映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ボレロ 永遠の旋律(2024年)

2024-08-31 | 【ほ】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv86211/


以下、公式HPからあらすじのコピペです(青字は筆者加筆)。

=====ここから。

 1928年<狂乱の時代>のパリ。深刻なスランプに苦しむモーリス・ラヴェル(ラファエル・ペルソナ)は、ダンサーのイダ・ルビンシュタイン(ジャンヌ・バリバール)からバレエの音楽を依頼されるが、一音も書けずにいた。

 失った閃きを追い求めるかのように、過ぎ去った人生のページをめくる。

 戦争の痛み、叶わない美しい愛、最愛の母との別れ。引き裂かれた魂に深く潜り、すべてを注ぎ込んで傑作「ボレロ」を作り上げるが──。

=====ここまで。


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 大分前に、TwitterのTLにフランスで公開されたという情報が流れて来て、日本でも公開されてほしいなぁ、、、と思っていたら、想定外に早い公開となりました! とはいえ、これ系の映画はハズレが多いのであまり期待していなかったのですが、終わってみれば、なかなか良かったです。


◆生真面目な人の作る官能的な曲

 本作は、タイトルからの印象で「ボレロという曲をラヴェルが苦悩して書きあげる」映画かと思いきや、むしろそれは横糸の一つであり、縦糸は作曲家ラヴェルその人なので、「ボレロが好き!」という人が見に行くと、かなり肩透かしを喰らう可能性が高い映画だと思う。

 で、案の定、ネットの感想はネガティブなものが多い様子。中には、「(ボレロの)インスピレーションを得る瞬間が描かれていない」とかという感想も。あのね、ふっと作曲の神様が現れてガーンと打たれてインスピレーションがブワッと湧いて一気に名曲を髪振り乱して書きあげる!!みたいなのは、まあ、それこそ映画とかドラマの中だけの作りモノだろう。実際は、本作内で描かれている様な、割と地味ぃ~な作業だと思うわ。創作って、究極的には自分との対話になるので、非常に静的な作業だろう、、、と勝手に想像する。

 ピアノに向かい、あのボレロのフレーズを地道に生み出していく描写は、私はとても好感を持って見た。元々不眠症気味のラヴェルが、眠れない中であの曲を作り出していく姿は、美しかった。ボレロこそ、ピアノで弾いても良さは伝わらない曲だろう。

 本作内でラヴェルを取り巻く人として描かれている人たちは女性がメイン。中でも、ボレロの作曲を依頼したイダ・ルビンシュタインと、ラヴェルのミューズという設定のミシルの出番が多い。イダとは意見がぶつかるものの、仕事上のパートナーとしておおむね良好な関係だし、ミシルとは恋愛モードなシーンもあるが、ラブシーンには至らない。というわけで、こっち方面でもドラマ的に不発で、フラストレーションが溜まった方が多いらしい。

 ラヴェルがどんな人だったか、詳細でなくても概略を知っていれば、そういうフラストレーションは感じないで済むと思う。内向的で神経質、色恋も地味。極めて内省的な作曲家と言ってよい。そして、というか、それなのに、というべきか……、彼の書く音楽はどれも非常に官能的なのである。

 ボレロの曲が完成した後、イダが振付をしたのを見て、ラヴェルは激昂する。ラヴェルは機械の並んだ工場をバックにした無機質な踊りを期待していたのだから、そら怒るわね。

 でもまあ、あの音楽はやはり官能的と言えるでしょ。たった2パターンのメロディだけが延々繰り返されるのだが、あのメロディ、かなりエキゾチックだと思う。スペインの舞踊音楽が元ネタと言われるが、東洋的な感じもする。途中、倍音で進行するところは、インドの蛇使い的な音楽に聴こえるのは私だけ?? とにかく、この曲には終始妖艶な空気が漂っているのよね。工場よりは娼館を舞台にしたくなったイダの気持ちは分かる。

 本作では初演でイダの踊りを見て、この曲に官能性があるのを認めるラヴェル。宿敵みたいな評論家のラロも脱帽で、まんざらでもなさそうだったのが、さしものラヴェルも人間なんだなー、と。

 成功裏に終わった初演だが、その後のラヴェルはあまり幸せとは言えない状況のまま亡くなる。ラストシーンで流れる、ペルソナが指揮するボレロが感動的。元オペラ座の男性ダンサーの力強い踊りと共に、真っ白な背景の中で演奏されるボレロは、もしかすると、ラヴェルが作曲時に思い描いた無機質な演出に近かったのかもね。


◆ボレロイロイロ

 ボレロは、本作内でも言及されているが、大体17分くらいで演奏されることをラヴェルは想定していたらしい。実際にラヴェルが指揮した(今も音源が残っている←wikiにあります)のを聴くと、かなり遅い。これで、♩=66くらいで、実際、ラヴェル自身が指定しているテンポだという。

 現在演奏されるときのテンポは♩=72くらいだそう。本作のラストで演奏されていたのも、これに近いんじゃないかな。あんまり遅いと踊りにくいもんなぁ。

 で、私の手持ちのCDを見てみると、これが、曲の長さがかなり違うことに今さら気付いたのだった。録音の古い順に見ると、、、

カラヤン/ベルリンフィル(1977)……16:08
アバド/ロンドン交響楽団(多分1981)……14:20
バレンボイム/パリ管弦楽団(1982)……17:30
ハイティンク/ボストン交響楽団(1996)……14:55
マゼール/ウィーンフィル(1996)……14:41

と、一番遅いバレンボイムと、一番速いアバドで、3分以上も(!)違うのだった。ビックリ!! ♩=72だと大体14分前後になりそう。

 ちなみに、私がこの中で好きな録音は、アバドかマゼール。やっぱし速めが好きなのかな。ハッキリ言って、バレンボイムのは聴いていてムズムズするというか、イライラする。

 でも、この曲の怖ろしい所は、指揮者の思惑がどうであれ、最初のスネアの叩いたテンポで決まっちゃうところだよな。スネア担当者はホントに緊張するだろう。

 あと、この曲は管楽器奏者の実力が如実に出てしまうってのもなかなか怖い。有名なのは、トロンボーンの難易度の高さか。大分前に、N響の定期で、マゼール指揮によりボレロが演奏された際、当然のことだけど、トロンボーンは超絶ソロをサラリと吹いた。曲が終わって、マゼールはイイ人だから、ソロ吹いた管楽器奏者を一人ずつ立たせてあげたんだけど、トロンボーンだけスルーしちゃったのね(悪意はない)。で、舞台袖に戻っちゃった。すると、団員の中からトロンボーン首席に対して自然に拍手が沸いて、マゼールも舞台に戻って来て、首席は照れ笑い、、、というシーンがあって、笑っちゃったのだが、とにかくそれくらいトロンボーンが難しいので有名なのであります。

 YouTubeにはいろんなボレロがあるけど、敢えて、キワモノをご紹介。これ、「死ぬほどヘタクソなBolero」と題して、音と映像は別物なんだけど、デュトワの絶妙な表情が、ド下手な演奏と実に巧いことリンクしていて笑えますので、ご興味ある方はご覧ください(さすがにまんま嵌め込むのは気が引けるのでリンクのみにしておきます)。


◆ラヴェルでラリる

 ラヴェルには、ピアノ曲や室内楽曲もたくさんあるが、私が一番惹かれるのは、やっぱし管弦楽曲、、、かな。中でも、私が一番好きなラヴェルの曲は、「ラ・ヴァルス」なんだが、この曲は、圧倒的にオケバージョンの方が好きである。ピアノも良いけど、比べるとね、、、。

 ラ・ヴァルスは、本作内でも、ペルソナ演じるラヴェル本人が指揮をする形でオケの演奏シーンが出て来る。ほんのちょっとだけど、やはりあのオーケストレーションは天才的。どういう脳ミソをしていると、ああいう音楽が書けるのか、、、。大昔にスコアを買って今も時々眺めるけれど、スコアは曲想とは対照的に理路整然とした感じなのが意外ではある(何ならブラームスのスコアの方がよほど面食らう)。

 余談だけど、私は、ラ・ヴァルス(オケ版ね)を聴くと、まあまあ落ち込んでいても割と元気になれるのだ。あの美しい旋律ももちろんなのだが、何といってもハープとパーカッションがサイコーにイケていて、陶然とさせられる。……ヤク中って、もしかするとこういう陶酔感なのかも、などと思ったりする、知らんけど。本当にヤバい精神状態のときは、そもそも音楽を聴く気にならんからな。

 ラ・ヴァルスは、あのディアギレフの依頼を受けて作曲されたが、実際にバレエ・リュスでこの曲が使われることはなかった。まあ、確かにこの曲じゃ踊れないよね、、、。ラヴェルとディアギレフは決裂したらしいが、バレエ・リュスの置かれた状況も背景にはあったらしい(正確ではないです)。

 この曲は指揮者によって大分曲の印象が変わるのだが、私が一番好きなのは、アバド指揮のロンドン交響楽団による演奏。でも、YouTubeにこれに引けを取らない名演を見付けたので、こちらは映像を貼っておきます。この映像、アレクサンドル・ヴェデルニコフ指揮のロシア・ナショナル管弦楽団による演奏。オケの背後からの映像もあり、パーカッションがどんな風に演奏しているのかも見えて面白いです。

 ちなみに、ヴェデルニコフはN響で聴いたことがあるが、20年に新型コロナに感染して56歳の若さで亡くなっている。

 どうぞ、この名演を聴いて、皆さまもラリってください。本当に、素晴らしく魅惑的な曲です。

 

 

 

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コメント (2)
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