられた顛末を知り、実の親に疎まれたわけではなかったことを知り、家族とも再会する。さらにその拍子に、狂斎(和海しょう)の麦焦がしの壺が天下の名品だと発覚して、お春の件がお金の力で解決されそうになったので、まあちょっと逆ギレ気味に「私は金持ちは嫌いだ」になった…んだと、思うんですよね。
彼が嫌うのは金持ちというよりは成金、あるいは拝金主義の人間であって、狂斎もお春もそもそもそういう人ではありません。お春が父の稼ぎについてうだうだ言うのはちゃんとしたごはんが食べたいから、そして歌合戦に着ていくのに晴れ着のひとつもあつらえたいからだけであって、ごく普通の要望、感覚だと思いますし、何も金にあかせて贅沢三昧して遊んで暮らしたい、と考えているようなさもしい人間ではありません。ちゃんと働くからちゃんと食べて暮らしていける分だけのおあしは欲しい、というのはごくまっとうなことで(聞いてるか日本政府?)、礼三郎さんにこんな悪し様に言われるほどのことではないはずなんです。
お春はそれをちゃんと掬い上げて「幸せになっちゃいけないと思ってるんでしょ」などいろいろフォローするわけですが、やはりちょっとトートツだし、観客に「イヤイヤお金は大事だよ…?」とか思わせないためにも、もう少していねいな展開が欲しかったな、と私は思ったのでした。
でも、そういう、からりとさらりとのほほんと、我関せずの浮浪雲みたいな振りをしてみせていて、実はコンプレックスや拗ねや嫉みや僻みや甘えの塊みたいなこじらせ青年だったことが判明した礼三郎さんが、天下の名品をうっちゃって割る行動に出たお春の、真摯で率直な説得や告白に軟化して、やっと全部受け入れて、すべてが正されて、もうお城勤めは面倒だしこのまま長屋で貧乏暮らしかもしれないけれど食べるだけなら十分で、お殿さまも心を入れ替えたので民草の暮らし向きもきっともっと良くなるだろう(来ているか増税メガネ?)、晴れてハッピーエンドで祝言じゃー!と大団円になだれ込む…とできると、本当にスッキリ楽しいハッピー・オペレッタ・ジャパネスクに仕上がったと思うのですよね。そこは本当にもったいなかったです。でも、目をつぶれない点ではないし、なーこたんは本当にこうした翻案が上手くて、ホント信頼できます。
「♪腰の丸みのほどの良さ」については、まあこれも映画にあるんだろうし、これをまるっと抜いちゃうとなかなか話が作りづらいんだろうし、まあ昔の話なので…とこれもギリギリ目をつぶれるんじゃないでしょうか。いや本当はたとえ昔の話だろうと今やるんだから今の価値観でやっていかないとダメなんだ、修正していかないといつまでもこういう古い価値観が再生産されてしまうんだ…という意見ももちろんあります。でもそれこそなーこたんなので、わかってて、仕方なくなやってるよね?という信頼が持てるし(女性だからわかってくれるはず、というような安易なものではないにせよ、これまでの実績で彼女にはそうしたセンシティブな案件にセンサーがちゃんとあることは実証されていると思うのです)、ひとこちゃんが実にクレバーかつあっけらかんと色ボケ殿をいい塩梅でやってくれているので、ギリ許せる…というのも大きいと思います(彼女のファンで、彼女にこんなことをさせるなんて…とお怒りの筋がいるだろうことも、もちろんわかるのですが)。あとは何より、やっているのが結局タカラジェンヌ、つまり全員女性なので、というのが大きいと思います。今、リアル男優にコレをやられたら「舐めとんのかワレ」とキレると思う。でも、女性観客と同じ性別の人たちがやっているものだから、ギリ受け入れられるんじゃないかな、と思うのです(もちろん女性にこんなことをさせるなんて、という見方があることもわかるのですが)。
…と、このあたりが気になっただけで、でも新公明けの前々楽に久しぶりに観たときには、小芝居が増えて生徒たちが脚本の隙間をみっちり埋めて、このホンでできるところまではすべてやり遂げた、って出来になっていて、楽しく人情味あふれる作品に仕上がりきっていて感心しました。礼三郎さんも大劇場では気持ちあったように感じられたマンスプみがまったくなくなり、本当にお春に優しいし、でもおとみちゃんとの間に挟まれてあわあわしたり、相合い傘ではお春が手を添えてくると傘を持つ手を自分に引き寄せてそのままお春も引き込むという、なんともキュンキュンなくだりもあって、もうたまらなかったです。お春のプンスコ度や「ちぇっ」の愛らしさも天井知らずで、怒ったお春が膝をパンと打つとしーちゃんパパが正座のまま床からぴょんと弾んでみせたりしていて、こちらも可愛すぎでした。おとみちゃんはいわゆる悪役令嬢なんだけれど、こちらも嫌味のない迫り方や嘘泣き、ワガママっぷりが憎めなくていい感じになっていて、私は星空ちゃん(の主に顔)が苦手なんですがそれでもニヤニヤさせられました。藤尾も、父親にやらされているだけでなくて本当に礼三郎さんが好きで意外と茶目っ気で抱きついているんだなとか、お春との相合い傘目撃は本当にショックだったんだろうけどかえってそこでだいぶ吹っ切れて、父親の不正には本気で怒り、それで元気になって飛び出していき、そこで思わぬ男気を見せてくれた秀千代(聖乃あすか)にころりとまいっちゃったんだな、ってのが実にわかりやすくなっていて、もう可愛いのなんのって!
一時は声が枯れていて心配だった「嫌じゃ嫌じゃ」も何パターンもある秀千代がまた可愛かったし、空丸(美空真瑠)とのコンビもますます絶品でした。内緒話を聞くために秀千代の裃の形のところに耳を当てる空丸、ホント可愛かったなー…そこ、メガホンになってないんだよ!(笑)
きょんちゃん、しーちゃん、あかちゃんが上手いし、専科のゆりちゃんも劇中劇で寝ちゃうところとかホント上手い。うららちゃんも、初日の歌は手に汗握りましたがさすがに場数で前々楽ではだいぶそつなくこなすようになっていましたし、この人もちょこちょこ芝居を足していて仕草もおかしく、ここって意外と似たもの夫婦で、やっぱり心配なようで安泰なのかねこの藩…?とほのぼの思わせるのも良きでした。しかしそろそろ跡継ぎがいないと不安では…とは余計なつっこみか、出てこないだけで奥で乳母が面倒見ているのかもしれませんしね。
はなことだいやの瓦版の歌も初日は感心しなかったんだけど、どんどんしっかり歌えるようになっていってたからたいしたものです。三吉はずっと達者でしたがさらに上手くなりましたよね、ホントここらいとで観たかったよぉ、くうぅ…
糸ちゃんみょんちゃんの歌も良き。定番のお祭り場面も楽しく、まひろんも綺麗で上手くて、あおいちゃんもさすがで、ホントどこもかしこも適材適所な、元気な花組だと思いました。楽しかったです!
ネオ・ロマンチック・レビューは作・演出/岡田敬二。
こちらもいい方のロマレビだと思いました。アナクロさや退屈がなかったです。
なんてったってプロローグの淡いとりどりのペールトーンのお衣装がいいし、娘役のおぼうぼがいい。砂嵐とミラージュ、みたいな場面は宝塚のショーではよくある設定だと思うけれど、なんせダンスが上手いれいちゃんがやると5割増しで素敵なものになるし、まどかの生腹は拝みたくなる素晴らしさでした。次が一本ものだけに、れいまどがどの場面でもしっかり組んで踊っているのが本当に嬉しかったです。
逆にカンツォーネ場面が、いったいどーいう設定やねん、とまあ謎なのですが、こういうベタにゴージャスなお衣装を並べるのもいいものだし、まあまあ耳馴染みのある曲を並べるのもいいよね、と謎に許して楽しんでしまうのでした。ロマレビ沼、怖い…
で、シボネー・コンツェルトですよ! 私は初演は間に合っていなくて『ラ・カンタータ!』の…ってなところですが、いやぁイイですよね! 正直、振りはそんなに難しいことをやっているわけではないと思うんですよ。観ているとこちらも覚えられてできそうな(そんなの気のせいなんだけれど)ラジオ体操レベルの振りなんですよね、今どきの振付みたいな超絶技巧とかはない。でも、謎振付含めてポーズがいちいちカッコイイしフォーメーションや緩急が素晴らしいわけです。そしてたっぷりの尺でやる、コレがイイ! 男役一列から始まって、ひとこほのかが出てきて、さらにれいちゃんがセリ上がってきて、「シ、ボ、ネ~!」で娘役たちが嬌声とともにざーっと上下から出てくる、もうホント卑怯! そしてはなこの肩に乗ってて出てくるまどかよ…! あの床ペタペタする振りだってたいしたことやってるわけじゃないじゃん、でもカッコいいんだよ! 腕のクロスとかさ! なんなんだよ! 銀橋リプライズがないのは本当に残念ですが、本当に名場面になりましたし、今後も受け継がれていってほしい場面ですねー。
そのあとのほのかの「She」がまた本当にいいし、謝先生振付の「夜の街の幻影」場面も本当にお洒落でスタイリッシュで、ここでしか成立しない白黒黄のトンチキギリギリ衣装がまた素敵で、たまらないのです…!(しかしここはことのではなくみくりんではないのか…)
ロケットは初音夢ちゃんロックオンでした。小さいけど首が長くて本当に綺麗なので、早く娘役群舞に入ってもらってドレス姿も見たいけれど、この元気溌剌な脚上げもずっと観ていたいんだよ、という贅沢な悩み…
「ボレロ・ルージュ」はザッツ羽山先生ですよね、これまた本当に素敵。3カップルの「ジュテーム」も本当にロマレビっぽい、ザッツ間奏曲で素敵。フィナーレのトップコンビデュエダンに2番手スターが歌う構成も大好き、たまらん。白燕尾と白ドレスがクラシカルで本当に素敵…!
パレードまで甘く妖しく美しく、単調の主題歌も味わい深い、ロマレビを堪能し尽くせる良きレビューでした。好き!
最後に、新公を東西観られたので簡単に感想を。
初主演の天城れいんくん、達者でしたねー。本来の顔立ちは全然違うだろうに、れいちゃんに似せてしゅっとしたお化粧にして、素敵でした。もちろんれいちゃんより若く青い礼三郎さんなんだけれど、そこがよかった気もしました。
初ヒロインの朝葉ことのちゃんも、バウヒロイン経験済みなので任せて安心。可愛くいじらしく作れていましたが、しかしやはり顔立ちと持ち味がお姉さんタイプだと思うのですよ…花組にはもっと真ん中向きの娘役さんが他に何人も控えていると思うのですが…?
お殿さまは美空真瑠くん、この人もホントなんでも上手い、任せて安心、歌もいい。ゼヒ合うお役で主演が観てみたいですねー、イヤ合わない役でも上手いかも。
麗姫は星空美咲ちゃん、こちらも慣れたもので手堅くおもしろく、いい味を出していました。歌はもちろん本役より安定安心。
秀千代は鏡星珠くん、最近スカステで素顔の顔つきがいいなと思うようになってきました。前はもっととんがっていて、私はタイプじゃないなーとか思っていたので…抜擢がおちついた感があって、いろいろ経験させてもらえているのがいいのかもしれません。この人も近い将来の主演候補ですよね。今回も本役といろいろ変えてきていて、いい感じでした。空丸の希蘭るねくんがまたアイドル顔で、ちゃっかり可愛くてよかったです。
狂斎の海叶あさひくんもいつも上手いですよね、しーちゃんよりオーバー気味でこれまたよかった。蓮京院の詩希すみれちゃんもホント綺麗で、でもちゃんといい年より芝居ができていて、めっちゃよかった! この人もヒロインが観たいです! 『うたかた』新公のひとこと台詞であちゃーとなった美里玲菜ちゃんの尼僧も、今回は良くて胸をなで下ろしました。天風院の二葉ゆゆちゃんもしっとりほがらか。
そしておとみの愛蘭みこちゃんですよ、何故さっさとヒロインをさせないんだ劇団! かーわーいーいー、あーざーとーいー、チラ見嘘泣きたまらん! 蝶よ花よと育てられた嫌味のないお嬢っぷり、たまりませんでした。三吉は宇咲瞬くん、こちらもいい感じの丁稚ぶりで、ラストのラブコメターンも良きでした。
本役より断然インチキ感が増していた古道具屋さんたちは、涼葉まれくんが毎度手堅く上手く、まひろんのところを娘役にした初音夢ちゃんが場をさらう上手さ可愛さで、美羽愛ちゃんとのコンビ芸も可愛すぎました。
桔梗と浜菊は湖春ひめ花ちゃんと花海凛ちゃん、こちらも歌上手!
敦盛の遼美来も綺麗で印象的でした。殿の家臣たちはみんな羽織に着られていましたが、これからこれから。瓦版ギャル4人はみんな可愛かったです。
新公担当は菅谷元先生で、大きな変更はなかったと思います。東京でなーこたんとお席が近かったのですが、その隣にいた青年がそうかな…? 若手演出家が着々と育っているならいいことです。
東西観られると思うことは、やはり二度目はみんなのびのびできているので、最近またどちらか一度しかできない新公が続いていますが、なんとかこの貴重な場を死守してあげてほしいということです。もちろんお稽古は大変でしょうし、お教室の灯りが消されても続ける、みたいな働き方は改善していかないといけないでしょうが、その中でなんとかがんばっていっていただきたいものです。でないとやはり芸は育たないと思うんですよねえ…コロナその他で途絶えた伝統や習慣なんかの影響が出てくるのはもう少し先かもしれませんが、改めるべきは改めて、しかしいいものはきちんとつないで、その中でアップデートしていって、「宝塚歌劇でしかできないもの」を上演していってくれたら、150年でも200年でも続くかな、とは思うのです。
真の男女平等が実現した世の中になれば、存在意義を失う芸能だと私は考えています。でも残念ながらそんな世の中はおそらく実現しないので、ここで理想の愛と平和と平等と自由な世界を表現し続けなければいけないのだと思うのです。だから、スターがどんどん卒業していき入れ替わろうと、私はファンを続けるだろう、と思うのでした。
※※※
私は「『パガドスカファン』初日雑感」にも書いたとおり、9月29日の宙組大劇場公演初日と30日11時公演を観てきました。ショーのナニーロ銀橋場面で、初日は4人だった娘役ちゃんたちが3人しかいず、「あれ、有愛きいちゃんがいないな」と気づきました。終演後、だいぶ以前から全休が発表されていたキョロちゃんに足されて休演の札が劇場改札に掲出されていたのに気づき、怪我かな?などと心配しつつも、公式サイトの方には告知が出ていないなー、まあいつもなんか変な時差があるしなー…くらいにしか考えていませんでした。
もう自宅最寄り駅、というところで、テレビか何かで報道を見た、というツイートを見つけて、「何事!?」とそれをリツイートしました(Xとかリポストとか、まだ言わない主義です)。そこから、宙組も、次いで花組東京公演も上演が中止され、花組の方は大千秋楽3日前からの再開となりました。宙組の方は中止期間が延長され、昨日の発表、会見によれば、その後の再開あるいは再度の中止延長決定はその間の生徒(ないしスタッフも)のケアや調査その他の進展による、とされたようです。宙組にも卒業を控えた生徒さんはいますし、そもそもトップコンビのお披露目公演でもありますし、なるべく早期の再開を、とかせめて千秋楽だけは…みたいな要望もあるかと思います。でも、どうぞ拙速な対処とはなりませんよう…とは、案じています。ちなみに、この会見と質疑応答の全文記録を劇団が公式サイトに早急に上げるべきだとは考えています。報道を牽制しておいてこういうことだけ報道任せなのはダメでしょう…
事実はひとつ、真実は人の数だけ。観たい人も、今は観たくないという人もいるでしょうし、なんとしても舞台に立ちたい人、今はとても立てないと考える人、いろいろでしょう。宝塚歌劇団の規律が厳しいのは、大人数が関わる緻密な興行で、誰かが少しでも集中を欠くと事故につながりかねないものだからだと思います。だから全員がなるべく一致団結して当たらないと、危ないし、いいものにならない。だから焦りは禁物で、でも自前の劇場でも公演期間はすでに決まっていたり、生徒の進退も決まっていたりで、時間は有限です。いろいろな決断が本当に難しいところではあるでしょう。
どんな組織も団体もそうでしょうが、いろいろな問題や歪み、膿を抱えていて、すべてをいっぺんに清め正すことなど、無理なのでしょう。けれど、それを目指して、やるべきことはやらないとなりません。そして、それでも、失われた命は返らない…老齢で亡くなるまで団員だった生徒や、不慮の飛行機事故で亡くなった生徒を除けば、今回のような事態は初めてのことのはずです(かつてセリの事故が…と聞いたことがありますが、私は知りません。事実なのかな?)。でも今後二度と繰り返さないためにも、劇団にはきちんと、できることをしていっていただきたいです。たとえ劇団での活動に原因があったのではなかったとしても、おそらく最も多くの時間を過ごしていた劇団でもっと何かできたはずではなかったのか、という問題は残るからです。
私たちファンも、綺麗なものを見せるためには苦しんであたりまえ、とか、その裏には醜いものがあってあたりまえ、みたいな考え方とは縁を切らなければなりません。苦労しないといいものはできない、とかね。そんなことはないんです、人はハッピーでないと真のハッピーは生み出せないものでしょう。以前は知らず、人は、社会は進化しているはずなのですから。みんなで幸せになりましょう、そのために努力しましょう。
組替え、卒業、トップコンビの交替も控えていて、現役生に贔屓がいるファンは本当に気が気でなく、またとても他人事ではない心配事かと思います。私はそうではないので、それこそお友達たちにも安易に話ができず、手を束ねるばかりです。でも、案じています。心を寄せています。つまらない憶測や思い込み、噂などをしない、広めない、を心がけたいです。上演があってチケットがあればせっせと通い、なるべく存分に楽しみます。良ければ喜び、褒め称えて周りにも喧伝し、出来に感心しなければ批評もします。好みじゃない…という話も、控えないと思います。それは私個人の感性の問題であって、悪意だと言われればそう言う人にとってはそうなのでしょうが、それごと私が引き受けるしかないものなのでしょうから…なるべく、今までどおりに、自分なりに真摯に、愛していきたいと考えています。
これを機会に心が離れた方もいるでしょう(私の親友もそうです)、怒り狂っている方や、ひたすら悲しみ、落ち込んでいる方も、この文章を読んで傷ついた方もいらっしゃるかもしれません、申し訳ございません。
最後になってしまいましたが、亡くなられた生徒さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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