映画 ご(誤)鑑賞日記

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敬愛なるベートーヴェン(2006年)

2020-10-23 | 【け】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv35558/

 

以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 “第九”の初演を4日後に控えたベートーベンのアトリエに楽譜を清書するため、アンナという女性がやってくる。最初は女性というだけで怒り心頭だったが、やがて彼女の才能を認め、2人の間には師弟愛以上の感情が芽生える。

=====ここまで。


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 『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』のパンフを見たら、本作も、アグニェシカ・ホランドの監督作だと書いてあって、知らんかった、、、ので、見てみることにしました。
 

◆第九シーンなんてどうやったって盛り上がる。

 前にも書いたが、“楽聖モノ”で良かったと感じた映画はほとんどないので(ないわけじゃない)、本作も全く期待しないで見たんだけれども、それでもさらにガックシ来てしまった。

 何がマズいって、ものすご~~~く人物描写が薄っぺらいこと。ベートーヴェンもだけど、アンナもね、、、。上記にコピペしたあらすじだと、何となく2人の間に恋愛感情的なものが生じるような書きっぷりだけど、そうではない。……ないんだけど、だったらどんな感情なんだ? というと、それが今一つピンとこない描写なのよ。いや、アンナはベートーヴェンのことを尊敬しているのは分かるし、ベートーヴェンがアンナに敬意を持っているのも分かる。分かるけど、そんなの別にフツーやろ、と。

 女が来たからと、最初はアンナを露骨に侮辱する、、、というところから入り、それがだんだん彼女の才能に気付いて敬意に、さらに信頼感に変わっていく、って当たり前過ぎの話で、……で??としか思えないわけよ、見ている方としては。だって、敬意を持てない相手と仕事なんか出来ないでしょ。2人で仕事したって話なんだから、そんなのはストーリー以前のものなのだよ、こういうジャンルの映画の場合。さらなるプラスアルファを見る方が求めるのは、求めすぎでも何でもなく、標準的な要求です。

 そんなことくらい、ホランド監督ともあろう人が分からないはずはないのであって、それでいてこういう作品を撮ったってのは、一体彼女は何を表現したかったのか、、、?

 本作の言語は英語。しかも、主役はハリウッドの大御所エド・ハリス。……ということで、満を持しての商業映画狙いだったのかなーー、と。でもその割には地味だし、シナリオ的にも盛り上がりに欠ける。

 本作の一番の盛り上がりは、何と言っても中盤の“第九の初演”のシーンだろう。既に聴力がほぼ失われていたとされるベートーヴェンが指揮台に上がり、アンナがステージからベートーヴェンに合図を送るという設定で、これが見事に成功するという筋立てだ。

 この演奏会のシーンはなかなか豪華で見物。演奏の音源はもちろん吹き替えだが(エンドロールで確認したが、確かマズア&ゲヴァントハウスだったと思う)、これがかなり良くて、実際こんなに完成度の高い演奏だったかは疑問だけれど、感動的なシーンになっていた。

 でも、本作の見どころはほとんどここだけ。第九の演奏シーンなんて、ああいう曲だから、ある程度どうやったって盛り上がるんだよね、、、。このシーンより前はアンナがベートーヴェンに信頼されていく過程が、この後はベートーヴェンが苦悩して死んでいく過程が描かれているものの、書いてきたとおり、ピンとこないまま終わってしまう。

 何より残念なのが、アンナが才能ある女性作曲家として、ベートーヴェンの死後どうなったのかが、まったく予想できないエンディングになっていること。ベートーヴェンが亡くなると、アンナは一人、どこか寒々しい野っ原を歩いて行く、、、、で終わり。見ている私は、……はぁ??何ソレ状態。これじゃぁ、ただ、ベートーヴェンのアシスタントガールがいました、ってだけの話じゃんか。ベートーヴェンという太陽がいないと輝けない月みたいな存在だったとでも言いたいわけ? つまんねぇ、、、。

 音楽の才能がある、当時は“珍しい”とされた女性が、ベートーヴェンと出会って、彼女の人生にどんな影響を与えたのか、、、ってのがキモになるんじゃないの? それが全く描かれていないって、、、。詐欺みたいな映画だ。
 

◆エド・ハリス56歳(当時)。

 とまぁ、文句ばっかし書いてきたけど、何もかもがダメダメだと思ったわけではありません。

 ベートーヴェンを演じたエド・ハリスは、やはりさすがの一言。作曲家としては天才だが、だらしがなく、無神経なキャラを巧く演じていた。多分、特殊メイクをしているんだと思うけど、かなり顔が違って見えた。ヅラも被ってたしね、、、。

 アンナが作って来た曲を、「こりゃヒドい、オナラみたいだ!」などと茶化して、変な音を口で発しながらピアノで弾くシーンは、本作でのベートーヴェンのキャラを見事に表わしている。ピアノを弾くその手つきや姿勢は素晴らしく、手元だけ吹き替えなどという姑息な手段ではなく、実際にエドさんが弾いている(音は吹き替えだと思うが)。あれは、ふざけたシーンだが、彼がピアノの演奏経験がないのだとすれば、相当訓練と練習を積んだに違いない。

 エド・ハリスの好演は確かなんだけれども、ベートーヴェンの変人っぷりとかの描写は極めてありきたり。逆に、どれほどの天才だったのかは、ほとんど描写できていない。難しいのは分かるけど、これじゃぁね、、、。

 アンナを演じたダイアン・クルーガーは、結構頑張っていた。品のある正統派美人なので、才能があることを自覚していても嫌みがない。やはり、知性って大事よね。第九のシーンでの指揮っぷりは、画になっていたし、かなりトレーニングしたんだろうなぁ。エドさんのピアノといい、この辺は監督の指示かしらね。

 第九の初演の後は、大フーガの作曲に苦悩するのがメインなんだが、大フーガのモチーフをアンナに聞かせると、アンナは確か “terrible” って言っていた。でも、折角、才能ある女性作曲家ならば、当時は酷評された大フーガの先見性に気付くという展開にすれば良かったのに。ロマン派を一気に飛び越えて近代音楽の萌芽を感じさせる曲を作るとか。どうせフィクションなんだからさ~。


◆ベートーヴェン250歳(今年)。

 本作を見ていて、途中から、バーナード・ローズ監督の『不滅の恋/ベートーヴェン』の方が断然好きだわ~~、と思っていた。『不滅の~』でベートーヴェンを演じていたのは、ゲイリー・オールドマン。ゲイリー・ベートーヴェンもエド・ベートーヴェンとは全然違うキャラだけど、それはそれで素晴らしかった。第九の初演シーンの描かれ方も全然違い、多分、『不滅の~』の方が史実には近い感じだったろう。……まぁ、こういうジャンルの映画で史実云々言うのはナンセンスだが。

 また『不滅の~』見たいなぁ、、、と思うけれど、残念ながらレンタルどころか、DVDは絶版みたい。amazonでとんでもない値段で出ている、、、。

 本作の第九のシーンを見た後、先日、Eテレの「クラシック音楽館」とやらで「いまよみがえる伝説の名演奏」と題して、バーンスタイン&ウィーンフィルの第九をオンエアしていて、一応録画しておいたので見てみたのだが、残念なことに4楽章だけだったけれど、バーンスタインが大汗かいていて、そこにばっかり目が行ってしまった、、、、 私はオペラとか声楽とかにあんまし興味がないので歌は全然詳しくないんだけれど、初めてクルト・モルの歌声をじっくりと聞き、シビれてしまった。ものすごい艶のあるバスで、美しいことこの上ない。……ていうか、4人の歌手があまりに豪華でビックリ。ギネス・ジョーンズ、ハンナ・シュヴァルツ、ルネ・コロ、、、私でも知っている名歌手揃い。第九はホントにスゴい曲だわ、、、と改めて実感させられた。

 それにしても……。今年は、ベートーヴェン生誕250周年で、年明けから様々な企画がされていたのに、コロナでぜ~~んぶオジャン。4月に来日するはずだったクルレンティス&ムジカエテルナの第九も中止になったし、、、。第九、実はライヴで聞いたことないから楽しみにしていたのに。GWのラ・フォル・ジュルネも、ベートーヴェンがテーマで、チェックしていたプログラムがいくつかあったんだけど、これも中止になってしまったし。

 ……まったく、今年は、コロナコロナで明け暮れた一年となりそう。折角のベートーヴェン・イヤーだったのにねぇ。ベートーヴェンさんも、あの世で残念がっていることでしょう。 
 

 

 

 

 

 

優れた監督にも、やはり駄作はあるもんなんだなぁ、、、。

 

 

 


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