goo

「事実証談巻4(人霊部上)」 27 第15話

(近所の柿の木上のヒヨドリ)

裏の畑の柿の木をねらって、ヒヨドリが来るので、柿の木をすべて収穫してしまったところ、ヒヨドリは近所の柿の木へ移動した。一枚撮って見たが中々難しい。

*******************

「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

(第15話)
〇或る家に、浮波の皿とて、無地の中皿あり。底に波の紋ありて、清水を入るれば、その紋、水上に浮くを以って、浮波の皿と号(なづ)けて、重器と持ち伝えけるよし。また、錦手の中皿も有るよし。その家は由緒有る家柄にて、いつの頃より持ち伝えしかは知らざりけるが、昔に変わりて、今は侘しき暮しなれども、その皿ばかりは失わず、重器として持ち伝えけるよし。
※ 重器(ちょうき)- 貴重な器物。大切な宝物。重宝。
※ 錦手(にしきで)- 白釉を施した磁器に、不透明な赤釉を中心に、緑・黄・紫・青などの透明釉で上絵をつけたもの。古伊万里などに見られる。


天明年中(1781~1789)の頃よりは、老母、娘唯二人、侘しく年月を過しけるを、同家縁者の計らいにて、寛政初年(1789)の頃にか、一里ばかり遠き方より、聟を迎えたりしが、その聟、常によしなき遊びに金銭を費しける故、離別ともなるべかりしを、隣家の人々の取り成しにて、年月を重ねしほどに、老母、娘二人とも病死して、聟一人となりしより、いよよ、益々よしなき遊びに浮かれければ、
※ よしなし(由無し)- つまらない。くだらない。よくない。

同家縁者の計らいにて、その聟を離別し、隣村より家守を雇いて守らせ置きけるに、始めのほどは怪しき事もなかりしを、程過ぎて、夜な/\更けゆく頃に、皿をおこせ/\と言う声聞えけるを、家守思いけるは、こは我一人あるを以って、若者どもの驚かさむとての戯れにこそあるらめ、と聊か恐るゝ心もなくて有りけるを、
※ おこす(遣す)- よこす。

雨降る夜も、風吹く夜も、怠ることなく、皿を乞いける故、さては狐狸どもの欺くにやと、或る夜、い寝がてに窺い聞くに、外の方にはあらで、竈炉辺のわたりに、声のみ有りて、形なきに驚き怪しみしかど、よく思うに、亡霊ならんには姿を現わすべきを、声のみなるは、狐狸床下にありての業(わざ)ならめ。仮令(たとえ)亡霊なりとも、身に咎なければ祟るべき由もなし。夜明けなば、同家に告げて糺すべしと、聊か怖るゝ心無くい寝て、
※ い寝がてに(いねがてに)- 寝られないで。寝られないままに。

翌日、同家にそのことを告げけるに、同家の主、甚く怪しみ、皿を乞うのみにて、外に何も沙汰のなきは、重器とせし皿に心残りたる故にやと、同家の主、その者諸ともその家に至り、糺し見るに、重器とせし皿二枚とも無きに付いて、いよゝ怪しみ糺しけれども、知れざるにより、近隣にもその由を語りて糺しければ、離別せし聟、聊かなる銭の代(しろ)に、一里ばかり遠き方に質物に預け置きし由。驚き、人を馳せて取り戻し、家に納め置きたりければ、

夜な/\皿を乞いしこと、速やかに止みにしとなん。こはかの老母の霊か、祖々(おやおや)の霊かは知られねども、後によく思い巡らせば、家守の耳には、かの老母の声かと聞えしとあれば、老母の霊なるにや。かの老母、在世の頃、縁者の方にての噂にも、萬ずにつけて心強き老母なりと言いしを以って、思い合わすれば、世を去りぬれども、重器の失いしを糺せしならんとは、推し計られつ。

(第15話おわり)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 「事実証談巻... 「事実証談巻... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。