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小夜中山夜啼碑2 村雲主膳が望月隼人を襲う

(村雲父子主従三人、姥捨山の麓において、望月隼人を
討つといえども、闇六、望月が為に父を失う。)

小夜中山夜啼碑の解読を続ける。

折から村雲主膳は一子闇六(あんろく)、若党烏羽平(うばへい)をうち従え、尾花を分けて顕われ出、望月が前後につめ寄せ、声高にのゝしるよう、
「そこに来るは、同藩の望月隼人にあらざるや。汝ひがめる心より、我が君寵をねたく思いて、主君に讒言なせしをもてあるに、甲斐なき村雲父子、日頃の無念を晴らさんため、主従三人、ここにあり。尋常に勝負せよ」
と、一度に抜つれ切ってかかれば、とつうの答えに及ぶ間なく、元来手練の望月なれば、同じく抜いて、三人を相手に一上一下と切り結ぶ。
※ 讒言(ざんげん)- 事実を曲げたり、ありもしない事柄を作り上げたりして、その人のことを目上の人に悪く言うこと。
※ 尋常(じんじょう)- 態度がいさぎよいこと。すなおなこと。また、そのさま。
※ 一上一下(いちじょういちげ)- 刀をとって、激しく打ち合うこと。


望月に従いたる奴僕の多勢は、この形勢に甲斐なき烏合の平人なれば、みな散り/\に逃げうせけり。跡には隼人が秘術を尽くして、右にさゝへ、左にうけ、こゝを先途と戦いつゝ、すきを見合わせ闇六が、脾腹を丁と蹴かえせば、あっとさけんでふしまろぶを、烏羽平つゞいて走(はせ)けるを、右に主膳が太刀受け止め、左手(ゆんで、弓手)に烏羽平かい掴み、深田の中へ投げ込んだり。
※ 烏合(うごう)- 烏(からす)の群れのように規律も統一もなく集まること。
※ 先途(せんど)- 勝敗・運命などの大事な分かれ目。せとぎわ。
※ 脾腹(ひばら)- よこ腹。わき腹。


村雲主膳はこれに驚き、なお踏み込んできり付けるを、二、三、合いうちあわし、ひるむ所を太もゝ懸けて、ばらり寸と切り列(つら)ねたり。あっとまろぶを取って押へ、胸元かけて止どめのおりから、倒れし闇六おき上り、父の敵(かたき)とうしろより、隼人が肩さき、二太刀、三太刀、深手にひるむ望月を、畳みかけて討つ所へ、深田の中より烏羽平が、惣身すべて泥にまぶれ、遅ればせに欠け付けて、闇六もろとも望月を、のごとく、切り捨てたり。
※ 鱠(なます)- 魚肉をこまかく切って、 盛りあわせたもの。切り刻んだ様子を誇張して表現したもの。

かくて、主従二人のものは、隼人を討って宿意をはらせど、父の主膳は隼人がために、その場をさらず、討たれけるにぞ。せめては父の死骸をば、あたりへとりも隠さばやと、談合するうち向いの方より、人声あまたしけるゆえ、死骸をそのまゝうち捨て、何所ともなく逃げ去りけり。
※ 宿意(しゅくい)- かねてから抱いている恨み。宿怨。宿恨。
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