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峡中紀行上 16 九月十日、天守台眺望(3)

(畑のブロッコリーの花)

ブロッコリーは収穫が終り、摘み残った花芽が咲いたものである。

荻生徂徠著の「峡中紀行 上」の解読を続ける。

(やや)低きは鰍沢口の在る所、衆山(山々)左右に富士川を束ねて、これを過ぎて、益々張り、遂に灝瀚汪瀁と成る。両州の人、その山を鋳し、海を煮るの利を通ずることを得るは、これ有るを以ってなり。
※ 灝瀚汪瀁(こうかんおうよう)- 浩瀚汪瀁。水が深くて広大なさま。
※ 両州 - 甲斐と駿河。
※ 山を鋳し、海を煮る - 甲斐の金山と駿河の製塩を示す。それぞれの産物を富士川を通って交易する利を表わしている。。


また右、楢田山、益々これ右にして則ち、農鳥、農午、鳳皇(鳳凰)、地蔵、駒嶽、次第に遞列して、以って北方、金峯と相接するものなり。州、殆んど壺中に在りて天を観る如くなり。その二農(農鳥、農午)の上に巌然たるは、これを白嶺と謂う。これを望めば稜々として畏るべし。窮髪、冬時毎に先ず雪降る。その皎々として草木のこれを翳虧すること有ること莫きを以ってか。これ最も風人の口に藉甚する所以(ゆえん)か。
※ 遞列(ていれつ)- 横へ横へと連なる。
※ 窮髪(きゅうはつ)- きわめて遠くへんぴで草木のはえない土地。不毛の地。
※ 顛(てん)- てっぺん。物の先端。
※ 皎々(こうこう)- 白く光り輝くさま。
※ 翳虧(えいき)- かげり欠けること。
※ 風人(ふうじん)- 風流を好む人。風流人。
※ 藉甚(せきじん)- 評判の高いこと。


その前に皚然たるは、これを三敕使の川と謂う。川流甚だ漲(みなぎり)てあらずと雖も、独り長の、望(ぼう)を弥(わたる)。白砂銀を湧かし、夕陽これに映ず。明月これに借さば、これその奇観ならん。或が曰く、地蔵嶽の霊を発するがために、皇華三度これに臨むと云う。
※ 皚然(がいぜん)- 白々としているさま。白いさま。
※ 皐(こう)- さわ。岸辺。
※ 皇華(こうか)- 勅使。(「三敕使の川」の謂れ)


これより左なる山谷の間に、林木蔚然として黒きを市川の荘と為す。州の最も饒邑なり。これを要するに一目千里、四嶺層々良田、中に闢(ひら)け、皆膏腴なり。
※ 蔚然(うつぜん)- 草木の茂っているさま。
※ 饒邑(じょうゆう)- 豊かな村。
※ 四嶺層々(しれいそうそう)- 四方の嶺が幾重にもかさなるさま。
※ 膏腴(こうゆ)- 地味が肥えているさま。


これを遠くしては、鶴駒その東西に縣し、代棠子午に接す。これを近くしては、篴水左に青龍と為って信駿の駅。右に白虎と称す。国史、所謂(いわゆる)兜巌の邦なるは、豈(あに)信然ならざらんや。
※ 鶴駒 - 都留郡と巨摩郡。
※ 代棠 - 八代郡と山梨郡。「棠」は中国名で「やまなし」のこと。
※ 壌(じょう)- 国土。大地。
※ 子午(しご)- 北(子)と南(午)。
※ 篴水(てきすい)- 笛吹川のこと。(「篴」は笛)
※ 兜巌(かぶといわお)の邦 - 甲斐のことがそう表現されているらしい。
※ 信然(しんぜん)- 本当の様。


省吾と予、耳、その口を提(ささ)げ、目、指に移り随いて、一々応酬して、これ暇(ひま)を弗(と)るなり。然れども、風塵之労、一洗して快と為す。而(しこう)して、眩(めまい)遂に発せず。
※ 風塵(ふうじん)- 煩わしい俗事。(案内してくれることをいう)

夜、三宅氏の謫居を訪う。吾れ鼓盆の後に在るを以って、故に喜び、その悲しみに勝えずなり。
※ 謫居(たっきょ)- とがめを受けて引きこもっていること。
※ 鼓盆(こぼん)- 妻に死に別れること。
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