集英社マーガレットコミックス全20巻
高2の響は、親友の千草に頼まれたラブレターを間違えて伊藤先生の下駄箱に入れてしまう。今まで恋をしたことがなかった響だが、女嫌いでクールだけれどけっこう話のわかる先生に惹かれていく。そしてある日告白するが、あっさりとフラれてしまい…めまぐるしき青春の日々。
読みはじめたきっかけをまったく覚えていませんが、漫画読みとしての眼力を信頼する親友も「感覚が本物っぽいから好き」と評価した作品です。
いくつになっても、相手がいくつでも、初めての恋でもそうじゃなくても、人を愛し人に愛されることは、幸せで不安でうれしくて悲しくて楽しくて苦しくてせつないものだよなあ、としみじみ思わせられる物語です。
途中やや間延びした感がなくもないですが、無事大団円完結してくれてよかったよかった。物語の展開は定番中の定番で、なんら目新しいことをやっているわけではないけれど、立派な大王道正統派少女漫画です。
本当は個人的にはもう少し端正な絵柄が好きなのですが、とにかく表情がいいので許してしまいます。ギャグシーンの筆で描いたような二頭身キャラがまた可愛いんです、瞳が目玉焼きみたいで。画面が少々煩雑なのは、今風のわりとパラリザックリ描く絵のせいもあるけど、台詞にやたらといろいろな書体の写植が使われているせいでもあって、これは担当編集者の責任なので、もうちょっとどうにかしてほしいところかな。まあ慣れますけどね。
この作品について特筆したいのが次の二点。
まず、響の親友のちいちゃんというキャラクターが実にうまく描かれていること。こういう性格の女の子を過不足なく描くことは難しいし、女友達というものを上手に描くこともすごく難しいし、女の子同士の薄ぼんやりした(笑)友情をうまく表現することもこれまた難しいと思うのです。これはその希有な成功例だと思います。
もう一点は、単行本のおまけページで展開される「伊藤先生の悩み相談」というコーナー。読者から寄せられた恋愛相談に、物語の登場人物である伊藤先生が応じるというもの。もちろん、本当に答えるのは作者なのですが、これがすごい。
何がすごいって、まず、いかにも伊藤先生が言いそうな回答になっていること。そしてその回答が、本当に鋭い人間観察に裏打ちされていること。しかも前向き。ヘンな甘えや妥協は許さず、自分にも相手にも人生にも、誠実に対峙することを求めているのです。そうでなければ人は幸せになんかなれないということを、作者は知っています。これはすごい。峻厳な人生観がうかがえます。いったいこの作者はどんな人なのでしょう。フリートークなどを読むとぽやぽやしたお人柄に思えますが、実は百戦錬磨の恋愛の達人だったり、過酷な半生を送ってきた人だったりするんだろうか…とか考えてしまうくらいです。
完結に向けて最後の一年ほどは雑誌で追いかけてしまったんですが、懸念は終わり方でした。普通に考えれば物語の結末は、響が卒業してふたりが「先生と生徒」でなくなるところで終わり、だと思ってはいましたが、そこで安易に「結婚」とかを持ち出してほしくない、と考えていたのです。ひがんじゃって、と思います? でも、これだけ緻密に「想い」を描いてきた作品だからこそ、少女漫画のハッピーエンドの単純な具現としての結婚はしてほしくなかったのです。賢明な作者だから、世間一般で言われているのとはちがった意味で「恋愛と結婚は別である」というのは真実だということを理解してくれていると思いたかったのでした。
少女漫画は、その上の世代が読むヤング・レディスコミックとちがって少女の夢の世界なんだから、夢々しく終わってもいい、終わるべきだという意見もあるかもしれませんが、結婚は社会制度なんだから、社会に出ていない「少女」には結婚する資格はないのだと私は思います。女の子はそこを誤解して育ち、男の子はそこを考えることすらしないで育つから、結婚に関する悲喜劇が後を絶たないのだと私は考えているのですけれどね。
同モチーフの作品にくらもちふさこ『海の天辺』という佳品がありますが(こちらの主人公は女子中学生です!)、これもその観点から言うと結末だけが私的には瑕瑾なのでした。
で、この作品ですが、「結婚」という言葉は確かに出てきたわけですが…伊藤先生のプロポーズ?の言葉が「俺は別に/おまえと結婚してもかまわないよ」ですよ!?
「別に」ですよ、「かまわない」ですよ!!??
いや、シチュエーションからしても、また先生の性格からしても実に的確な言い回しなのですが、しかし!!
いやー、身悶えしちゃいましたよ私。
そして響の、悩んで悩んで出した答えのまたすばらしいこと!
そしてそして最終話、卒業式の日の夜、誰もいなくなった教室で「2人の卒業式」をし、「卒業祝い」の指輪をもらって薬指にはめ、「結婚式みたい」と笑うという、超のつくベタ展開となったわけですが、私の懸念はきれいに裏切られ、「結婚」という言葉が出つつもそれはふたりが対等にスタートラインに立ったことを示しているのみという、実に満足するエンディングとなったのでした。よかったよかった。単行本収録時に描き足されたくだりも美しく、感動的でした。
ちいちゃんたちのことは心配していませんが、また藤岡くんのこれからの幸多き人生を願ってやみませんがやはり心配していませんが、浩介と中島先生は気がかりです(やはり男性が年下でかつこの歳というのはシビアに考えて将来的な永続性としてはつらいのではないかと…)。ここらへんはさらに番外編を描く予定もあるようで、楽しみに見守りたいと思います。少女漫画っぽく甘々で終わったとしてもこちらは許してしまえる気がするのは何故だろう…
最初は響が可愛くていじらしくて読んでいた作品だった気がするのですか、いつしか伊藤先生に萌え萌えになっていた私です。どんどん「メガネくん」になっていったしな! 先生の眼鏡は物語の当初はずれてかけられていて、優しさ・気弱さ・飄々とした感じを表現していましたが、いつの頃からかきっちりかけられるようになっていき、クールでオトナで嘘つきといったメンタリティを表現していくようになりました。そこが「萌え」(笑)。くわしくは事項メガネ欄に譲ります~。(2003.11.7)
高2の響は、親友の千草に頼まれたラブレターを間違えて伊藤先生の下駄箱に入れてしまう。今まで恋をしたことがなかった響だが、女嫌いでクールだけれどけっこう話のわかる先生に惹かれていく。そしてある日告白するが、あっさりとフラれてしまい…めまぐるしき青春の日々。
読みはじめたきっかけをまったく覚えていませんが、漫画読みとしての眼力を信頼する親友も「感覚が本物っぽいから好き」と評価した作品です。
いくつになっても、相手がいくつでも、初めての恋でもそうじゃなくても、人を愛し人に愛されることは、幸せで不安でうれしくて悲しくて楽しくて苦しくてせつないものだよなあ、としみじみ思わせられる物語です。
途中やや間延びした感がなくもないですが、無事大団円完結してくれてよかったよかった。物語の展開は定番中の定番で、なんら目新しいことをやっているわけではないけれど、立派な大王道正統派少女漫画です。
本当は個人的にはもう少し端正な絵柄が好きなのですが、とにかく表情がいいので許してしまいます。ギャグシーンの筆で描いたような二頭身キャラがまた可愛いんです、瞳が目玉焼きみたいで。画面が少々煩雑なのは、今風のわりとパラリザックリ描く絵のせいもあるけど、台詞にやたらといろいろな書体の写植が使われているせいでもあって、これは担当編集者の責任なので、もうちょっとどうにかしてほしいところかな。まあ慣れますけどね。
この作品について特筆したいのが次の二点。
まず、響の親友のちいちゃんというキャラクターが実にうまく描かれていること。こういう性格の女の子を過不足なく描くことは難しいし、女友達というものを上手に描くこともすごく難しいし、女の子同士の薄ぼんやりした(笑)友情をうまく表現することもこれまた難しいと思うのです。これはその希有な成功例だと思います。
もう一点は、単行本のおまけページで展開される「伊藤先生の悩み相談」というコーナー。読者から寄せられた恋愛相談に、物語の登場人物である伊藤先生が応じるというもの。もちろん、本当に答えるのは作者なのですが、これがすごい。
何がすごいって、まず、いかにも伊藤先生が言いそうな回答になっていること。そしてその回答が、本当に鋭い人間観察に裏打ちされていること。しかも前向き。ヘンな甘えや妥協は許さず、自分にも相手にも人生にも、誠実に対峙することを求めているのです。そうでなければ人は幸せになんかなれないということを、作者は知っています。これはすごい。峻厳な人生観がうかがえます。いったいこの作者はどんな人なのでしょう。フリートークなどを読むとぽやぽやしたお人柄に思えますが、実は百戦錬磨の恋愛の達人だったり、過酷な半生を送ってきた人だったりするんだろうか…とか考えてしまうくらいです。
完結に向けて最後の一年ほどは雑誌で追いかけてしまったんですが、懸念は終わり方でした。普通に考えれば物語の結末は、響が卒業してふたりが「先生と生徒」でなくなるところで終わり、だと思ってはいましたが、そこで安易に「結婚」とかを持ち出してほしくない、と考えていたのです。ひがんじゃって、と思います? でも、これだけ緻密に「想い」を描いてきた作品だからこそ、少女漫画のハッピーエンドの単純な具現としての結婚はしてほしくなかったのです。賢明な作者だから、世間一般で言われているのとはちがった意味で「恋愛と結婚は別である」というのは真実だということを理解してくれていると思いたかったのでした。
少女漫画は、その上の世代が読むヤング・レディスコミックとちがって少女の夢の世界なんだから、夢々しく終わってもいい、終わるべきだという意見もあるかもしれませんが、結婚は社会制度なんだから、社会に出ていない「少女」には結婚する資格はないのだと私は思います。女の子はそこを誤解して育ち、男の子はそこを考えることすらしないで育つから、結婚に関する悲喜劇が後を絶たないのだと私は考えているのですけれどね。
同モチーフの作品にくらもちふさこ『海の天辺』という佳品がありますが(こちらの主人公は女子中学生です!)、これもその観点から言うと結末だけが私的には瑕瑾なのでした。
で、この作品ですが、「結婚」という言葉は確かに出てきたわけですが…伊藤先生のプロポーズ?の言葉が「俺は別に/おまえと結婚してもかまわないよ」ですよ!?
「別に」ですよ、「かまわない」ですよ!!??
いや、シチュエーションからしても、また先生の性格からしても実に的確な言い回しなのですが、しかし!!
いやー、身悶えしちゃいましたよ私。
そして響の、悩んで悩んで出した答えのまたすばらしいこと!
そしてそして最終話、卒業式の日の夜、誰もいなくなった教室で「2人の卒業式」をし、「卒業祝い」の指輪をもらって薬指にはめ、「結婚式みたい」と笑うという、超のつくベタ展開となったわけですが、私の懸念はきれいに裏切られ、「結婚」という言葉が出つつもそれはふたりが対等にスタートラインに立ったことを示しているのみという、実に満足するエンディングとなったのでした。よかったよかった。単行本収録時に描き足されたくだりも美しく、感動的でした。
ちいちゃんたちのことは心配していませんが、また藤岡くんのこれからの幸多き人生を願ってやみませんがやはり心配していませんが、浩介と中島先生は気がかりです(やはり男性が年下でかつこの歳というのはシビアに考えて将来的な永続性としてはつらいのではないかと…)。ここらへんはさらに番外編を描く予定もあるようで、楽しみに見守りたいと思います。少女漫画っぽく甘々で終わったとしてもこちらは許してしまえる気がするのは何故だろう…
最初は響が可愛くていじらしくて読んでいた作品だった気がするのですか、いつしか伊藤先生に萌え萌えになっていた私です。どんどん「メガネくん」になっていったしな! 先生の眼鏡は物語の当初はずれてかけられていて、優しさ・気弱さ・飄々とした感じを表現していましたが、いつの頃からかきっちりかけられるようになっていき、クールでオトナで嘘つきといったメンタリティを表現していくようになりました。そこが「萌え」(笑)。くわしくは事項メガネ欄に譲ります~。(2003.11.7)
駒子さんの筆力と洞察力に感激しています。私が語りたいことすべてを書いてくださってありがとうございます。
いつになったら、番外編が出るのか?と思っていますが「青空エール」も順調ですもんね。
それでは、失礼します!
コメントありがとうございました。
やや昔の文章でお恥ずかしいのですが、今でももちろん好きです、『先生!』…
『高校デビュー』も『青空エール』も読んでいますが、絵がちょっと崩れてきてしまったかなーとか思ったり…
でも力のあるまんが家さんだと思っています。
また語りにいらしてくださいませ!