駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

三浦しをん『木暮荘物語』(祥伝社)

2011年08月06日 | 乱読記/書名か行
 小田急線・世田谷代田駅から徒歩五分、築ウン十年。安普請だが、人肌のぬくもりと、心地よいつながりがあるアパートを舞台にした連作短編集。

 著者は1976年生まれで、少女漫画やサブカルチャーにもくわしく、一方的に同世代作家として親近感を感じています。エッセイとか楽しいし、新刊を見つけたらたいてい買って読んでいます。
 しかし、時々、そんな親近感を持つなんておこがましいな、と打ちのめされることがあります。
 同世代の人、同じような趣味な人、もしかしたら自分だってこれくらい…というような思い上がりを叩き壊される。
 それくらいのもの話を、きちんと書いてみせる人です、この作家は。

 アパートが舞台で、住人やその周囲の人々に視点を替えていく連作短編集で、ちょっと人情もので…なんて、だいたい想像がつくじゃないですか。
 しかしこの作品はそんな簡単なものではない。
 まず、各短編の主題が、ずばりセックスと言ってもいい、というところが違う。
 人生を描こうとしているので、必然的に…と言ってもいいですが、何かをごまかしている気がします。
 もっと、そのものずばり、住人やその周辺の人間にとって大事で大切なセックス、をテーマにしています。

 で、それが、深い。
 赤裸々だったり実も蓋もなかったりするし、オチもなかったりしますが、とにかくどれも深い。
 ことに『心身』なんて、そう簡単に書けない話だと私は思う。
 同世代の、女性の、ちょっと筆が立つ程度の人では書けない、本物の作家でないと書けない話だと私は思いました。

 重い、のではなく。
 むしろユーモアは全編に漂っているのですが。

 うん、おもしろく、一字一句おろそかにせず、読んでしまいました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする