映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ブータン 山の教室(2019年)

2021-05-15 | 【ふ】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv71638/

 

以下、公式HPよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 現代のブータン。教師のウゲン(シェラップ・ドルジ)は、歌手になりオーストラリアに行くことを密かに夢見ている。だがある日、上司から呼び出され、標高4,800メートルの地に位置するルナナの学校に赴任するよう告げられる。

 一週間以上かけ、険しい山道を登り村に到着したウゲンは、電気も通っていない村で、現代的な暮らしから完全に切り離されたことを痛感する。学校には、黒板もなければノートもない。

 そんな状況でも、村の人々は新しい先生となる彼を温かく迎えてくれた。ある子どもは、「先生は未来に触れることができるから、将来は先生になることが夢」と口にする。すぐにでもルナナを離れ、街の空気に触れたいと考えていたウゲンだったが、キラキラと輝く子どもたちの瞳、そして荘厳な自然とともにたくましく生きる姿を見て、少しずつ自分のなかの“変化”を感じるようになる。

=====ここまで。


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 予告編を見て、これこそスクリーンで見るべき映画だろう、、、と思って、久々の岩波ホールへ。緊急事態宣言下で、座席は1席開け。確か、つい最近改装工事をしたはずだが、受付の位置が変わったこと以外、パッと見ではどこが変わったのか分からなかったです。座席を総入れ替えしたとTwitterには出ていたような、、、。

 それはともかく、GW中だったせいか、思ったより人が入っていて驚き。そして、やっぱりスクリーンで見て正解の映画でした。


◆アクセス:徒歩6日

 ウゲンがルナナに辿りつくまでに、映画開始から多分、20分以上経っていたんじゃないかしらん。普通、こういう甘ったれ若者成長譚の場合、開始して間もなく目的地に主人公はいるはずなんだが、ルナナはそんな甘い場所ではなかった。

 電車で最寄りの駅まで行き、そこからバスで延々山道を行く。着いたのかと思うと、そこに村から迎えの男性が来ていて「ここから6日間かかります」とか言う。そして、実際、6日間、道なき道を徒歩でルナナまで行くのである。

 この道行が既にもう物語になっているのだよね~。ウゲンは、早々に弱音を吐き、道中はず~~~っとヘッドフォンを着け、地元で「ブラピもアメリカで履いている」という宣伝文句につられて買った完全防水のはずの高級ブーツがびしょ濡れになり、、、と、いくら渋々赴任するとはいえ、これから僻地で教師を務めようという人には到底見えず、ヤワな旅行者って感じ。最初は可笑しかったけど、ず~~~っとそんな調子だから、だんだん見ていてイラッとなった。

 村に着くちょっと手前で村長始め村人総出で新任の先生をお出迎え。ここで、少しはウゲン君も教師をやる気になるかな~、、、と思って見ていたら、村に着くなりウゲン君、村長さんに言った。「正直に言います。私にはムリです。帰りたいです」……ホント、正直ね。

 ウゲン君、そらねーだろ、、、と思ったら、村長さんはさすが村長だけのことはある。「……そうですか、では迎えの者たちとロバを休ませて、1週間後に町まで送らせます」と、少し残念そうだけど、非難がましいところは一切なく、穏やかに言うのだ。私が村長だったら「えーー、、、そんなこと言わないで頑張ってよ、せっかく歓迎したのに、、、、」と思いっ切りガッカリ感を出して言ってしまうわ。この辺が人間の器の差ですね。

 しかし、この「ロバたちを休ませる」時間というのがミソ。一晩寝た翌朝、戸を叩く音が。寝起き丸出しの体でウゲン君が戸を開けると、そこには、……何ということでしょう! 可愛い女の子が。「授業は8時半からです。今、9時半です。なので先生をお迎えに来ました」と礼儀正しくその女の子は言う。こんな状況になったら、教室に教師として行かざるを得ないわね。

 こうして、ウゲン君を送りに出る準備が整うまでの1週間で、ウゲン君の気持ちが変化するのでありました、、、。


◆子供はやっぱり最強。

 その女の子は、本名と同じペム・ザムという名で、学級委員だけあって賢そうでしっかりしている。が、彼女の両親は離婚しており、母親は遠方にいるらしく、父親はアル中という厳しい家庭環境だとか。お父さんが泥酔して道端で転がっているシーンもある。

 ルナナには電気もないので、テレビもなければネット環境もなく、まさに陸の孤島みたいな現代社会からは隔絶された場所である。ブータンは英語で授業をするのが普通だそうなので、子どもたちは英語を理解するが、carという単語は分からない。なぜなら、村には車がないから、、、。

 で、村長さんが「先生を送る準備が出来ました」と知らせに来るんだが、ウゲン君は冬が来るまで仕事をする気になったのだった。子供たちとも親しくなって、歌声のキレイな女性ともちょっとイイ雰囲気になって、ウゲン君は僻地での教育もまんざらではない様子。けれども、やはり本格的な冬になって山が雪で閉ざされる前に、ウゲン君は山を下りることに。

 子供たちには「また来てね」と言われ、歌う女性にも名残惜しがられるが、ウゲン君のオーストラリアへの夢は消えていなかったのだね。終盤は、ウゲン君が実際にオーストラリアに渡り、どこかのバーみたいなところでアルバイトでギター片手に歌っているシーンになる。けれど、ウゲン君、何を思ったのか、突然、ブータンで女性が歌っていた「ヤクに捧げる歌」を歌いだす、、、みたいな感じで終わる。

 まあ、割と終始想定内の展開で、ラストに至っても意外性はないものの、ルナナの素晴らしい景色を大スクリーンで見れば、心洗われ、東京の片隅でちまちましたことに右往左往している自分がアホらしく感じてくる。

 そして、可愛い子供たちの様子には思わず頬が緩む。ペム・ザムちゃんはウゲンに自己紹介するときに「大きくなったら歌手になりたい」と言う。ウゲンが「じゃあ、何か歌ってみて」と言って、ペム・ザムちゃんが歌った歌と彼女の可愛らしさのギャップが笑える。彼を見ると胸がざわざわ、わたしとつきあっちゃえば?!(正確じゃありません)みたいな恋の歌。

 教室には大きなヤクがいて、ヤクをバックに子供たちが暗唱している画は、とにもかくにも微笑ましい。ウゲン君が、ルナナへの道行きでの仏頂面がウソのような笑顔になっているのも面白い。

 こういう映画は、これで良いのだ。ヘンに捻っていないところが却って良い。


◆あなたはヤクです。

 それは良いんだが、冬になったら先生は村から町へ降りてしまうので、当然学校も閉鎖となるんだろう。このルナナでの教育は、パンフによれば3学年までの“不完全な学校”しかないとのこと(ブータンは小学校は7年制)。ウゲン君の話としては成長物語だが、ルナナの子供たちの目線で見れば、教える内容もかなり初歩的なものばかりだし(子供たちは皆素直で賢そうだから、あんな授業内容で本当に満足しているのか?という疑問が湧いた)、やはり、あの教育環境はあまり良いとは言えないかも知れない。

 学を得て、山から下りてサバイバルすることだけが良い生き方ではないので、不完全な学校でも、そこで幸せに暮らせていればそれでいいじゃないか、という理屈もそのとおりだと思う一方で、やはり、教育は大事だろうとも思う。パンフを読むと、このような村の子供たちは、3学年まで学んだあとは、県庁所在地等にある学校に転入し、寮生活を送りながら勉強するんだとか。しかも、自動で進級できないので、落第も容赦ないらしい。なるほど、ある意味、日本の義務教育よりシビアだね。

 本作を見終わって思い出したのが、大昔に読んだ篠田節子氏の小説(別にこの小説が気に入った、というわけじゃないんですが)。タイトルが思い出せなかったので調べたんだけど、『長女たち』所収の「ミッション」。ある中年の女性医師が、辺境の地(インドのヒマラヤ地方らしい)に赴任して、様々な不可思議な出来事に遭遇するという話。本作とはゼンゼン内容もテーマも違うんだけど、その村は村で完結していたのに、先進国から西洋医学を持ち込もうとすることで生じる村人との微妙な軋轢を描いているオハナシだった。けど、たしかその小説の結末も、だから、辺境の地は自己完結させておけばよい、というのではなかった気がする。もう一度読んでみようかな。

 ルナナ=Lunanaとは、「闇の谷」「暗黒の谷」を意味するのだとか。現在も電気は通っておらず、本作の撮影で初めて「映画」というものを知った村の人々も多かったとか。

 ウゲンが山を下りる前に、村長がウゲンに言う。「ブータンは世界で一番幸せな国と言われているそうです。それなのに、先生のような国の未来を担う人たちは幸せを求めて外国へ行くのですね」……このシーン、泣いてしまった。いや、感動してではなくて、何かこう、、、胸が痛んだというかね。人として、根本的な問を突き付けられている感じがして。村長の抑えた話し方や振る舞いが、より一層、説得力を感じさせられた。

 そのときの会話で、ウゲンが村長に「私の前世はヤク飼いだったのかも知れません」と笑って言うと、村長は大真面目に「いいえ、先生はヤクでした」と答える。劇場でも笑いが起きたが、これはもちろん、村長のウゲンに対する最大の賛辞。ヤクはルナナの人にとって、命と同じくらい、神と崇めるほど大切な存在なのだ。ユーモアのあるシーンに見えるが、きっとブータンの人にとっては感動のシーンなのかも知れない。

 

 

 

 

 

 


ブータン、、、また行きたい国が増えました。

 

 

 

 


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