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峡中紀行下 12 九月十六日、棲雲寺に詣ず

(散歩道のリナリア/姫金魚草)

焼津のI氏に「再び」を届ける序に、コメントでお馴染みの“はぐれ”さんに届けようと、住所をナビに設定して、初めて訪問した。ところが既に郵送されて受け取ったと言われた。とんだ恥を書いたが、おかげで本人の顔をしっかり見て来た。その後、静岡のO氏宅を訪問、「再び」を届け、3時間ほどお互いに近況を話し合った。70歳を越えて、いよいよ元気に、かなりハードな山行を続けられていると聞いた。インドアの自分とは随分違う。

荻生徂徠著の「峡中紀行 下」の解読を続ける。

省吾顧(かえりみ)て曰う、棲雲(寺)の遠に非ざるを知るなり。何以っての故ぞ。詩云わざるや。「白雲生ずる処、人家有り」これを故以ってなり。相笑いて行く果て、寺門を得たり。
※ 「白雲~」- 杜牧の「山行」の詩に「遠く寒山に上れば、石径斜めなり。白雲生ずる処、人家有り。」
※ 杜牧(とぼく)- 中国,晩唐の詩人。その詩は平明なので、江戸時代以来、日本でも愛唱され、特に「江南の春」「山行」は有名。


未だ十許り歩に至らざる、路の左側の小亭、地蔵像を安んず。前に石有り、息壊(やすみいし)と名づく。始め、業海西より帰りて、行々、山水の天目に肖(に)たるものを求め、これに至りて罷(つか)るゝこと甚しくして、石にして以って睡る。忽ち目を開けば一磁椀を見、因って憶う。
※ 業海(ごうかい)- 業海本浄。鎌倉-南北朝時代の僧。臨済宗。中国杭州天目山で、中峰明本の法をつぐ。帰国後、甲斐に棲雲寺を開き、山号を天目山とした。
※ 跌(てつ)- 転ぶ。躓く。


苕源に在りて、その師中峰と約す。天目に遇(あ)えば、輙ち止まらんと。遂に山に登りて四眺す。果して勝地を穫たり。背にする所の中峯像を出して、蘭若を建てこれを奉ず。則ち今の棲雲寺と、土人云うなり。国語、磁椀を天目と為(す)るを以って、伝益するに、空海三鈷の事を以ってす。世俗伝語する所、率(おおむ)ね、この類いのみ。
※ 苕源(しょうげん)- 中国杭州の地名。
※ 蘭若(らんにゃ)- 寺院。精舎。
※ 空海三鈷(さんこ)の事 -空海が、唐から密教弘通の霊地を求めて投げたところ、高野山に落ちたと伝えられる、三鈷の金剛杵の伝説。ここでは三鈷が磁椀となっているが同類の伝説である。


山門を対嶽閣と曰う。影堂を伝燈庵と曰う。背おい来る所の中峯の像有り。豊胖なり。智福の相有るを覚う。哲那環六角に作る。記す、塩山の抜隊の像の衣上なるもの、また爾り。則ち、その時これを尚(とうと)ぶなり。右に業海の像有り。また豊かにして骨少なし。目視望羊然たり。倶に塩山諸師なる者に較べれば、精彩雁行に在るが若し。その晴玉を嵌(い)れざるしての故なり。凡百工巧、中華を精と為す。これ独り然らざるもの、豈物各(おのおの)長ずるところ有るか。抑(そもそも)唐代の遺、これを吾が東方に施すなり。
※ 豊胖(ほうはん)-でっぷりとしたさま。
※ 哲那環 - 掛絡(から)。禅僧が普段用いる、首に掛ける小さな略式の袈裟。及びその袈裟に付けてある象牙などの輪。
※ 抜隊(ばっすい)- 抜隊得勝(ばっすいとくしょう)。南北朝時代の日本の禅僧。臨済宗向嶽寺派の祖。
※ 望羊然(ぼうようぜん)- 遠くを見ているさま。
※ 凡百(ぼんびゃく)- いろいろ。さまざま。かずかず。
※ 工巧(くぎょう)- 手仕事をする人。
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コメント
 
 
 
失礼しました (はぐれ)
2015-05-26 08:20:10
態々来て来ていただいたのにお茶も出さずに失礼しました。
きのさんには自費出版の話など色々お尋ねしたい事があったのに、と気付いたが後の祭りでした。

>インドアの自分とは随分違う。
エッ!きのさんがインドア派?? まさかアウトドア派ですよ。と私は思っています。
尤も最近は超散歩も地元遍路もなさらないようなので、その内インドア派になってしまいますよ。
 
 
 
送った先はチェックしているのですが (きのさん)
2015-05-26 16:43:21
送った先はチェックしているのですが、焼津に行くついでと、早合点してしまいました。突然失礼しました。今のカーナビは随分すぐれていて、お宅の前まで導いてくれます。

また、本日お手紙拝見しました。おそらく、「かさぶた日録」の最も熱心な読者の一人だと思います。近頃は、自分の世界に入り込んでしまい、皆さまにはご迷惑なことだとは自覚しております。

また、今や高価なものを頂き、女房ともども恐縮しております。有難うございました。
 
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