駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『二番街の囚人』

2022年02月12日 | 観劇記/タイトルな行
 赤坂RED/THEATER、2022年2月11日13時半。

 ニューヨークのイーストサイドにある高層マンションの一室に住むメル(村田雄浩)とエドナ(保坂知寿)はふたりの子供を育て上げ、それなりに格好のよい生活を営んでいると信じていた。ここ数日の夫の不調に気づいていたエドナは、辛抱強くその愚痴を聞くが…
 作/ニール・サイモン、翻訳/木村光一、演出/シライケイタ。全2幕。

 70年代の作品で、メルのモデルは当時の妻の伯父だそうです。ちょうど私と同い歳で、典型的な更年期の男性だなという印象でした。当時や今もそういう認識が世間にあるのかは謎ですが。これが神経質とか神経過敏とか繊細とか言われるなら私は鈍感な人間でよかったと思いましたし、私には当たる妻がいなくて幸いだったとも思いました。現代なら精神的DVだとして訴えられかねない案件だとも思います。が、わりと普通にあることなんでしょうねえ…それが夫婦だ、家族だと言われてしまえばそれまでなんですけれど。メルの三人の姉(広岡由里子、山口智恵、谷川清美。みんなめっちゃそれっぽくてめっちゃ上手い)と兄(篠田三郎。めっちゃええ声!)も心配してるんだかなんなんだか…ってちょっととんちんかんな距離感がいかにもそれっぽかったです。末っ子のメルは家族の人気者で可愛がられてしっかり者の自分は放置され早くから働かされた…と、功成り名遂げて実業家になってなお、メルに愚痴っちゃうハリーもとてもそれっぽいなと思いました。私も弟とこういう会話ならしたいです(笑)。
 というわけでコメディでは全然ない気がしましたし、コミカルともシニカルとも言えないままに話は進んでいるように私には見えました。ただ、オチは意外でした。ニューヨークも東京も同じようなものだと思うのだけれど、私は自分が住むこの都会にあまり屈託を持っていないということなのかもしれません。逆に言うとそこまで愛情や執着がないのかもしれない、何故なら私は住民としてマンション前の歩道の雪かきなんざ一度もしたことがないからです。それは一階の店舗か管理人さんの仕事か何かであって、自分がすべきことだと考えたことがない。当然スコップを買ったことすらありません、その用途がなんであれ。
 でも彼らは、雪かきを促すアナウンスを聞いて、スコップを隣人の殺害に使うのを思いとどまる。雪は静かに美しくはらはらと降り続け、やがて彼らの心も静まっていく。せつないような、微笑ましいような余韻を残して、舞台は暗転していったのでした。「都会で」「格好よく」暮らそうとすることがストレスの一部なのだとしても、他のどこへも行けない、ここで暮らしてきたしこれからも暮らしていくしかない…という、諦念とも愛着ともつかない、なんとも言えない感情のうちに物語は終わる。人生とはそもそもそうしたものなのだ…とでもいうような。これこそがサイモン節なのでしょう。
 わめき立て暴れ回ってもマッチョではなくどこかキュートな村田さんと、辛抱強いような適当なような、でも前向きでいようとしてもヒステリーに襲われちゃうこともあるごく普通の女性のチャーミングさを体現した保坂さんが本当に素敵でした。てか特にメルの膨大な台詞はホント大変だよね…でも舞台がずっとマンションの一室の二幕五場かな?の芝居、生声がこのコンパクトなハコに合っていて、とてもおもしろかったです。トラムやシアター東西よりぐっと小さいですよね? いいハコだなあ、ちょっとぎゅっとしすぎて感じられるところまで含めて、好きだなあ。セットチェンジかと思ったら空き巣の芝居までやってハケた黒子さんがよかったです。あとラインナップに明るくなったら主役ふたりがちゃんとハケていて、再度出てきてからお辞儀をしたことも。あのままソファに座っていられるパターンだったらホントに嫌だったと思うので。
 『裸足で散歩』や『サンシャイン・ボーイズ』も機会があれば観てみたいと思っています。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« メアリ・ロビネット・コワル... | トップ | 『マーキュリー・ファー』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

観劇記/タイトルな行」カテゴリの最新記事